2009/9/18
早川町は南北に長い町域を持っており、その北半分は早川本流、南半分は雨畑川の流域である。そして、この2つの川が丁字に落ち合う小さな平地に町役場がある。
町の全域が南アルプスの山岳地帯で、産業としては林産と観光に頼っている。
先天的に交通不便な早川町であるが、この一帯のモータリゼーションに先鞭を付けたのが各種の「軌道」であった。
あるものは発電用の工事資材運搬軌道であり、またあるものは林産物を運び出すための森林軌道であったが、大正から昭和30年代にかけてこれらの交通がまず敷かれ、その後に車道へと改修されたところが多い。
県道終点の雨畑集落から、雨畑川沿いを約4km遡ったところにある稲又を通る道は、併用林道の井川雨畑線である。
この道は更に奥地の長畑を経て延々30km余りで県境の峠を越えて井川静岡方面へ通じているのだが、この道の一部もかつては「稲又森林鉄道」であったと言われる。
その一例として、まずは稲又集落の“前門”たる「千島隧道」の様子をご覧いただこう。
千島隧道(読みは不明)の北口である。
この隧道の印象は、人それぞれだろう。
コンクリート製の隧道であることは万人に共通する認識であろうが、目ざとくアーチの飾り模様を見つけて、或いは苔や雨水の汚れを評価して、“味のある歴史的隧道だ”とする人もいるだろうし、逆に気味の悪いみすぼらしい隧道だと非難する人もいるだろう。
地域が誇る隧道というよりは、どうやっても無ければ困る生活の道具。
現役ながらひどく草臥れた姿に私はそんな印象を受けた。
ともかくこの稲又へ近づくためには、こんな感じの風体をした隧道を5本はくぐらなければならない。
そしてこれがその5本目である。
それだけのことだが、こんな隧道を5本というのは、年中生活者にとっては確かに心の負担になりそうだ。
全長は約120mだが、照明が一切無いことと、1車線分の幅しかないせいでかなり長く感じられる。
前後が急なカーブになっていて見通しが悪いので、車で進入する場合には先にクラクションを一度鳴らし対向車の有無を確かめるというのが、この道のローカルルールである。(看板もある)
また洞内には一部、素堀にコンクリート吹き付けだけを施していると思われる区間が残っている。
こんな古風な風体をしているから、林鉄時代の転用隧道かと疑いたくなるが、それは半分正解で、半分は不正解である。
金属製の銘板には、「昭和40年3月竣功」と刻まれており、これは稲又林鉄が全線廃止された翌年である。
林鉄は雨畑集落の南外れ、現在の県道の起点附近に(起点の)土場があり、そこから2本の隧道をくぐって稲又谷沿いの「稲又事業所」に達していた。そこからさらに上部軌道が云々…というのは本編と関係ないので忘れてもらうとして、ともかく雨畑〜稲又間の約4kmの林道の大半は、昭和20年代に敷設されて一時はガソリンカーが行き来した軌道跡に作られている。
そしてこの千鳥隧道ももう一本のよく似た八森隧道も、軌道時代は(おそらく)素堀であったものを、車道改築時に拡幅改修したのが現在の姿である。
それ以外の3本の隧道もまたよく似ているが、それらは軌道とは無関係であったらしい。
ややカーブした出口付近。
車が止まっているところは旧道とかではなくて、工事車両の待避所(駐車スペース)だ。
ところでこれ、“橋梁レポ”だよな?
間違ってないよな?
ご安心下さい。
ここまではバックグラウンドの紹介でした。
隧道を抜けると、すぐに今回のターゲットは現れた。
結構、衝撃的な…橋梁です。
隧道を抜けると眼前には、瓦礫ばかりで水のほとんど見えない稲又谷が広がった。
そして、そこに架かる前後…
というか上下?
…ともかく、2本の橋。
1本は疑いない現橋、
もう1本は、…錆び付いた…。
廃ガーダー!
だが、
この橋の真の凄まじさは、まだ見えない。
1分足らず後、今度は“絶句”する。
近づいてみて分かったこと。
橋は、半分しか残っていなかった。
半分だけ架かっているのは、錆色をしたガーダーの桁である。
主を失った左岸の橋台は虚しく空を突き、右岸にそれに至っては、なぜか全く姿が見えない。
それでも、中央の橋脚から渡された桁が“架かっている”おかげで、地中に橋脚の隠れているだろう事は、想像出来るのだが…。
そんな、ナマヤサシイものでは、なかった。
これは…。
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ナンカ、オカシクナイデスカ?
こ…こんなことが…
現実に起こりうるなんて…!!!
口で表現するよりも、見て貰うのが一番早い。
橋は確かに“架かって”いたのだが、桁は橋脚の上で“ヤジロベエ”を演じていた。
「見に行かれるなら早めがいいと思われ」という言葉の意味は、まさにこれだった。
果たしてこの橋に何が起きたのか?
そして、その正体は??
次回、涸れかけた河原への下降と、禁断の接近を試みる。