ミニレポ第162回 新潟県道477号荒谷竜光線 荒谷狭区

所在地 新潟県長岡市川口
探索日 2011.5.15
公開日 2011.6. 1

マイナーすぎる×狭すぎる 県道



新潟県道477号荒谷竜光線は、長岡市川口荒谷(旧北魚沼郡川口町)と魚沼市竜光(旧北魚沼郡堀之内町)を結ぶ全長約9kmの一般県道である。
この路線の沿道には起点の荒谷と中間地点の木沢(旧川口町)および終点の竜光を除いて集落はなく、標高100〜350m程度の丘陵地帯を通る山岳路線だ。
しかも、木沢から竜光にかけては未だに車道が開通しておらず、不通のままになっている。

だが、今回紹介するのはこの不通区間ではなく、起点荒谷から武道窪に至る区間で、ここを逆方向に探索した。
道路地図でも普通に県道として表示はされているが、しごく細い線で描かれているのが気になっていた。
県道でありながら、おおよそ幹線道路として活用されているとは思えぬ超ローカル路線には、どんな景色が待ち受けていたのか。

おおいに肩の力を抜いて、お楽しみ下さい。


ちなみに、山古志村を中心に甚大な震災を及ぼした平成16年の中越地震(M6.8)の震源地とされる北緯37度17分30秒±18秒、東経138度52分0秒±24秒は【ここ】である。
県道477号は、震央のほぼ直上を通過している。






2011/5/15 8:00 【広域地図(マピオン)】/《現在地》

ここは長岡市川口木沢にある木沢集落南口。
集落は二子山(標高432m)南側の尾根、標高約300mの高原地に広がっており、背景に高い山が見えない事もあって、実際の標高以上に高山然とした空の近さを感じられる。

私は足元の県道71号(主要地方道小千谷川口大和線)を通って信濃川沿いの旧川口町中心部からここまで登ってきたが、目の前の丁字路で右から合流してくるのが県道477号だ。
ここから約200mの短区間、2本の県道は重複している。




前説で述べたとおり、この丁字路から始まる県道477号の東側区間(木沢〜竜光)は不通区間である。
よって右を向くと、ご覧の標識が見える。
オブローダー的には無視しがたいものであり、当然私も挑んだが、その話はまた別の機会にする。

とりあえず今回は無視して直進する。




すると100mほどで、ご覧の青看が現れる。
重複区間の終わりを告げる、県道477号左折のお知らせだが、この時点ではまだ分岐自体は見えない。
それはあと100m先にある。

なお、肝心の県道477号の行き先だが、川口相川と川口武道窪の2箇所が案内されており、一見“ポピュラーな道路網”に組み込まれているかのようだ。
だが、実際にはこの2つの行き先はともに、途中で分岐する県道582号のものである。
県道477号は「川口荒谷」へ通じているのだが、その名はない。




8:02 《現在地》

これが県道477号と県道71号の分岐点であり、かつ県道582号木沢相川線の起点である。
信号も横断歩道もない、集落内にしてはシンプルな交差点だ。

そして左折した道は九十九折り1つで尾根を越し、武道窪側へ下っていくことになる。
どの写真も、空がひたすらに青い。




木沢は名前に反して高台の集落であり、毎日眺めるには贅沢すぎるくらいに景色が美しい。

だが静かなこの集落は、7年前の秋に揺れに揺れた。



前説で述べたとおり、この木沢は中越地震の震央から1kmも離れていない場所にある。

当時川口町であった一帯の震度は、この地震の最高震度である7を記録し、山崩れやそれに伴う家屋の圧壊など大きな被害があった。

おそらくはその名残と思われる壊れたまま補修されたコンクリートブロック擁壁(左)に、地震後に阪神大震災の被災地である西宮市の個人から慰霊と復興への励ましとして贈られた地蔵菩薩像(右)など、美しい集落の所々に地震の痕跡は見て取れた。




他にこんなものもあった。
一見するとただの大きなガレージのようだが、屋根の上に登るとそこが、「木沢 心の駅」なる無料休憩所になっているという変わり種。

今まで色々な「道の駅」亜流(アレンジ)を見てきたが、心の駅というのは初めてだ。
ちなみに一般用の駐車場は近くに無い(下はガレージなのに…笑)
風景を見て心を穏やかにする専門の休憩所である。


…話が脱線した、県道477号を進む。
真に“見せたい場面”は、まだ先だ。






10:36 《現在地》

現在地は武道窪地内の県道477号と582号の分岐地点。
木沢からここまでの約1.5kmは、1.5車線の九十九折りが続く舗装路である。
西側の見晴らしは良いが、道路として取り立てて語ることはない。

そしてこの分岐地点だが、部外者にはえらい不親切である。
道幅や舗装状況では、一見して甲乙を付けがたい2本の道の分岐。
にもかかわらず、青看が無い。
最初から無いのならば構わないが、木沢の交差点には「川口相川」などと案内する青看があったのだ。
だが、その行き先に正しく進むには、これを左折しなければならない。
それは県道582号であり、“道なり”という表現はあたらない。

県道477号をそのまま右折してしまうと、川口相川に着かないばかりか、一部の車両にとっては…とんでもないことに!



ただ、この日は幸いにして運否天賦の2択ではなくなっていた。
県道477号は、さり気なく(本当にさり気なく)「通行止」になっていたのである。
でもこれ、“脇が甘い”ってレベルじゃねーぞ。

そしてこの通行止めの理由が、20mほど先の傾いた「進入禁止」標識の補助標識に書かれていた。
冬期間通行止め」だと言うのである。(この標識は期間外は撤去される?)
今日ここに来るまでにも、谷の中などで一握りの残雪を見てはいるが、とても閉鎖されねばならない積雪状況とは思われない。
ましてこの先の区間は、起点に向けてほぼ全線下り坂だ。
そんな状況にもかかわらず、この冬期閉鎖期間は例年、11月29日から6月中旬まで続くのだった。

通行可能期間は、1年のうち5ヶ月半だけ。
ぶっちゃけ、行政側も全然やる気が無いんだろうな。
出来る限り整備の義務が生じる期間を短くしたいんだろうと思う。



そして案の定、脇が甘いゲートは地元の人々によって軽やかに無視されており、車が進入していた。
しかも、彼らの侵入の目的は正当だといわざるを得ない。
なにせ、沿道には彼らの耕す田畑があり、常識的に考えても6月半ばまで耕作しないわけには行かない。
彼らは当然のように、冬期閉鎖がきれる1ヶ月も前のこの5月半ばには車で現地に入っている。

行政がこれを道路法違反で取り締まることは無いのだろう。

何か変だぞ。

自主的判断で通行はできるが、道路整備不良による事故があっても賠償には応じないという、「自主規制通行期間」のような制度があればいい気もする…。



分岐から入って最初のうちは右山左谷の地形状況で、左側に信濃川が流れる低地帯の広がりを見る事が出来る。
そして、中越地震の震源地は、ほぼこの直下の深さ13kmの地中だとされている。

もっとも、震央だからといって特別な痕跡があるわけではないのだろう。
見ての通り、平穏な山野の風景が広がっている。
何か人が大勢見に来ているような形跡もない。




10:41 《現在地》

分岐から600mほど進むと、細い尾根のうえに降り立つ。
ここまでの道のりはほぼ全線下り坂で、緩急はあるが、この先も起点の荒谷まで下りベースの道が続く。

道路状況はご覧の通りで、舗装は完備されているものの、その幅員はかなり狭い。
概算だが、1.8m〜2m程度しかないだろう。
所々に待避スペースはあるが、その頻度も多くはなく、見通しも良くないので、自分なら自動車では入って来たくない道だ。

特に大型車通行止めなどの規制標識は見なかったが、実際問題として普通車専用である。

…いや、普通車もやめた方が…。




尾根を渡り終えると、今度は序盤とは逆に左山右谷の展開となる。

年の半分以上を冬期閉鎖という名の整備放棄に陥っている道だけに、前年の落ち葉が大量に積もったままになっている。
地形的にはお金さえかければもっと拡幅することも出来そうだが、実際の交通需要としては、こんなもんなのかも知れない。

おそらくは、農繁期と山菜シーズンが重なる今が、冬期閉鎖期間内であるにも関わらず年間で最も通行量の多い時期だと思う。
現に私も荒谷までの約2.3kmで、4台の地元ナンバー車とすれ違った(全て停車中)。




路傍に大きく口を開ける、野辺川源流の谷。
集落のようなものはまったく見えないが、以前はこのあたりまで耕作されていたらしく、段々になった地形や農機小屋らしき建物が見えた。
夏場には、一面背丈以上の草の海になることだろう。

…ここだって、その気になれば新潟産の美味しいお米が採れるんだろうなぁ。




10:47 《現在地》

道が下りベースなのと、ただ狭いだけで長閑な景色が続いているので、展開は早い。
1.5km地点にある分岐地点に到着した。

地図によっては、ここを直進するのが県道のように描いているものもあるが、現地での調査の結果、右折が正解であることが判明。
まあ、舗装されている方を選べば正解なので、難しくはない。
ちなみに、どちらを選んでも最終的には荒谷集落に出ることが出来る。

県道を右折すると、ゴールまではあと900mばかり。
そして、いよいよ伝えたかった景色が近付いてきた!





どうこれ?

グッとこない?

一応舗装はされているけれど、
畦道まんまの、いい加減なひょろひょろ道。

こういうの、大好き。

もちろん、さんざん引っ張ってこれだけということはない。
本題は、この後すぐ。





先ほどの分岐以来、道は尾根の近くを離れて、荒谷集落のある谷底へ向けての一気呵成の下りとなった。

それにともない、しばらく見ることの無かった九十九折りが現れる。
地図上でもその様子は見て取れるが、特段変わった風景を期待してはいなかった。

ぶっちゃけ「没ネタかなぁ」と思いながら起点への最後の下りを味わっていたのだが、

この杉林に入り込む何気ないカーブの先に、

思いがけないお宝があったのじゃ!





既に変だよ。 なんか変。


まず、狭い。

しかもその狭さは、両側にある杉の大木にとても遠慮がちだ。

そして向こうには、見慣れぬ小屋が見えているが…。




「マジか!これ!」

思わぬお宝の出現に、急坂の最中ながら全力でブレーキング!

即座にチャリを停車させた。


え? 何が凄いのかよく分からないって?
待て待て。 これは凄いぞ、実際。








予告無しでこれは酷い。




この状況でも冷静に路肩の白線を敷くとは、恐るべし管理者(県!)。

県道ならば、杉の数本、小屋のひとつくらい、
撤去をさせられなかったのか…。


なお、九十九折りの下の段の道が左に見えているが、向こうは普通の幅だ。



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県道の肩身が狭い!


よし!

ここでいつも通りの幅員チェック、行くぞ!






MTBの全長よりも狭い(舗装された車道の)県道を、初めて見たぞ。

しかも、舗装はそんなに古くない。

普通車なら、例外なく両側の車輪が白線外に出るはず。
これほど、「0.8車線」という表現が相応しいと思える道もない。
しかし、崖にはガードレール代わりに杉の巨木が生えており、
インにはみ出さざるを得ないことになる。
言いたかないが、はっきり言って小屋が邪魔なんだよ!

…県道の立場は、いったい…。




下から、車の音が近付いてきた!
お宝シーンの予感!!
↓↓↓
【動画】








最後に裏切られたぜ…。 ちくしょう…


車がここまで来なかったのは残念だが
(つうか、杉の枯葉の積もり具合から言って、あまり車は通ってないに違いない)

やはり見れば見るほど、狭い道。

おそらく、舗装+白線がなければ、ここまで際立たなかったろう。
(それでも恐ろしく狭い道だという感想は持ったろうが)




杉の木も、えらい可哀想なことになってるし…。

根元が踏みつけられて、樹皮がずいぶんと剥けている。
白線は微妙に木を避けるようにカーブしているが、
こんな微妙すぎるラインを、並のドライバーは拾えないぞ。




10:56 《現在地》

異常な狭さの区間は、わずか20mほどのカーブひとつ分だけ。

それを過ぎれば、もう見慣れてしまった普通の狭路になる。


こちら側にも、特にあの異常な狭さを予告するような標識類はない。
まあ隧道が狭いのは違って、路肩にはみ出しても良い条件ならば、それなりに無理は利くと思うけれども…。
それにしても、ちょっとあれは非道いだろ。

面白すぎだ。




伝説の狭カーブ(でんせつ-の-せま-カーブ)を過ぎてまたしばらく下ると、右の谷底に小さな集落が見えてきた。
そこには2車線の幅を持つ平凡な県道339号小栗山川口線の姿も見えた。

最後まで恥ずかしげもなく狭いまま、この県道の起点が近付いてきたのである。




10:59 《現在地》

案の定この起点でも、県道477号はぞんざいな扱いを受けていた。

県道339号とは同じ3桁県道なのに、扱いが違いすぎる。
分岐の隣に県道339号の頑丈そうなスノーシェッドがある。
そこを守るなら、こっちも守って貰わないと危ない気がするんだが…。

そっか、こっちは1年の半分以上通行止めだから、別に良いのか。
そうだよね。雪への備えは必要ない。




県道477号荒谷竜光線の起点。

当然のように青看無い、信号無い、そしてやる気も無いの「ナイナイ」尽くし。

いくつか標識は出ているが、本当に必要なのは、「この先狭い(幅員1.5m)」ではないだろうか。

それでも一応は律儀に、路線表示標識だけは取り付けられていた。
険道ファンもこれで納得、一件落着。





あれ? トリさんだ。




完結




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