ミニレポ第172回 国道136号旧道 宇久須区間 後編

所在地 静岡県賀茂郡西伊豆町
探索日 2008.02.03
公開日 2012.02.01

小さな廃道から眺めるSF的風景




…行き着いた先は! (前回の続き)




《現在地》

イイネ!

ゾクゾク来る、とても良い雰囲気だ。

手前の浜から直に起ち上がる高い石垣は、まるで青い鱗のようだ。
対して向こう側の路肩は荒磯そのままの岩棚で、両者の対比は目に鮮やか。
しかもその岩棚は、石垣にも通じる独特の青みがかった風合いを見せており、美しい。
宇久須は長らく日本最大の珪石の産地であったが、この岩場の色も関係しているのだろうか。

しかも、萌えのポイントはそれだけではない!


よく見ると…




でなくなっている!

ここには当初、2径間のコンクリート橋が架かっていたのだろう。

だが、国道としての強度不足が懸念されたのか、或いは老朽化の不安のためか、
とにかく橋下の空間を全てコンクリートなどで充填するという、かなりの力業に出ている。

橋にとっては屈辱的な仕打ちだが、そのお陰でこの橋は、廃止になるまで、
すなわち昭和55年まで、荒磯の波飛沫を浴びながら国道たり得たのである。

マジでカッコイイぜ!

…にしても、浜に下りてきて大正解だったな。
そのまま旧道を歩いていたら、100%気付かなかった。




ということで、今度こそ満を持して旧道へ。

この旧道は、キャンプ場によって他の道路から分断された、完全な廃道である。

とはいえまだ舗装が効いているので、自転車で走る分には不自由を感じない。




深田浜を振り返ってみる。

冷たい雨の中、浜には全く人影が見えない。

今日だけ私のプライベートビーチである。




先ほど浜から見上げた岬の突端部分までやってきた。

なんとも凄まじい法面である。
ほとんど垂直に近い法面が、30mくらいも迫り上がっている。
そして、その全体にコンクリートが吹き付けられている。

小石が落ちて来やしないかと、首が自然と上を向く。

…という感じに、この場所での意識は普通上に行く。
だが、私は知っている。
この足元の道が、かつては橋であったこと。
(路肩の欄干は、敢えて橋ではない区間と同じものが使われており、それがカモフラージュになっている)

岩場を削るだけでは不足で、さらに橋まで架けて通り抜けてムリヤリ回り込んでいた岬。
たかだか200m強のトンネル1本で理想的な現道が出来た事を思うと、なんだか複雑な気分。




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“道路”の時間は以上で終わり。




こっからは、“SF” の時間だ。



とうとう来たぜ、“アレ” が目の前に。




でっけぇ!!

西伊豆海岸で最も広いと言われる宇久須の砂浜(海水浴場もある)から、
尋常ではない存在感を持った“何か”が、海上遙か沖まで延びている!!


その行き先、もちろん見たいよね?





ったら滅茶苦茶そうだ!

今にも海上に向けてミサイルを発射しつつ、海面に大量の爆弾を落しそうだ。


巨大施設の上に人影はなく、機械が動作しているような音も聞こえてこない。
今日が休日だからなのか、使われていない施設なのか、このときの私には判断出来なかった。
というか、そもそもこれが何の施設なのかが分からない。

考えてみると、これだけ公然と目立っているにもかかわらず、
全く正体に関する“文字情報”が見あたらないのは、少々奇妙で不気味でもある。

見えているのに実体が分からない、海上にあるもの。

…極度に重量感のある「 蜃気楼 」だ。




《現在地》

やってきました、“反対側”。

案の定、こちら側も有刺鉄線付の鉄柵で厳重に封鎖されていた。

そして、やっぱりこの施設がなんであるかのヒントは無い。ノーヒント。

この巨大施設が無かったとしても、旧道は廃止になっていたとは思う。
しかし、このために宇久須側から侵入する事は出来なくなっている。
だからといって困る人はいないが、人に尽くした末路としては哀れである。




ミニレポだから

「欄干の色がなぜ濃い青色なのか」という“謎”をスルーするのに躊躇いはない。

しかし、

流石にこの施設がなんなのかをスルーしたら、皆さんが今夜のカレーライスを美味しく食べられないかも知れない。

なので、

現地では本気で最後まで分からなかったが、WEBでの「宇久須」「巨大」「桟橋」などの複合キーワード検索で判明した正体を明かそう。

はい。

この施設の正体は、







スペースシャトル発射場。





ではもちろんなくて、砂利専用の積み出し施設だそうだ。

陸から伸びている部分はベルトコンベアーで、先端の“爆弾を落しそう”な部分から、砂利運搬船に砂利を落す(積み込み)をする施設だそうだ。

なんでも、京浜地方での砂利採取が各種規制で難しくなったために、少し前まで珪石を採掘していた宇久須などに、砂利供給地として白羽の矢が立っている事情があるらしい。

そして更に驚くことに、これだけの巨大施設が、仮設のものであるらしい。
平成16年8月頃に完成し、翌17年12月頃から稼働を開始。
平成21年頃に稼動が終了した(私の探索した当時はまだ現役施設だったことになる)後もしばらく放置されていたが、
平成23年内に撤去された そうである。

で、この施設が運び出していた砂利がどこへ行ったかというと、それも調べが付いている。
東京国際空港(羽田空港)に新設された「D滑走路」(平成19年3月着工、22年10月供用開始、全長3120m)の埋め立てに使われたのだ。

以上の情報源: 伊豆ネイチャーガイドの独り言東京空港整備事務所(このPDFの一番下に施設の風景あり) ほか



“SF的風景”のFはフィクションではなくファクト(事実)であったわけで、景観を含めた環境破壊など、地元ではかなり批判の多い施設だったようだ。

海路、空路、陸路(道路)の全てが、概念的であれこの小さな旧道に収斂した事を思うと、少しだけ感慨深い。

私としても、先人の労力が結晶した“小さな廃道”が再び自由になった姿を、また確かめに行ってみたい。

そして今度こそ、完抜を果たしたいものである。



【完結】



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