ミニレポ第179回 いすみ工業団地の未成道 

所在地 千葉県いすみ市
探索日 2013.02.01
公開日 2013.03.27

空虚。 挫折した工業団地への道


2013/2/1 17:04 【所在地(マピオン)】

先日、房総での探索の帰り道で薄暗くなった いすみ市内を走っていると、こんな分岐に出くわした。

色々とつっこみたい部分があるのだが、まずは左へ分かれていく道が幾らも行かずにガードレールで塞がれていること。
そして塞がれるまでのわずかな余地(交差点の一部である)が、現役のバス停として使われているということ。
さらにこのいすみ市シャトルバスのバス停名が、「工業団地入口」であることをチェックした。

この場所はいすみ市役所から国道465号と広域農道を走り継いで14kmほどの山間部で、鉄道の駅も遠く、はっきり言って広域農道以外に幹線道路はない。
いや、そもそも工業団地を名乗るものが「農道」と名付けられた道だけからしかアクセス出来ないというのは、いかにも不釣り合いというか、歪な開発を感じさせた。

そしてその歪さの答えが…



← この眺めと言うことらしい。

う〜〜む。

納得せざるを得ないな…。

工業団地の入口にポツンと立つ、小さなポストがまた侘びしい。
いったい誰向けのポストなんだろうか。
ポスト→公衆電話→郵便局→コンビニ と、成長することも出来ずにいる。

そもそも、真っ当な工業団地が開発されていれば、最寄りのバス停が「入口」止まりというのもおかしな話で、当然敷地の中にもバスが走って良いはずだ。
バス停の名前は工業団地の開発を先取ったが、実際の開発はどういう状態になっているのか…

見に行ってみよう。



当分どかすつもりが無さそうな、ガードレールとコンクリートでこしらえられたバリケード。
それは幅広な歩道部分にまで設置されているが、少なくとももう少し奥まで車が出入りしていた時期があるらしい。
それは、「バス停」とペイントされた白い枠が2台分あることから分かる。

よく分からないが、以前はバスがそこまで入っていたのだろう。
しかし、いちいちバックしながら入っていたのだろうか。
この利用客の少なさそうなバス停で、なぜそのような手間のかかる運用をしていたのか不思議である。




大型トレーラーも楽に通行できそうな幅の広い2車線道路が、500mほど先の掘割に消えるところまで見えていた。
全体が大変緩やかなスロープになっており、路面には凍り付いたようなアスファルトが敷かれていた。

そして右の歩道と車道の間には、おそらく自然との共生を謳ったであろう帯状の緑地があったが、今は雑草地である。
また左の歩道は舗装する事をなぜか断念しており、今は枯草地だ。 この全体がひたすらに空虚だった。



確かに工業団地の入口って、大抵こんな道である。
典型的な眺めだと思った。

現在時刻は午後5時の終業時刻をややまわったところだから、ここにあるべきシーンとしては、疲労と安堵がない交ぜになった老若男女が、規律ばったスロープから、束の間の幸せへ解き放たれていく…。 そんな活気ある光景が展開していて良いはずなのだが、現実は厳冬2月午後5時の夷隅丘陵、そのまんまの寂しさだった。




向かって左側の緑地帯に植えられていた、サクラか何かの木の苗。

もう少し成長している苗もあったが、既に枯れ果てているものもあった。
この苗は両者の間くらいの状態で、苦しそうな感じだった。
植えられていたというか、餓えていた。
根本が寒い。

「いすみ工業団地」の完成予定パースには、こんもりと茂った両側の街路樹が描かれていたに違いないと思えるだけに、侘びしさもひとしおである。




17:09

作られていたのは、これだけ!

「工業団地入口」

という名のスロープ…

だけだった……。




このスロープの先に造成が計画されていた「いすみ工業団地」は、千葉県企業庁地域整備部が内陸工業用地造成整備事業として進めていた四ヶ所の内陸工業団地の一つであった。

同工業団地のスタートはいすみ市が誕生する前の平成2年であり、約9億8000万円で土地を取得。約45ヘクタールの開発用地を見込んでいたが、その後の経済情勢の悪化から企業の立地実績はなく、この進入路の一部が建設されただけで、土地の造成にも着手されなかったという。




いすみ工業団地の他の内陸工業団地は、左図の@「松崎工業団地」、D「館山工業団地」、F「袖ヶ浦椎の森工業団地」であった。

このうち「いすみ」と「袖ヶ浦椎の森」は「東京湾アクアライン」(平成9年開通)の開発効果を強く当て込んだものだった(企業庁サイトには「東京湾アクアライン等の幹線道路網の整備による、産業立地ポテンシャルの高まりを生かした新たな産業拠点の形成を図り、地域の振興及び活性化を目指す」とある)が、後者は当初計画の3分の1に過ぎない第1期分譲のみで計画を終了している。

そしてこの「いすみ」はもっと状況が悪く、事業開始からちょうど20年が経過した平成22年に、県はとうとう事業中止を決定しているのである。




それでは、このせっかく作った約500mの進入路は、このまま未成道として放置されるのだろうか?

これはまだ分からない。

というのも、平成24年3月6日の千葉日報に、「未造成の工業団地用地 県企業庁から無償譲渡 いすみ市大規模公園整備へ」という記事が掲載されたからだ。
記事によると、平成22年に工業団地計画が中止された後、用地が企業庁からいすみ市へ無償譲渡されており、いすみ市ではここに「将来、市内最大の公園「いすみ里山公園」として整備」することや、「公園を軸に近隣の体験施設と連携した周遊コース設置にも意欲を見せ」ているというのである。

果してこの凍てついた未成道に賑わいの日は来るのか。

一度は工業用地として破壊される決定がなされた里山は、特に天然の名所があるわけでもない事を公言してしまっている。
それだけに、この地で集客力の高い開発を行なう事は容易ではないと思うが、今後の動向が注目される。



【完結】



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