ミニレポ第194回 和歌山県道802号太地新宮自転車道線 前編

所在地 和歌山県那智勝浦町
探索日 2013.11.18
公開日 2014.06.12

建設休止となって久しい大規模自転車道


先日、【このあたり(マピオン)】を自転車でうろうろしていたとき、別件の情報収集のためにお話しを伺った土地の古老から、事前情報になかった未成道の情報を得た。

なんでも、この近くで数年前まで立派な自転車専用道路を作っていたが、トンネルを1本完成させた後で建設中止となり、行き止まりのまま放置されているのだという。

ピキーン!!

こういう情報を待っていたぜ!!

入口の場所を教えて貰った私は、日没が間近に近付いているのも無視して、現場へと自転車を猛進させたのだった。

考えてみれば、これだけ自転車で探索してきたにも関わらず、自転車道の探索をレポートしたことは無いかも知れない。山行が初!サイクリングロード(未成)・レポート?!




2013/11/18 16:46 

ここは紀伊半島の南端に近い和歌山県那智勝浦町の湯川駅付近だ。
私がいる道路は国道42号で、左に見える線路は紀勢本線、その向こうは熊野灘である。
線路と海の間にはまるで廃駅のようなホームが見えるが、かつて海水浴客などで今よりも駅が盛況だった時代があるのか、長編成列車向きの大変長いホーム端部が草むしているのである。

リゾート開発の夢のあとを思わせる、未成サイクリングロードを目指す旅の始まりだけに、こうした衰微を思わせる景観にはやや過剰に反応してしまった。
しかし、見ての通り既に夕暮れが迫っていて、“黄昏の道”を巡る前に、物理的夜闇が探索の強制打ち切りを宣言しかねない状況である。
さっさと、教えられた場所へ向かう事にしよう。




情報によれば、なんでもここ(湯川駅)から国道42号を太地(たいじ)方向へ向かい、3本のトンネルをくぐった先にある「グリーンピア」入口交差点の向かい側に、その建設中止になったサイクリングロードの入口があるのだという。

なお、建設が中止された理由や時期も質問したが、予算が無くなったからではないかという曖昧な答えであった。

しかし、これはレポートの最後にて解説するが、この建設中止となっているサイクリングロードは、実は歴とした県道に認定されている。
路線名は一般県道802号太地新宮自転車道線といい、和歌山県に4路線ある一般県道の自転車道路線である。




上の地図を見ても分かるが、湯川駅から南へ向かう国道と鉄道は仲良く並走し、連続して3本のトンネルがある。
写真は2本目に現れた大浦隧道であるが、完成は3本とも昭和41年で、姿形も酷似している。
見ての通り歩道が無く、紀伊半島最大の幹線道路である国道42号ということで大型車の通行も多いので、歩行者は肩身の狭い通行を強いられる。
計画されていた自転車道は、この区間の国道を迂回するものであったとのことで、完成していれば普通に有り難がられただろう。年間を通じて、この道を走るサイクリストは多い。



16:51 《現在地》

湯川駅から1.3kmほど走った所で、情報のとおり信号のある交差点が現れた。
鯨浦という交差点で、この丁字路を右折すれば、平成15年に営業を取りやめた国営大型保養施設グリーンピア南紀の跡地である(現在は民間の保養施設になっているようだ)。
交差点にも直前までは全く感じられなかった南国リゾートのムードが色濃くあった。

…湯川駅のロングホームに次いで、早くもふたつめの“祭りのあと”を見た気がしたぜ。

そしてここが、問題のサイクリングロードの入口であるとのこと。

丁字路とは反対の海側にそれはあるというが……。




な ん か あ る。

ゴミ置き場で見るネットのようなもので、いかにもやる気無さげに封鎖された 橋 が。

吸い寄せられるように、近付く。




 そ の 名 も 

グリーンピア跨線橋

グリーンピア事業については、私も全然詳しくないのでwikiなどの情報を見て頂きたいが、将来の高齢化社会を念頭においた理想的保養施設として、全国13ヶ所が昭和50年代後半から60年代にかけて、厚生省による国営の事業として整備された。
全国的なリゾート開発ムードに後押しされた計画でもあったが、その多くは開業当初から赤字経営に陥り、平成13年に平成17年までの全施設廃止が閣議決定したものらしい。
ちなみにグリーンピア南紀の開業は昭和61年で、廃止が平成15年なので、20年足らずで閉鎖されたことになる。

なお、これは思い過ごしかも知れないが、銘板そのもののデザインや字体が、同じく国の事業である(日本道路公団時代の)高速道路に架かる跨道橋の銘板にそっくりな気がする。



グリーンピア跨線橋が跨いでいるのは紀勢本線の単線の線路である。
並走する国道と紀勢本線の間には2階建てくらいの落差があり、跨線橋は国道の路面と同じ高さで線路を跨いでから、線路と同じ高さにある海岸そばの地面へ降り立つという、一方高の構造になっている。
ちなみに、下降する部分は普通に階段なので、橋自体はサイクリングロードではない(ここに来てその事を知った)。

銘板によれば、跨線橋は昭和61年2月の竣功で、グリーンピアの開業と同じ時期である。

前述の通り、跨線橋は簡単に封鎖されていた。
しかし、コンクリート製の橋自体は壊れているわけでもなく、表面の塗装が古びてはいたが、欄干を含めて、まだまだ頑丈そうであった。
私は、この先に自転車道があると信じて、自転車を跨線橋に持ち込んだ。




橋上の眺め。
北の湯川方面を見ている。

足元には赤錆色の紀勢本線が横たわり、その右側には、問題のサイクリングロードと思しき1車線弱のアスファルトがうねうねと続いていた。

眺めの中に、人の気配がまるで感じられない。
日没とは真逆の方向にある海面は凪いでいた。
そして海上の空と等しく微かな赤みが灯っていて、風景自体は綺麗といえるものだった。

ただ、始終もの凄い侘びしさが足元から湧き上がってくる感じがあった。
本来は、もう少し賑わうべき場所だっただけに…。




跨線橋は、同時に跨道橋でもあった。

線路と一緒に自転車道をも跨ぎ、その先で錆の散らかった階段で地上に降りる。
そして降り立つ先は、自転車道とはフェンスで仕切られた、どこかミステリーサークルのような園路。

園路の周囲は公園だったようで、数年前までは綺麗に刈り揃えられていただろう芝生の原っぱがあり、そこに何本かの街灯もあった。
無論、灯ってはいない。



16:53 《現在地》

国道を走る車の音は良く聞こえるが、それでもちょっとした別天地や隠れ家を思わせる隔離感がある。
リゾートという看板を掲げるには、これも良い演出であったろう。
普通の公園のように子供たちがはしゃぎ廻るイメージでは作られていない。
ここにはあらゆる遊具がないし、あるのはスッキリした空間と、素晴らしい海の眺めだけだった。





………ふぅ…。




黄昏れている場合ではないぞ! トンネル探せ。



自転車道と海の入江の隙間に作られた小さな公園だったが、水飲み場と小さな建物があった。
管理人室と公衆トイレを組み合わせた建物で、前者は封鎖されていたが、グリーンピア南紀との関係を示す張り紙を見つけた。
トイレは塞がれてはいないものの、やはり管理はされていなかった。水も止まっている。

これらの施設はグリーンピアの一部として作られたもののようだが、自転車道利用者の利用も考慮されていたことだろう。




あった。

管理棟裏手の薄暗い山際へと進むと、そこに真っ暗なトンネルを発見。

自転車道は確かにこのトンネルをくぐっていた。




次回、闇の奥。




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