その69主要地方道32号線 軽井沢峠 後編2004.8.19撮影
秋田県矢島町〜東由利町 



 空からは、叩きつけるような大粒の雨が落ちている。
時刻はまだ午前7時前、このような早い時間に豪雨があることは、珍しい。
遠くで数度、雷鳴も谺していた。

道の方は、流石に写真撮影の頻度を落とさざるを得なくなってきた。
もう、カメラをポシェットから出すだけで、濡れてしまう。構える手もビショビショなのだから仕方がない。
しかも、ポシェットは昔から壊れて口が半分開いてしまっているから、雨合羽の裏になるように気をつけてはいても、容赦なく水滴は中にも落ちている。

写真の深い切り通しカーブに達した時には、カメラの起動が明らかに遅くなっていた。
もうそろそろ、撮影できなくなる前触れだ。
愛機が、いつも、こうなってから停止するのを私は知っていた。




 間もなく、稜線に寄り添うように勾配が緩まる。
峠も近い。
ここからは、向かって左に通行止の林道が別れており、ゲートの向こうは稜線上に繋がる沼山の山頂を経て、軽井沢集落にも戻れる周回路のようであるが、生粋の林道であり未達成である。
この分岐傍にも、秋田県オリジナルの県道構造物であるキロポストがあった。
峠区間に入る直前のヘキサ標識以来、県道らしいものといえば、この点々と一キロおきに現れるキロポストだけだ。
だが、この存在は、秋田県内の県道を走る時には大変に心強いものだ。



 そして、この写真からカメラを交換している。
この日は、なんと予備のカメラを装備していた。
以前、メーンの「FinePix F401」の他にも、ケータイカメラ(130万画素)を併用し、そのおかげでなんとか撮影を繋ぐことが出来た“メディア忘れの”宇津峠の例もあったが、デジカメを二台持ち歩くようになったのは、これが初めてであった。
いわば、無謀にも雨の中に漕ぎ出したのは、このカメラのテストも兼ねてのことだった。

通販で買った「防水パック」なる得体の知れぬビニールケースに入れて持ってきた為に、期待通り乾いている予備カメ「FinePix 1300」(130万画素)であるが、当然防水品ではなく、ただ中古屋で3000円と安かったから予備に買っただけであった。
これも濡れれば、それで私の撮影手段は失われるのだ。
幸いにしてここで雨は小康状態となり、以降、雨はほとんど降らなかったけれども。

ちなみに、先のカメラケータイも、この時点でのメーン機サブ機のいずれとも、2004年10月現時点で、お亡くなりになって久しい。
全て死因は、溺死だ。
デジカメも、使い捨てなのか…シクシク。



 そして、驚いたことだが、峠も近い平坦に近い部分に差し掛かると、舗装の上、しっかり2車線になっていた。
これは、この3年間での進捗と言えるだろう。
おそらく、3年前も路盤はあらかた出来上がっていたが、未舗装のままだったように記憶している。
峠に近い場所から改良するというのは、地方県道などではよく見られる景色のようだが、現在では放置プレーが始まっているムード。

そして、さも当然であるかのように、100m程度であっけなく未舗装に。
峠はまだなのに…。



 と思ったら、再び見違えるような舗装路が出現。
この間、200m以内で舗装・未舗装・舗装と交互に現れている。
今度の舗装区間は少し長いのか、杉林を割って見渡す限りは続いている。
その視界は雲霧の類に隠れており、たいして利かないのだが。

路傍には、滾々と湧き出す泉があり、汲みに来る人もいるのかも知れない。
一見謎の「泉」という標識が、ちょこんと設置されていた。
この標識の造りは立派で、まるで県道の備品のようだが、果たして県道にこんな中途半端な「泉」などという案内が必要な物かどうか…。
地元有志の設置と見たが、奇妙な違和感を持った標識である。

このすぐ先には、やはり杉林に県道へ面して「御成婚記念林」と彫られた立派な石柱が立っていた。
まわりの杉林は成木であり、かなり古くからここに林道として車道が通っていたのだろうと思われる。
主要地方道に指定され、舗装された今でも、通行量は皆無だ。




 結局今度もカーブを一つ曲がると砂利道だった。
ここから先は、3年前と何一つ変わらぬ整備状況だった。
路盤は完成しており、側溝等も出来上がっているが、砂利のままで、しかも通行量が少ないから、1車線分の幅を残して、あとは砂利が苔生し始めている。
峠付近のこの稜線直下の道は、改良しやすかったのだろうか?
それとも、まずは険しかった峠部分の改良を急いだものか。
矢島町市街から全線を2車線舗装路にするつもりなのだとすれば、通行量を考えたら無謀だ。



 もう何年も使われていない路肩部分。
センターラインが無いわけで、たとえ2車線の幅があっても、少ない往来は全て中央の轍を通っているのだろう。
道路交通法的には、センターラインが無くても、左寄りを通らなきゃ、だめだよね??

何とももの悲しい、開通しているのか、不通なのかよく分からない県道である。
誇りある県道ならば、こんな状態は「工事中で危険なので通行止」だと思うが、ここまで工事はしたものの、もうどうにも予算が下りなくなったのだろう…。
少なくとも3年以上このままだし、3年前も、やはりこんな感じだったような気もする。
僅か200m程度、舗装区間が伸びていたのは、驚いたけど。




 そうかと思え、ほんの50m程度だけ、本来は旧道になるはずだった屈曲部がそのまま利用されていたりもする。
どうも、旧道敷きを中心に拡幅改良する部分は路盤まで施工済み。 新道建設部分については、わずか50mといえども、取りかかっていない様である。
おかげで、不可思議な道になってしまっている。
これも、3年前から進歩のない点だった。



 で、ふたたび無駄に広い砂利道に。

いよいよ峠が近く、少しきつめの登りが現れた。
ラストスパートだ。




 そして、峠直前の100mが、未改良のままの林道じみた道に戻り、ひときわ高く峠に至る。

この部分には、山側を大規模に削って切り通し(まさかトンネルはあるまい)にするか、谷側に架橋せねば、期待通りの2車線舗装路は造れないかも知れない。
おそらく、もうこの町の財政にそんな余力は無さそうである。(あってもここに注ぎ込むべきでないという意見もあろう)
間もなく東由利町との境だが、ここはぎりぎり矢島町だ。

東由利側は、地形も異なるのだろうが、また違った姿を見せてくれる。



 そしてこれが、軽井沢峠と呼ばせて頂いている、無名の県道峠である。
時刻は、午前7時18分。
雨雲が俄に切れ、隙間から透き通るような青空が見えた。

本来ならば、この峠は霊峰鳥海を眺望する、絶好の展望台である。
この正面の辺りに、空を圧迫するほどに大きく広く突き上げる鳥海の峰が、見えていたと記憶している。三年前は。

記憶は、美化されているかも知れないが、素晴らしい眺めだったことだけは確かなはずだ。
この道が全線改良された暁には、きっと町で愛称を募集したりしそうだが、「富士見峠」とか付きそうな予感?!




 未舗装のままの峠には粘土層の露頭が露出している。
その先は、僅かな平坦部の先、一気に下りに転じる。
標高のわりに地形は険しく、この先の下りは急である。

東由利町へと、下って参ろう。





 下り初めてすぐに、3年前との変化に気が付いた。
舗装が伸びてきていたのである。
ただし、東由利町側は、矢島町側とは異なり、身の丈を考えた現道舗装改良に留まっている。
無難すぎて、ネタにはならぬ道だが…。
とにかく、たった3年で、すっかり麓まで舗装され尽くしていたのは、立派だった。
この調子ならば、矢島側だけに未舗装が残るようになるのも、遠く無さそうだ。

 広いけど未舗装の道と 狭いけど舗装の道

どっちがいいですか?

なんて、随分昔流行った「究極の選択」みたいだ。
わたしならば、後者かな。(遊ぶには前者だが、通うなら後者だな)


 鳥海山とは逆方向の視界が、めくるめく九十九折りの下りから遠望できる。
否が応でも、眼前は全てこの景色である。
陰雲沸き立つ出羽丘陵はドングリの背比べたち。
しかし、気が付けば雨雲は北へ急激に流れ去り、大分空は明るく、高くなってきた。
天候改善の予兆だ。





 真新しい舗装から、新しい舗装、三年前も既にあった舗装へと、だんだん古めいてくるが、ちゃんと麓まで狭くて急な舗装路が続いている。
とにかく、地形を最大に圧縮したような猛烈な九十九折りがひとしきり続く。
ブレーキが弱まった私のチャリでは、停止できぬほどだ。

前は、これを上って矢島町へと超えたんだっけ。
あまり記憶にないが…。




 ちらりと木々の下に民家の屋根を見たと思ったら、いきなり道がブルーシートに覆われているのに出くわした。
もちろん、通行止。
そういえば、通行止の告知が出ていたっけな。
みたところ、路肩が少し滑り落ちたみたい。
まだ復旧工事の序盤の段階で、ちょうど麓側に一台のバンが停まり、そこから二人の測量士が測量機を手に働いていた。
幸いにして、まだ重機の搬入はなされておらず、私も無言で通してもらえた。
スンマセン。
午前7時過ぎからお仕事とは、難儀なことです。




 そして、すぐに分岐点が現れた。
左に降りていく道は、さっき見えた須郷集落へ至り、さらには丘陵地を超え国道107号線の大琴へ続く町道だ。
正面が県道で、おおよそ4kmで主要地方道34号を巻き込み、さらに4kmにて東由利町役場にも近い舘合で国道107号線に合流終点を迎える。
この先は、2車線の相変わらず通行量は少ない舗装路になっており、郷土の山として親しまれる八塩山いこいの森が近い。





 そして、これが分岐を振り返ったところ。
小さな青看が設置されており、峠側には「矢島」と示されていた。


今回の紹介はこれで終了だ。
仮称:軽井沢峠は、別に名前があるでもない、代わり映えはない丘陵地帯のいち峠だが、車道時代になっても、どうにも中途半端なままだ。
需要の少なさに任せ未だ未舗装が残る。
そして、峠を挟む両町で、全く異なる建設手法が採られている。
いつの日か完全改良をもくろむ、途中に集落などもある矢島町側。
途中集落はなく、峠に至るための“一応の道”と割り切っての改良に留めた東由利町。

地図によっては県道の色が塗られていなかったりするが、キロポストは点々と設置されており、この状況で県道には間違いない。

このくらいのすこし変わった峠ならば、あなたの県にもきっとあるはず。
地図で予想して、探してみるのも、面白いだろう。



2004.10.15作成
その70へ

前編へ