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 廃線レポート 抱返り渓谷(生保内林用手押し軌道)
2003.4.29




 今回紹介する抱返り渓谷とは、雄物川最大の支流である玉川中流域にある、全長7kmほどの渓谷である。
大小さまざまな奇岩や瀑布が点在し、特に玉川独特のエメラルドグリーンの水面と、秋の紅葉のコントラストは、県内外にもファンが多い。
そんな抱返り渓谷であるが、実は、多くの人が訪れる見返りの滝などはその序盤に過ぎない。
かつての森林軌道跡に設置された遊歩道はその先にも通じており、実際、角館から田沢湖町まで玉川沿いを辿ることも可能である。
…可能であるが、歩くには余りにも長く、また危険な為、一般的には知られざる道である。

 本来の山チャリの舞台とは少し異なるのかもしれないが、森林軌道跡ということで、余り極端なアップダウンや階段はないと考え、この角館〜田沢湖町間の約30kmの道のりにチャレンジした。

 以下は、その記録である。
図らずも、隧道、廃道、林道、その全てを網羅することとなった。

 

 
角館町舟場 廣久内橋
2003.4.17 9:35
 みちのくの小京都と名高い角館の中心地から、県道257号線の終点まで長閑な田園地帯を6kmほどで、県道50号線に突き当たる。
ここを左折するとすぐにこの橋がある。
昭和37年竣工の廣久内橋は、よみ通りあまり“広く”無い橋である。
下を流れるのは、これから嫌というほど戯れることになる玉川だ。
いままさに雪解けシーズンのピークであり、水量はマックス!
上流にはいくつものダムがあり(4つもあるよ)、水量は安定しているというが、軽く恐怖を感じるほどの水量だ。

 この橋を渡ると、そこが今回のレポートのスタート地点だ。

 この分岐点を左折すると、抱返り渓谷へと向かう。
県道は右折で、このさき真昼山地の形成した広大な扇状地群を越えて、はるばる六郷町で国道13号線に合流する。
じつは、未だここから先は未実走であったりもする。

 ま、それはさておき、いざ左折である。

山伏石
9:46
 正面に写る、雑多な木々が絡みついたような巨石が山伏石である。
ここには、山伏と巫女の悲しい言い伝えがある。
しかし、むしろ私にとって気になるのは、次の写真である。

 山伏石の真下にトンネルが?!

 じつはこれ、県内の水利シーンではちょっと有名な田沢疎水という、とびっきり規模の大きな用水路用に掘られた隧道なのである。
この水路の行き先は、主に千畑町や太田町など仙北平野全体に及ぶ。
この仙北平野とは、 雄物川、玉川、丸子川など、奥羽山脈から流れ出る諸河川によって形成された、複合扇状地扇状地なのだが、川が伏流してしまって農業するにも生活するにも、昔は水不足が深刻だったそうな。
豊富な玉川の水を運んでこようと、田沢疎水の計画が始まったのが、昭和12年。そして、その一部が利用され始めたのが昭和36年というから、大変な難工事だったらしい。

 それだけ大切な水路だけあって、たとえ地域で大切にされてきた「山伏石」ですら少しの迂回も許さず、その足元を穿たれてしまったのだろう。
また、立派な銘板も付いていて、そこには、『山伏岩暗渠 昭和47年12月竣工』とあった。
…隧道ではなくて、暗渠でした。

 そして、私がこの暗渠に見入っていると、何かが道の先から近付いてくるではないか。
その姿は、紛れもなく ニャー  である。 首輪してるし飼いニャー か?
そして、橋の上にいる私に一瞥をくれたが、逃げるどころか立ち止まりもせず、脇を横切ってスタスタと集落のほうへと歩いていった。
でも、最寄の集落からは、もう2kmくらいは離れている。
なんか、凛々しいぞ。

 不思議な ニャー だなー。
まるで、脇目も振らず住みかへと戻ってゆく姿は、われわれ仕事を持つ(真面目な)現代人の様でもある。
ニャー の世界も、結構忙しいのかなー?

 抱返り神社と神の岩橋
9:54
 から約4km、ここまでは1車線ながら、十分な舗装路。
玉川からは付かず離れず、むしろ田沢疎水がすぐ傍に寄り添っている。
そして、この小さな橋で水路を渡ると、いよいよ渓谷の入り口である、抱返り神社の駐車場が現れる。
 そこには、目立つ吊橋が一本玉川に架かっており、昔から絵葉書などでは、ここの景色が良く使われていた記憶がある。
この吊橋の名は、神の岩橋。
大正15年の竣工と、県内に現存する物では最古の吊橋である。
大層立派な名であるが、由来は、この橋が結んでいた旧神代村(現田沢湖町の一部)と旧白岩村(現角館町の一部)の頭文字をとったのだという。
 もともとは、国鉄生保内線(現JR田沢湖線)神代駅から、抱返り渓谷や、更なる奥地である夏瀬渓谷の森林資源の利用のために、峡谷沿いに伸びていた手押しの森林軌道が利用していた橋である。
最近、塔の部分が一新され、余り風情や古さは感じられないが、それもまた存続の為には止むなしか。
 下から見上げると、基礎の部分の石垣に、その歴史を垣間見ることが出来る。
この橋、自転車で渡ってみたが、たいして揺れもなく、さすがは重い材木を満載したトロッコに耐え続けただけはある。

 橋の袂を脇に見て駐車場の奥に進むと、いよいよ遊歩道の入り口がある。

 そこには、かなり古びて半ば判別不能になった観光地図看板と、
「自然歩道に付き、自転車・バイク、乗り入れ禁止」という無慈悲な看板が。
それと、最近取り付けられたらしい「倒木の為通行不能」の立て札も。

 これは、まぁ。
受け流しましょう。
茣蓙の石
10:05
 躊躇うことなく、狭い歩道に進む。
どうせ、人影もまばらである(駐車場には2台くらい車が停まっていた)。
自転車で立ち入っても、歩行者との出会い頭の衝突さえ気を付ければ問題はあるまい。
倒木も気にはなったが、だいぶ前から、荒れているような話は聞いていたし、まあ、春先だしある程度は仕方あるまい。

 未舗装ながら、良く締っており、またアップダウンも少なく走りやすいと感じられる遊歩道を、快調に進むこと3分。
早速、渓谷で初めの景勝地といえる茣蓙の石の奇岩が、目に入ってきた。
これは、ご覧のように河原一面に、畳何十畳分もあるような平べったい岩が点在する景観だ。
しかし、私は観光に来ているのではないので、観察もそこそこに、先へ進んだ。

 道路状況はこんな感じ。
事前に聞いていた情報よりも、そして、入り口の看板から予感された状況よりも、道は非常に良い。
これならば、意外に容易く、そしてスピーディに田沢湖町まで抜けられるかもしれない。
退屈で単調な国道46号号線の角館〜田沢湖町間のエスケープルートとして、使えるかもしれないな。

 そんなことを、この段階では考えていた…。

隧道跡
10:08
 快調に進むこと、さらに3分。
なにやら、道の真ん中に小さな重機が停まっている。
あたりに人の気配はなく、どうやらその前方の真新しい崩土を寄せる作業中に、放置されてしまっているらしい。
まあ、ここはあくまで遊歩道であり、私のような通行者は想定されていないので、道を塞ぐこいつに文句はいえない。
しかし、早速現れた崩土に、浮かれ気分が醒めるのを感じた。
とりあえず、ここで一休止をとる事にして、自転車を降りた。
 足元は、切り立った崖。
その下には河原といえるのか、木々に覆われた少し平坦な場所があり、さらにその脇を玉川の清流。
ここまで、漠然とだが、かつて軌道が通っていたにしては歩道は、余りにカーブが多く、そのカーブも鋭角過ぎるような気がしていた。
で、もしかしたらと思って、下の平坦部を良く見てみると…。

 穴を発見。
しかし、そこへたどり着くにはこの目の前の崖を降りなければならず、しばし悩む。
結局、リュックを置いて身軽になった私は、木々の根を足がかりに、ほぼ垂直の崖を下ってしまった。
戻るのが大変そうだ…。
 そこは、崩れ落ちてきた土砂や倒木、それに伐採で生じたらしい木屑・枝屑などに埋もれ、軌道のあった痕跡は消えうせ、平坦に見えた場所も、実際はそうではなかった。
それでも、明らかに、人為的に掘られたであろう隧道が目の前にある。
余りにも河床に近いのが、怪しいといえば怪しいが、やはりここが真の軌道跡ではなかろうかと思う。
 はっきり言って気は進まなかったが、人の入れるスペースがある以上、入らねばなるまいかと、一応進入。
中は、全く洞床が見えないほどに瓦礫に埋もれている。
そのせいか、立って歩ける高さはなく、這い蹲って進む感じだ。
これじゃ、まるで鍾乳洞の探険じゃないか…。
でも、外に落ちていた倒木とは明らかに異なる太い木材が散乱しており、支保工の跡であろう。
 5mほど立ち入ったところで、残念ながら断念。
命綱である懐中電灯を、遥か頭上のリュックの中に置いて来てしまったのが直接の原因だが、ものすごい水滴の洗礼に嫌気がさしたというのもある。
まるで夕立の中にでもいるかのような、逃げ場の無いシャワーだ。
さらに奥は、左側へと蛇行しており、出口は見えなかった。
地形的にせいぜい20mくらいの隧道しか考えにくいが、閉塞しているのかもしれない。
そう考えるに十分な崩落状況だ。


 スタート直後なのに、もう廃隧道でかなりエネルギーを消費してしまったようだ。
ヒーヒー言いながら、降りてきてしまった崖を上り、歩道へと戻ったのが、10時13分。
そして、再びチャリへと跨った。


 いよいよ、次回は抱返り渓谷随一の景観である見返りの滝を攻略する!


以下、執筆中

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