神奈川県道515号 一般県道 三井相模湖線 第一回

公開日 2007.1.12
探索日 2007.1.10

 このレポートで紹介する道は、神奈川県が指定する県道路線のひとつ、三井相模湖線である。
路線番号は515番が充てられている。神奈川県では、「500番台は県央北部の路線に充てる」などという風な独自の県道命名規則を設けているため、県土が狭い割りに700番台までの県道があったりする。
昔、小学生6年まで横浜市に住んでいたが、当時は全然県道の路線番号なんて気に留めたこともなかった。
 この三井相模湖線が結んでいるのは、相模原市三井(みい)と同 千木良(ちぎら)の間の約7kmである。
ほぼ全線が人造湖である津久井湖の北岸の険しい山腹にあり、途中、名手から赤馬(あこうま)までの2km区間が通年通行止めとなっている。


 今回の計画は単純なもので、現在地である城山町城山にて県道513号鳥屋川尻線へ入ることからスタートする。
この県道はターゲットの515号と相通じて津久井湖北岸の湖畔路線を形成しており、私は『城山→三井→名手→(通行止区間)→赤馬→千木良』というルートで不通区間も含めて走行しようと思う。
これら、513号および515号という県道路線の由来は不明であるが、津久井湖が昭和40年に出来たことを踏まえれば、それ以前には敢えて河床から高く離れた位置に道を拓く理由も薄いと思われるので、ダム建設と関連して建設された道であろうと想像する。

 それでは、関東に越して一発目の廃道レポートに、行ってみよう!



津久井湖北岸の廃県道

どきどきのスタート


7:22

 城山町中心部を西へ出た国道413号は、住宅地の広がる緩斜面を上って海抜120mの城山一丁目へ。
このまままっすぐ行けばすぐにダムサイトだが、ターゲットに続く唯一の道である県道513号はここから分かれる。
青看に従って、通行量の多いT字路を右折する。

なお、城山町は今年3月に東西に接する相模原市と合併する予定である。



 県道に入るとすぐに左側に津久井湖記念館と公園があり、階段状になったテラスの下方に大きな水面が見える。
これが津久井湖で、昭和40年に完成した城山ダムによる人造湖である。
 ところで、この「津久井湖」を堰き止めているのは「城山ダム」だが、この1kmほど北側の支流に存在する別の小さなダム湖の名前が「城山湖」であり、そのダムの名前は「本沢ダム」という。
ややこしい。
余談だが、一応この両ダムは水路で繋がっていて、揚水発電を行っているそうだ。



 沿道の民家がようやく途切れると、反対車線側に大きなバスの転回場が現れた。
当然素通りして先へ進もうとした私だが、何の予告もなく唐突に現れた二輪車通行禁止の標識に面食らう。

 え? え??  駄目なの?
なんで??

 …恥ずかしながら、免許を取って2年も経たずに私は忘れていましたとも。
この標識は正しくは「二輪の自動車・原動機付自転車通行止め」であると言うことを。
チャリはお咎め無しだと言うことを。

 結局突入はしたんだけど、終始緊張を強いられましたよ …無駄に……。



 しかし入ってみると、2輪自動車通行止めなのも頷ける気がした。
というのも、路肩が全然余裕無いくせに、結構トリッキーなカーブと小刻みなアップダウンが続く、ちょっとした山岳道路なのである。
しかも、朝のラッシュなどというものがここにもあるのだ。
都心方向へ向かう上り車線の通行量がめちゃめちゃ多く、この流れの中に2輪車が紛れ込むのは危険かも。 あるいは、ローリング行為の防止という意味合いが強いのだろうか。

 どちらにしても、チャリで走るにはなかなかに危険な道だ。ラッシュ時は特に。



 と思ったら、突然歩道が現れた。
だが、その歩道も殆ど使われていないのか、落ち葉や雑草で結構汚れている。
しかも、小刻みに消えたり現れたりを繰り返すし、途切れるにもかかわらず車道に出るためのガードレールの切れ目がないなど、はっきり言って噛み合ってない。
かつては湖を見渡せる観光道路として整備されつつあったのだろうが、やがて拡大する都市化に呑み込まれ、道は自動車の独壇場になってしまったのだろう。
津久井湖対岸に平行する国道413号は朝夕の渋滞が酷いとのことで、この県道が抜け道化している。


 そう。
ここは景色だけなら、まさしく、観光道路級。

 都会に越してきたと思ったが、チャリを漕いで1時間かそこらでこんな景色に出会えるなら、今までとそう変わらないかも知れない。
手つかずの自然などという物は容易に望むべくもないが、空気も意外に澄んでいるし、立体感のある山河は見応え十分である。
見たことのない街並み、山並み、道路ぶり(?)。目に付くもの全てが、今の私には新鮮である。
好奇心を糧に生きてきたと思っている私には、新鮮と興奮がほぼイコールの関係で結ばれる。



 幾重にも折り重なり、次第に高さを増しながら湖面を取り囲む山々。
もう暫くは見られないかと思った雪も、頂を高貴な色で包んでいる。
その山肌の“うねり”は自然そのものに見えるが、狭い平地からはみ出さんばかりに街が広がっている。
はじめ巨大な温泉街か何かと思ったが、普通に街なんだな。
水源地でもあるダム湖の周囲に街が広がっているなど、予め想定された結果なのかは分からないが、奇異な景色に見えた。

 写真中央の立派なアーチ橋(三井大橋)は、この県道の行く末である。
しかし、その手前のこんもりとした半島が三井地区で、残念ながら私にはこの美しい橋を通る予定がない。



 県道に入って約2.5kmで区間内の最高所に差し掛かる。
高さ制限の看板が現れ、間もなく現れるだろう隧道への期待感を煽る。
隧道が貫く突起した山肌の上方に、崖にへばり付く建物が一軒だけあるじゃないか。
いくら土地不足だからって、こんな所にまで…。
私はそう思った。



 だが、それは民家ではなかった。
巨大な提灯が行き先を示す朱塗りの螺旋階段の上にあるのは、禅寺らしかった。

きびしい…厳しいキビシイ修行が想像される…。



 間もなく、予告された隧道が現れた。
高さ制限3.8mの表示はあるが、もう少し余裕はありそう。
しかし、結構なカーブの途中にあるせいか、道幅以上に狭く感じられる。
反対車線は、相変わらずバイクを含めた(!)自動車がビュンビュン飛び込んでくる。
全長30mほどの短い隧道で、おそらくダムと同じで昭和40年頃の完成と思われる。
坑門にはアーチを強調するようなラインが化粧で入っており、当時盛んになったデザインの平板化に少しだけ逆らった跡か。
扁額も目立たないが存在しており、名は「岳雲沢隧道」とある。



 隧道をくぐると道は下りに転じる。
結構な勾配があり、ここまで溜め込んだ分を一気に放出する勢いだ。
チャリにとってはホッとする展開だ。
相変わらず途切れ途切れの歩道に注目しながら下っていくと、歩道がない場所にもかかわらず、立派すぎる休憩所が現れた。
車を停めるようなスペースもない(というか車止めで塞がれている)ので、歩きや自転車の人向けなのか。


 その壁には、悲しいかな一面のラクガキ。
SEXなどと書くのはラリっているとしか考えられないが、その隣には、ラクガキの文面とは思えないような素朴な一文が……。

 夜景がきれい

わざわざ書くことでもないと思うが、素直な心の持ち主なのかも知れない。
でもやはり、スプレーを握りながら何かオカシイとは思わなかったのだろうか(笑)。



   あ、 確かに美しいなぁ。
 つか、関東平野って、でかいなぁ。

 カキカキ… 朝の景色もきれい  …っと…。


 勢いを付けて駆け下ってゆく。
次第に人家の出てきそうな気配が強まってくる。
一つ二つとカーブを曲がってなお下ると、左側の津久井湖へ落ち込んでいく傾斜に屋根が見えてきた。
津久井湖左岸に2つしかない集落の一つ、三井である。
 三井も、ターゲットが向かう名手も、どちらも湖に突き出した半島の上の狭い緩斜面にある集落だ。
対岸には平地が多く途切れず街並みがあるのに、何故に不便な場所に定住しているのかと不思議に思うが、それは余計なお世話だろう。
このダムでも建設当初には300人近い移転者を出したと聞く。
彼らの一部が、古里を臨む高台の地に不便を承知で移ったものかも知れない。



県道515号 起点


7:47

 三井に到着。
そして、この名も無き交差点が、今回のターゲットである県道515号の起点である。
写真手前の道がいま走ってきた513号で、正面の狭い道が515号だ。
青看もヘキサも、信号も何もないが(ちなみに写真に写っているヘキサは513号の物)、目印になる標識がないわけではない。


 その入口に唯一立っている標識は……。





 1.7メートル!
マジなのか!!
こんな表示(1.7m)は、見たこと無いぞ…。
だって、普通乗用車だって幅1.7mあるだろ…。身の回りで聞いてみただけでも、174cmとか普通にいたし。

 チャリで来て…ホント良かった…。



 1.7メートル…。

私の背丈よりも小さな数字が、一般の現役県道の道幅だというのか…。
山間部の不通区間ならばいざ知らず、まだこの先には名手というれっきとした集落があるのだが…。
地図で見る限り、名手へ行ける道は3本しかなく、うち一本がこれ。
また一本は、私が目指す県道の通行止区間であって数に入らない。
となると、残りはダム湖を渡る名手橋のルートだが、橋は吊り橋で大型車は無理そうだ。

 早速現れた道は、1.7mよりはありそうだが、それでもかなり狭い。
凄いのは、この辺りの沿道の民家が大概、2階部分が玄関になっている事だ。
ガレージと玄関が道と同じ高さにあり、1階は道路の下にある…。暗そうだ。



 とある沿道の民家の軒先。

道も相当に狭いが、家を建てる敷地だって狭いのだ。
とにかくここは、ダムが出来るまで津久井渓谷という景勝地だったくらいの山なのだ。
神奈川県も東京都同様に人や街で溢れているが、もはやこれはそう言う単純な問題ではなく、人の住んできた歴史や愛着といった事にも関係しているのだろう。
一歩引いてみれば、この辺り一帯は相当な急斜面だぞ…。



 200mほどソロリソロリと進んでくると、崖側の民家が無くなって、今度は山側に連なりだした。
所々に待避スペースがあるし、比較的見通しが良いので救われているが、もう崖側にガードレールを設置する余幅も無いと言わんばかりの狭さが続く。
何一つ県道だと感じさせるような物は無いが、地図をひっくり返してみても、やっぱりここが県道だ。

 ところで。
このスペースでガレージに直角に車を収めている各家の皆様。
運転の天才ですか?



 まだ細長く三井集落が続いている。
しかし、それももう終わりが近い。
入口からは約500m来た。
ここには、三井禅寺がある。
上にある民家への小道が分岐していくが、県道も道幅が変わらん!
 あと、寺の前には「歩行者に注意 スピード落とせ」との小さな看板が立っているが、油断したら人との離合でさえサイドミラーを接触させかねない。
リアルな注意看板だ。



 少しだけ道が広くなったと思ったら、ここまでなかった急な右カーブで民家の影に消えていく県道。
なぜか道を囲むようにバナナやシュロが茂っており、ここだけ南国のムード。
道が狭すぎて、駐車スペースに停めている車さえ路駐に見えてしまう。
まだ名手までは1.5kmほどあるが、この狭さはどこまで続くのかー…。

 だが、下調べもろくにしないで来たせいで、この後の展開で驚かされるはめに。



真の激狭のはじまり


 怪しげな南国カーブが三井集落の最後の家だった。
ここからが山間部となるわけだが、またしても現れた1.7m制限の標識にやられた。
もうここまでが十分狭かったし、集落を出たと同時に道が広がったこともあって、制限区間は終わったと勘違いしていたのだ。
だが、良く思いだしてみれば、入口にあった制限標識には補助標識「700m先」が付いていたではないか。

 あー…

ここから先が、本当の1.7m制限区間なのですか……。



 そして、いままさに牙を剥く県道515号は、最後の良心なのか、われわれドライバーに心の準備をさせてくれる。
ぽろぽろと、一つずつ、看板が、現れるのだ。
最初に現れたのは上の1.7m制限標識で、次がこれ。

 この道路は これより先 
 連続雨量 100mm以上
 時間雨量  20mm以上
 その他異常時には
 全面通行止となります  神奈川県

 20mmってあーた…
夕立とか来たら速攻達成してしまいますよ。
この道自体が、既に異常なのでは…。



 うわーー! ごっちー!

道幅に対しどう考えても不釣り合い極まりない「道路状況表示盤」。
そして、それと一体化した遮断機式ゲートだ。
表示板の方は本当に大がかりなタイプで、最近は電光掲示板に替わられているのかあまり見なくなった物でもある。
残念ながら「試験中」とのことで動いていないようだが、今さら何の試験なのか?
それにしても、やっぱりここも県道なんだなー。こんな大袈裟なゲートを取り付けられて…。

 しかも、ちょっと道が広まったと思ったら、これは所定のUターン場所だった訳か。
ここまでの警告の応酬に怖じ気づいたドライバーは去れということか!
では、
覚悟のキマッタ奴から、一歩前へ!


 ぎゃ ぎゃー!!









マジ狭いんですけど。
つか、わざとだろ これ。