道路レポート 青乙林道 その1
2004.12.27



 あなたは、「みちのく道路」という、有料道路をご存じだろうか?
おそらく、青森県にお住まいの方ならばほぼ全員が知っていると思われるが、今時珍しい高速でも観光道路でもない有料道路である。

青森県青森市から、八甲田山地と浅虫半島を結ぶ稜線をみちのくトンネルで穿ち、上北郡天間林村に至る、約22kmの一般県道257号線有料道路である。
開通は昭和55年で、その当時は未開通であった東北自動車道を補完し、八戸道経由で東京への最短時間コースとなっていた。
現在でも、青森都市圏と八戸都市圏とを結ぶ最短ルートであり、国道4号線経由よりも大幅な時間短縮が可能である。
将来的には、八戸道の一部として、東北道と一体となっての北東北周回道路になる計画もある。

という、みちのく道路なのであるが。
山チャリストには、全く優しくない。

「自動車専用道路」なのでは? というツッコミは、半分あたっているが、そればかりではない。
このみちのく道路には、ちゃんと軽車両の通行料も、設定されている。
ちなみに、その額は“80円”。(ちなみに普通車830円)
22kmも走って、たった80円というのは、かなり良心的にも思われるが、全線を通して走ることが出来ないのである。
料金表には、小さく小さく、こんな注釈がある。

「第一種原動機付自転車(50cc以下)、小型特殊自動車、軽車輌、自転車等は公安委員会により、トンネル内の通行が禁止されています。

公安委員会め!けしからん!

そう激昂してみても、結局無茶をしてタイーホされては始まらないので、トンネルを回避しつつ、出来ればたかが80円の通行料金すらスルーしてしまおうという、超セコイチャレンジが、ある必然性を持って、私に科せられたのである。

ときは、2004年12月15日の、夕刻であった。

山行が史上最もセコイチャレンジ、ご覧頂こう!




セコイ計画
2004.12.15


 要はこのチャレンジは、みちのく道路中で最大のトンネルである、峠の「みちのくトンネル」を、迂回できれば、ほぼ成功と言える。
その先にも、もう一つ短い「滝沢トンネル」があるが、最悪この程度ならば、公安委員会をぶっちぎって通行してもお咎めはないだろう。
だが、みちのくトンネルは全長3178メートルと相当に長大であり、ここは無傷で通過出来なそうである。
翌日の新聞に載ってしまえば、一巻の終わり。

で、事前にこのみちのくトンネルを迂回できる道がないかを丹念に調べ上げた結果、2万五千分の1地形図にもなぜか記載のない一本の林道らしき道筋が、昭文社の複数の道路地図にのみ記載されていることが判明した。
それが、今回紹介のメーンとなる青乙林道である。

だが、ネット上には全く情報が無く、果たして有料道路を料金所ごと迂回してしまうようなグレーゾーンにある道が、果たして現存するのか、通ることが出来るのか、非常に興味を持つこととなった。

はっきり言って、現時点でも、この青乙林道という道が、いつ頃開通したものなのかなど、不明な点は多い。
ただ、ありがちな旧道と言うことではなく、みちのく道路とは明らかに異なる目的を持って建設された道であろうとは思う。

もし、あなたが、
国道4号線を遙かに迂回するのが嫌な山チャリストや、原チャリマニアであるならば、今回の情報はきっと役に立つはずだ。
そうでない方には、殆ど無用の情報であるが、もしかしたらみちのく道路の○だ乗りに通じる情報も、でちゃうかも…。
悪気はないので、ごめんヤス。
また、蛇足だが、今回の情報を元にあなたがた○乗りを企て、タイーホされたとしても、当方は関与しないのであしからずー。






地底から吹き上げるもの
2004.12.15 14:26


 この日、私の計画は遅れに遅れていた。
それもこれも、愛車の不調のせいなのだが、その不調は未だ改善せず、変速が殆ど利かないままの状態である。

既に時刻は14時をまわって久しいが、まだ私は天間林村は上北鉱山跡の一角にあった。
ここから、輪行駅である青森駅までは、みちのく道路経由でも最低30kmはある。
この時期、午後4時半には夕闇に覆われるので、山中で夜を迎える危険も大いにある状況だった。

この上、今回のセコイ計画が失敗することになれば、大変な事態を招く。



 ご存じの通り、私は一会社員である。
仕事は、コンビニの店長である。
私には、一年365日欠かさず店でやらねばならぬ仕事があるが、その中でも欠かせないのが、日々の発注である。
おにぎりや弁当と言った、コンビニの生命線を、発注しに店に行かねばならぬのである。

予め、外泊の山チャリの時などは、2日分の注文を先に入れてから旅立ったりと工夫していたわけだが、今回は思いがけない計画の遅れであり、とてもじゃないが青森で一泊するわけにはいかないのだ。
だが、青森発の列車で、秋田に行ける列車は、午後6時台には全て出てしまう。
もし、それに遅れることがあれば、哀れ我がお店は、丸一日弁当やらオニギリやらが納品しないという事態になるのだ!

それは、私のクビに関わる!



 今私が、朽ちかけたチャリに鞭打って飛ばしているのは、県道242号後平青森線。
この道は、青森県内では知られたる“険”道で、八甲田山の一角「田代平」と、天間林村とを繋ぐ殆ど全線が未舗装の山岳道路である。
途中には、今は鉱毒処理だけが細々と続けられている上北鉱山跡がある。
鉱山から田代平間は、この日既に十数センチの積雪に閉ざされており、冬季閉鎖であった。

そんな峠をどうやって越えてきたのかは、いずれ明らかにする日も来るだろう。

ともかく、今は遅れに遅れた私の旅路を、セコイ計画でなんとか軌道に戻さねばならぬ。
大坪川沿いの砂利県道を、飛ばす飛ばす。



 みちのく道路との合流点も近づいた頃、路傍に思いがけない光景を見た。

なにやら、激しく水蒸気を吹き上げる、穴である。
気温が低いせいか、かなり遠くからも立ち上る煙が派手に目立っていた。
まるで温泉だが、こんな場所に温泉があるというのも聞かない。

興味を持って近づくと、その答えは意外なものだった。



 そこには、

「新幹線トンネル 換気立坑 八甲田トンネル大坪JV」

と記されていた。

私は、理解した。
この直下には、現在建設が進められている東北新幹線八戸・新青森間の、世界一長大な陸上トンネル「八甲田トンネル」があるのだ。
一体、この地下どれほどの深さに、全長26kmものトンネルが今建設されているというのか。
音もなく、蒸気を吹き上げる換気口が、その地熱の凄まじきを感じさせる。

平成16年度中には貫通すると見られる八甲田トンネル。
全長26kmなどという途方もない数字は、もはや私には軽くメルヘンである。
新幹線にとっては、ものの数分で通過できる長さなのだが…。



みちのく道路出現 そして林道へ
2004.12.15 14:48


 冬枯れの森の向こうに、巨大な建物が見えてきた。
そして、同時にその建物へと繋がる道路が、現れた。

あれが、みちのく道路である。
そして、建物はみちのくトンネル天間林坑口の換気設備だ。


このトンネルをもしチャリで潜れれば、ほんの10分で山越えも出来るのだろうが…。
それは、公安委員会が許さない。



 昭和後期の長大トンネルには付きものの、坑口に付随する換気棟。
今もって、あんなに巨大な必要があるのかどうか、私には判断しかねる。
是非一度、内部の構造を拝見したいものである。
お陰で、この時期の長大トンネルの坑門は、余りカッコイイとは言えない物が多い気がする。

それはさておき、頭上の道路も、私が走る道も、どちらも一般県道なのだが、あんまりにも待遇が違いすぎる。
こちらは、一般県道242号後平青森線。
むこうは、一般県道257号天間舘馬屋尻線。

こちらは砂利道、冬季閉鎖、無料。
むこうは完全舗装の2車線道路、有料。
この先も、二つの県道の終点はほど近い位置にあるので、寄り添い絡み合い、時には交わり合いながら進んでいくことになる。


 山中を我が物顔で貫通していく高速道路まがいのみちのく道路を、我が県道は潜りぬけ、そして間もなく大坪川を渡る。
橋の名は、桧木平橋。
殺風景な橋である。




 桧木平橋を渡ると、今度はT字路にぶつかる。

県道はここを道なりに右折だが、地形図には乗らない謎の峰越林道は、ここを左である。

いよいよ、セコイ計画発動である。
果たして、みちのくトンネルをスルーして、青森市へ入ることが出来るだろうか?



 林道の入り口には、見慣れた林道標識が立っていた。
林道名は、鍵掛林道
所轄営林署名は「乙供(おっとも)営林署」。
変わった名前なので、何となく印象に残った。
他にも、入り口には黄色の、高圧鉄塔保線用の案内標識が数本立てられていた。
この標識の読み解きが、実はこの先の林道攻略で、非常に重要なヒントになるとは、思いもしなかった。

また、一見して、入口付近には普通に轍が刻まれており、意外に多くみちのく道路を迂回して峰越する輩もいるのかと思われたが、そんな簡単な道のりではなかった。


 以下、次回。






その2へ





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