石巻の某隧道 
オススメしません…
宮城県石巻市 某所

 「ついに、山行がも実名非公開となってしまったのか…」

そう、早合点するのは待って頂きたい!
今後も、山行がでは皆様の「知りたい」、私の「伝えたい」を重視して、実名公開は続けます。
ただし、今回は、勘弁してください。 あんまり堂々とやって、手が後ろに回ると嫌なんで…。

予め断っておきますが、私は「愚かなトンネルマニア」です。
そこに、トンネルが口を開けていれば、つい入らずにはいられません。
一種の病気かも知れません。

普通の方であれば、これからお伝えするような隧道には、入ろうとしないでしょうから、余計なお世話となると思いますけど、立ち入りは厳に謹んで下さい。
叱られちゃいますから。貴方も、私も。
隧道を愛するが故に、暴走する男の記録、見てやって下さい…。
ほんとくれぐれも、見て嘲笑するだけにして下さいね。




 
 宮城県第二の都市石巻には、多くの道路地図に載りながら、一般人が立ち入ることを許されない隧道がある。
まさか、その様なことになっているとは思っておらず、現地を前にして驚いたのであるが、その場所は、確かに存在する。
写真は、その隧道の側にある、また別のトンネルの姿。 こちらは、現役の道路であるが、この日はたまたま工事中のため、通行止となっていた。
問題の隧道へは、この写真のトンネルの側を、登っていきます。


 

 現地には、地図に記載されたとおりの場所に、当たり前のようにして隧道が口を開けていた。
しかし、明らかに様子がおかしい。
あんまりにも、暗すぎるではないか。
地図上に描かれたその長さは、たっぷり500m以上あり、まさか無灯などとは、思えない。

その暗さの理由は、正面に立ってみてはっきりする。


 そこには、幅が異常に広い(まるで最近の複線断面の鉄道トンネルのよう!)トンネルが、口を開け、かつ閉ざしていた。

暗黒の坑口から吹き出す乾いた風が、頬を叩く。
私を、強烈に刺激する光景だ。
立ち入り禁止が明示された封鎖隧道は日中は利用されているのか、付近には砂埃が堆積している。
この時点では確信は無かったものの、見たこともない様な横長の扁額に書かれた文字から、石材工場用の専用トンネルらしい。
辺りは夜の闇に包まれ見渡せないが、背後の山には、巨大な切り出しの空間が存在しているようでもある。




 無断侵入禁止との注意書きが、目立つように坑門に掲げられている。
そのうえ、厳重な施錠ゲートが、坑門を半分くらいの高さまで封じており、さらには、ゲートには有刺鉄線が巻き付けられてある。

この様子、明らかに、現役の隧道である。
地図には何気なく描かれていた隧道が、実は一般者の侵入を許さない物であったことに気が付く。
そして、猛烈な悔しさを感じる。

今は深夜。
辺りには、全く人の気配はない。
ただ、静かな時間が流れている。

自制すべし、我が心に潜む獣が、首をもたげてくる。

好奇心という名の獣が。



 坑門上部には、隧道名の代わりに「石巻石材工業協同組合」と大書きされている。
それは、高価そうな御影石製の扁額に、力強く陽刻されている。
また、小さな文字で「昭和51年11月吉日」と、竣工日らしい記述も見られた。
扁額の下には、一般道路でも見られる道路標識が二つ、懐中電灯の明かりに輝いている。
坑門自体は、至って普通のコンクリート製だが、ファーストインプレッションの通り、並でない。
ダンプカーが二台並んで入坑できそうな幅だ。



 隧道解明のための最終手段であり、また同時に最終目的でもある内部侵入だが、敢えてそのリスクを負わなくとも、内部の様子は観察可能である。
有刺鉄線の隙間は、人が通れる物ではないが、視線やカメラのレンズは容易で通す。
そこに映し出されたのは、土埃にまみれたコンクリートの洞床と、すぐに狭くなる内壁。
そして、闇である。
先に光がないのは、閉塞のためではなく、夜だからだろう。
そのことは、隧道を吹き抜ける強い風が物語っている。


 内部への侵入を決心し、方法を模索し辺りを詳細に調べると、辛うじて侵入の可能性を残しているのは、ゲートの下の隙間である。
有刺鉄線に引っかからない物として、その最大幅は高さ30cmほど。
頭が通れるので、這い蹲って潜り抜けれると判断した。

リュックから懐中電灯を出し、リュックと、勿論チャリはそこに置き去りにして、行動を開始した。



 いざ、「違反行為」のためにゲートの前に立った時、それまではペンキが薄れ気にしていなかった表示が、読めてしまった。
読まなきゃ、もう少し心安らかにいられたのに…。

読んだことを後悔したが、旅先での警察沙汰が、未だかつて無いほどに現実性を持って、覆い被さってきた。

いいだろう。

そのリスクを背負ってでも、私は先が見たい。
もし通報されたら、ちゃんと叱られよう。
覚悟は出来た。 …たぶん。

…こんな場所に立ち止まっていては、むしろ人目に付きかねない。
早急に行動を開始せねば。



 速やかにすり抜けて、洞内へと侵入。
その隙間の狭さは、私が非常な痩せ形であったことを感謝させた。 その上で、なお腹は全体が埃にまみれ白くなった。

懐中電灯がなければ、まるっきり光がゼロの洞内。
フラッシュを焚いて撮影すると、ダンプカー1.5台分くらいの、一般道路にしてはやや狭い空洞が、無個性に続いている。
先が見えないが、風が猛烈に吹き出している。
路面は土埃が堆積したコンクリート製で、ダンプの幅の轍が深く刻まれている。



 侵入から50mほどで、突然内壁が変化した。
素堀コンクリ吹き付けに、鉄筋と金属ネットによる補強である。
見たことのない施工方法に、ここが普通の道路トンネルではないことを、再確認する。
まるで、本で見た鉱山の中のよう。

この様な無骨な隧道が、一般人の目が届かぬ闇の奥に、隠されていたのだ。
それを地図といったら、お馴染みのトンネル記号で表していた訳だ。
なんか滑稽な感じがした。




 側壁は背丈よりも高い「鉄板にコンクリを吹き付けた物」で隠されていたが、その奥には横穴の存在を予感させる闇があった。
或いは、古い待避坑か。
その奥を伺い知る手段は、無かった。

今体を包む隧道に夢中になれない気持ちが、常につきまとう。
さすがに、通報されたとしたら、嫌だ…。
覚悟して入ったのだが、もう、引き返したい。
今引き返したら、すぐに脱出できるし、内部の様子も把握出来たっぽい。

もう、充分ではないか。




 なかなか引き返す決心が付かないまま、胎内のような様相を晒す洞内を、足早で歩き続けた。
もう、二度と来れないと思う気持ちが、無理をさせてしまう。
理性より、惰性で探索をするという、昔は常套であったが、次第に改善してきたと思っていた悪い癖が、出てしまう。

ここまで来たんだから、出口を見て、そして逃げだそう。

そう決めてからは、時間の経過を恐れるように、私は走った。
仙人隧道以来、また、走って洞内を探索した。





 100mほど進んだと思われる場所で、突如幅が広がった。
そこは、ダンプの離合箇所のようで、何にもない洞内が、ただ空虚な広がりを見せている。

そう、この隧道が「普通の」隧道と感じさせない最大の理由は、多分この施工の特殊さではない。
むしろ、こんなに長い隧道なのに、一般道路では当たり前のようにあるもの、「ナトリウムの照明」や「避難口の案内」「路肩や歩道」なんかが全くなく、ただ空洞なのだ。
異常な景色である。



 天井には、ナトリウムライトの代わりに、豆電球が点々と設置されていた。
点灯すれば、洞内は淡い光で照らし出されるのだろうが、その時、洞内に部外者の姿はあり得ないだろう。



 その先、走る私も息切れし立ち止まるほど、長かった。
正味4回の待避所が存在し、それぞれは等間隔のようであった。
私の懐中電灯の明かりが、そこにあるかも知れない監視者に写るのを恐れ、小さなヘッドライトだけを点灯させて進んだ。
入り口に、リュックやチャリを平然と置いてきたのも後悔していた。
もし誰かにそれを見られただけで、通報されるかも知れない。
 
やっと夜気の元に脱出したとき、ほっとした。
あとは、帰るだけだ。
静かにこのまま立ち去ろう。

出口の先には、人っ子一人いないセメント工場らしき巨大な建物と、広大な敷地が広がっているようであった。
しかし、探索する気にもなれず、すぐに洞内へ踵を返した。

もう、すっかり熱狂も醒めて、己の愚かさを冷静に見つめる時間が、再び元来た入口に戻るまで与えられた。



 出口側の坑門。
入り口とは様子が違う。
(洞内に反射しているのは、入口付近の天井にぶら下がっていた『頭上注意』の標識)
扁額もなく、ゲートもない。
それは、もともとこちらは工場の敷地内で、一般の人の目に留まらない場所だからであろうか。
地図上では、さらにこの先、街へと降りていく道が至って平然と描かれているものの、間違いなく立ち入り禁止の専用道路なのだと思う。


このように、人の目を気にしながら行う探索は、後ろめたさや叱責への恐怖から集中できず、楽しくはありません。
これを読んだ貴方が、「あのトンネルマニアでさえ“楽しくない”と言ったのだから、私も不法に侵入するような探索は辞めよう」と思ってくれたなら、本望です。

なんか、違反を強引に正当化しているような感じを孕みつつも、終了。

終了です!






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2004.4.12