その62の2主要地方道8号 水沢米里線 姥石峠 旧道 [後編]2004.4.10撮影
岩手県江刺市〜気仙郡住田町



 乾いた落ち葉の底にしっかりとアスファルトが敷かれた足触りは、体を火照らせる程度の緩やかな登りと相まって、旧道の歓びを私に満喫させてくれる。
ずっと続いてもいいような気にさせるが、心地のよい場所は長く続かないものである。

峠は近い。




 重王堂で旧道に分かれて約4.2km。
時間にして30分ほどで、通行止区間の終わりを告げる簡素なバリケードが現れた。
あとひと登りで、峠となる。
ここはもう広大な種山ヶ原高原の一端で、木々の向こうには麦色の牧草地が見え隠れしている。




 海抜603m、北上山地を縦断する盛街道の最高所、姥石峠である。
この峠の一帯種山ヶ原は、牧草地かつ自然公園となっている。
しかし、今は時期が早く、草原に人影も、牛の姿も見られない。




 峠から牧草地へと分かれる道もあったが、どうも使われなくなって久しいようである。





 さて、姥石峠を下り始める。
一直線の高速な下りであるが、現役道路であり対向車に気をつけねばならない。
同じ緯度でも、私の住む秋田に比べれば全然雪解けの早い北上山地であるが、それでもこの高度より上にはまだ行けなさそうである。
そんなことを路傍の残雪を見ながら考え、そして次の週の計画に繋げていく。
それがまた、楽しい。




 ほんの1kmほど下ると、地中から迫り上がってくる無機質的な管が視線を釘付けにする。
これが峠越えを種山トンネルで成し遂げた国道397号線のバイパスである。
国道の最高所は郡境線のある峠の直下ではなく、旧県道と合流する道の駅「種山ヶ原」となる。
本来の旧県道はこの先、旧国道との合流点である栗子鉱山跡地まで大股川沿いを2.5kmほど続いていたが、国道のバイパスによってその殆どが呑み込まれ消えてしまった。

鄙びた童話の峠にあって、国道の広いバイパスだけが、都市的な早さで時を刻んでいるようだ。




 傍らにある、色褪せ消えかけた国道改良工事の案内板。

皮肉にも、目立たせようと赤く塗られたバイパスのみがすっかりはげ落ち、旧道だけがその存在感を示している。

こんな色褪せた看板がまた、旧廃趣味を刺激する。



 現国道と、旧県道との分岐点を振り返り撮影。
素直に峠に登っていく旧道と、
峠に「下っていく」現道との対比が、面白い。




 姥石峠の住田側の下りは、極めて直線的な爽快路だ。
幅広の沢の底を駆け下る。
かつては蛇行を繰り返し沢沿いを走っていた旧道の痕跡は、しばし見あたらない。

しかし1.5kmほど進むと、ふと一条のアスファルトが、気の迷いのように脇へと逸れる。
高速直線の途中にあるこの一カ所のみが、残り僅かな旧道との分岐点であり、見失いやすい。



 これから紹介するのは、地図上の右の方にある「赤線」の部分だ。
ここは旧県道と旧国道の合流点を、現国道が割る様に介入している。
その旧路を奪われたのは、国道と県道のどっちか?






 舗装はされているが、江刺市側に比べても明らかに細く、見劣りする旧道。
路上への土や泥の進入も多く、マッディーだ。
山肌を抉るような急カーブの度に、後輪が泥に埋まり、うねる。

その脇に、もの凄く高速な往来。
同じ場所にあっても、設計によってこれほどに道の印象は変わるのだ。



 現道が一定のペースで高度を下げ続けるのに対し、地形的な制約からかなかなか高度を落とせず、高地に取り残される旧道。
崖下の現道のアスファルトは、かなり遠のいてしまった。
落石なども散見され、通行止のゲートこそなかったが、先行きに不安を感じた。

この現道との高度差である。
おそらくは、現道に再び合流する前に、それとぶつかり、切り取られて終わりなのではないか?
そんな予感を感じながら走ると、やっと下りがキツくなる。



 眼下には、旧国道が現れた。
旧国道は、種山ヶ原の南縁をなぞるように走り、無名の峠を越えて赤平で現道にぶつかる道だ。
ちょうど足元で旧国道が新国道に別れ大股川の対岸に登っていくところだ。



 元来は旧国道は、現国道ではなく、この旧県道に接続していた。
そして、そここそがこの県道の終点でもあった。
旧国・県道とを繋ぐ直線上に邪魔をするのが現国道であり、その現国道に路線を蹂躙されたのは、旧国道の方であった。
先ほど見た分岐点よりも下流側では、旧国道は現道にぶつ切りにされており、無用となったアスファルト面を晒すばかりだ。

降りてみたい気もしたが、高度差もあり、時間もおしているのでやめた。



 そして、峠からは約2.5km。
新旧国道がせめぎ合う場において、旧県道もまた、ひっそりと合流している。
写真は旧国道上に残る青看で、右に分岐して奥の白いガードレールに続くのが、今降りてきた旧県道。
左に見えるのが現国道であり、その両者に高度的に挟まれたガードレールは、無用のまま放置された旧国道のものである。

この峠入り口の分岐も、なかなかいい味を出していると思う。
なお、旧国道の私の背後200mで再び現国道と接続している。
そこが、栗木鉱山跡だ。



以上で、姥石峠の旧道報告を終了する。


2004.7.28作成
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