道路レポート 青森県道256号青森十和田湖自転車道線(十和田市区間) 第2回

公開日 2015.12.01
探索日 2014.11.12
所在地 青森県十和田市

いきなり心を折りに来るサイクリングロード


2014/11/12 10:36 《現在地》

いきなりの階段に噴飯ものの衝撃を受けた私だが、確かにここが自転車道であることは間違いないようだ。
というか、これはそれなりに珍しい、「自転車専用道路」になっていた!
その証拠に、入口に取り付けられている道路標識は、先ほどまでの「自転車及び歩行者専用道路」ではなくなっている。

この標識がある自転車専用道路は、道路法によって自転車(軽車両を含む)以外の車両や歩行者が通行する事は禁じられている(道路法第48条の15)。ただし、違反しても罰則はなく、「道路管理者は通行の中止その他交通の危険防止のための必要な措置をすることを命ずることができる」(道路法第48条の16)だけではあるのだが、法令違反になることは事実。
つまり、ここから先を歩いて探索する事は出来ないのである。

(ただしこの「自転車専用道路」の標識は、道路法による自転車専用道路だけでなく、道路交通法による「自転車専用通行帯」などにも設置されることがあるので、標識だけでは区別出来ない。道路交通法の方は、違反すると「通行区分違反」などの罰則も有る。
また、道路法による自転車専用道路は、全国に120万キロあまりある道路法による道路の中のわずか475km(0.04%)を占めるに過ぎず(平成18(2006)年現在…国交省資料(PDF)による)、なかなかに貴重な存在である。)



問題の階段であるが、とりあえず緩やかだ。
中央に自転車を押し進めるためのスロープがあり、両側には階段。
自転車が通行する階段といえば、街中の横断歩道橋や地下道に広く見られるが、前者よりは遙かに緩やかで、後者に近い。
また、起伏がある新興住宅地なんかに見られるものにもよく似ている。
そして冒頭の16段の階段を上ると、そこには小さな踊り場があって、すぐにまた16段の今度は右にカーブした階段が現れた。そしてその先にも…。

なお、ここで私は一つの疑問に突き当たった。
この道は道路法上の自転車専用道路であるから、歩行者は通行が禁じられている。
そして、道路“交通”法においては、自転車を押している人間も歩行者としての取り扱うことが定められている。
一方で道路法には歩行者のなんたるかを定めた条文が見あたらないが、もし道路交通法と同じ扱いであるとしたら、この階段を通行する為に自転車を押して進む行為は、道路法に違反しているのではないだろうか。(まあ、おそらく道路法の条文にないだけで、問題ではないという結論が出ているのだろうが、ちょっと気になった。)



あはははは(乾いた笑)。

16段→踊り場→16段→踊り場→16段と、合計48段の階段を、自転車押しながら登ったならば、ようやく一連の階段の終わりを告げるものが現れた。

道幅の大半を塞ぐように設けられた紅白のパイプ製車止めと、そこに取り付けられた看板。
曰く、「STOP階段あり 自転車を降りて通行して下さい 青森県」。

まあ、階段を設けてしまった以上、そこを「歩け」というのは当然だろうが、しかし、「サイクリングをしたい」と思って訪れた人間を歩かせることに、少しは後ろめたさのようなものを感じただろうか。
俺はサイクリングをしたいんだ! 自転車を押して階段を上りたいのではないんだッ!
百歩譲って、自転車押しもサイクリングのワンシーンだとしても、その“頻度”は弁えてくれよな。さすがにこんなのが頻繁だったら、嫌になる(よね?)



はい終了〜。

なんかもう50mくらい先に、次の階段の始まりが見えてるんですけど…(怒)。

まあ、この私の(怒)は50%くらいは“フリ”であって、同時に「良いネタだ(笑)」とも思っていたが、
これ、普通に「青森十和田湖自転車道」の快走を楽しみにしてきたサイクリストだったら、萎えるんじゃないかなぁ。



全く懲りずに再び現れた階段だが、その直前の路傍で、なにやら匂う水がパイプからドバドバ流れ出していた。
しかも11月の外気よりも温い水であるらしく、辺りには薄らと湯気が漂っている。
そしてここは十和田湖温泉。

温泉か?! 間違いあるまい。

なるほど、サイクリングロードの(主に精神的な)疲れを癒やしてくれようという、粋な配慮だな。
私はその温さを期待して、溢れる流れに手を浸してみた。

 ……冷てぇ…  ワナかよ…。

確かに11月の外気温よりは少しだけ高温なのだろうが、ヌクヌクするような温度では全くなかった。むしろ不用意に手を濡らしたことを後悔した。



今度の階段は、しれっと20段あった。

急さはさっきと同じで、変速を調整して思いっきり漕ぎ足に力を込めれば、乗車のまま中央スロープを登ることが出来る。
だが、敢えて疲れる事をすることもあるまい。それに階段を上った先には、またさっきの車止めが邪魔をしてるんだろうし…。

で、これを上り終えた先で私はまたブッ飛んだ。 もちろん、悪い意味で。



10:41 《現在地》

少し開けた場所に出た。青空と紅葉したスカイラインのコントラストが美しい。
ここはなかなかに良い気分である。すぐ背後に横たわる階段を見なかったことにすれば、
ようやく素直にサイクリングを楽しもうという気分が盛り上がってくる眺めだと―

思ったのだが ↓↓


あの塩那道路を彷彿とさせる壮絶な九十九折り参考写真の随所に、
階段が織り交ぜられている
のを、目撃してしまったんだから、質が悪い。

もう、階段を避けようという意図なんてまるでないようだ。全く悪びれる様子がない!!

…まあ、山を登っていこうという強い意志は感じるし、それ自体は道路を愛する者として大いに称賛したいのだが…。


秋の山肌をのたうつ九十九折りを正面に見上げながら、その最初のカーブへ差し掛かろうとするところに、1本の橋が架かっていた。

自転車専用道路に架かる橋の出現に、少しばかりテンションが上がったが、その直前にも見逃せない小技が効いていた。
路傍にある“いつものポール”。見馴れたこいつの正体はデリニエータ。
そしてデリニエータといえば、その道の管理者名が書かれている(事が多い)曰わく付きのアイテム。
このデリニエータにもしっかりと「青森県」の文字を見て取った私は、改めてここが県管理の道路であること。この場合は、県道であることの証拠を得た気分がした。



続いてはこの橋に注目。
幅3m、長さ10mほどの、何の変哲も無いコンクリート橋であるが、高欄の四隅に立派な銘板が取り付けられていた。
曰く、「やけやましょうけいはし」「焼山小渓橋」「九平沢」「昭和六十二年十二月竣功」。

特筆するほどの内容はないが、そういえば国交省のデータで、本路線の事業開始は昭和49年度、完了年度が昭和62年度となっていた。
ということは、この辺りの工事が本事業の最後の工事だった可能性が高い。
この階段まみれの変態サイクリングロードは、思いのほか古いものでは無く、平成になる直前に誕生していたらしい。それでいいのか、建設省!



現れた、通算3箇所目の階段。

ちょうど九十九折りの道の“折れ”の部分にあって、16段くらい→踊り場→16段くらい、という構成になっていた。
ここで段数がはっきりしなくなるのは、いい加減に数えるのが面倒になったからだ。
しかし基本的に15〜20段毎に踊り場を入れる構造を約束事としていたようである。
息継ぎをする場所として踊り場があるのは親切なのだが、それよりは全体が少し急になっても良いので、階段を使わない構成を工夫して欲しかった気がする。




た、たぶん、

もう突っ込んだら負けなんだろう…。

既に足を踏み込んでしまった身としては、この珍妙な県道が無事に私を送り届けてくれると信じて、邁進するしかないのである。
幸い、心と身体は(連続する階段上りと笑いのために)温かくなってきた。

あ、そうそう。
“階段国道”を賞揚する、全国の道路マニア達に告ぐ!
ここには“階段国道”(全長388.2m、合計段数362段、標高差70m)を遙かに上回る規模の“階段県道”がある。
ぜひ来て味わってね。



なんか廃道臭くなってきたし。

階段を一つ越えるたびに、昔に誰かががっかりして引き返した時のため息が聞こえるような気がした。
もちろんそんな気がしただけで本当に聞こえたら心霊現象まっしぐらだが、サイクリストの嘆声と無縁ではない景色が続く。
また、県道としてなまじ頑丈に作られているだけに、荒れても荒れない道が、むしろ悲しく感じられたのである。



次なる切り返しにも、まるで当然の如く待ち受けていた、第4の階段。

今度の階段も堂々たるもので、おおよそ16段×3ステージの構成。
段を踏むたび、着実に、確実に、山を上っている事が分かるが、なんか気持ちよくない。
サイクリングには、ヒルクライムというジャンルがダウンヒルと同じくらいメジャーで存在するように、本来、自転車で坂を登るという過程と結果(←ここ重要)には「快感」があるはずなのに、存在する高低差の半分以上を階段で賄っているこの行程には、そうした自転車乗りとしての快楽がとても乏しい。
ヒルクライムでこうなのだから、ダウンヒルの気持ち悪さは、マジで壊滅的だろう。何のために登ったのかを疑うレベル。




とはいえ、既に集落を見下ろす高さまで登っているのに、全くといっていいほど疲労を感じていない。
これは確かに「易しい」のだろうと思う。
おそらく、この道の線形設計というものは概ね次のような文章に集約出来ると思う。

「自転車で楽に登れ、また下りでもスピードが出過ぎない極めて緩やかな坂道と、自転車を押して歩く階段とを交互に配置することで、利用者が自転車での長距離登攀に不慣れであっても、登り切れるように配慮した。また、下り坂の速度超過を抑止する安全性にも配慮した。」

なんかこうして文章にすると、イイトコ尽くしの模範解答のように思えてくる(笑)。
大体、わが国の自転車専用道路のほとんどは、見るからに自転車に易しそうな平坦地を走っている。だから、こんな風に大きな高低差を克服する自転車道自体珍しいし、普及していないとも言えるだろう。
では、なぜ普及しないのか。
その答えは、この道が不人気である事実と関わりがあるのだろう。
ここは天下の奥入瀬渓流のすぐ近くであり、単にサイクリストの興味から遠いなんていう事は無いはずだ。



次の“折れ”は、階段では無かった。

階段じゃなければいいってもんじゃないんだよな〜とは思ったが、あまり言うと注文ばかり多い人になってしまうので、ここは黙って甘受しよう。
相変わらず、全然疲れない。(ある意味凄い)




どうせその次はまた階段なんだからね、細々としたことは無意味。

これが5回目の階段だ。
構成は、そろそろ撮影も雑になってきたので少し自信がないが、16段程度×3ステージだったかな。

そしてこのあと、6回目の階段(確か16段程度×2ステージ)で切り返すと、ようやく進展があった。



10:48 《現在地》

起点で見たものと同じ自転車道の案内板が再登場!
ただし「現在地」の位置が更新されており、「終点」から1.3km走った(+歩いた)ことが伝えられた。

何度も自転車を乗り降りさせられたので、結構走った気がしたが、気がしただけで、残り10.2kmもあるとか…だるい…。



次の切り返しのカーブも、やっぱり階段だった。7回目の階段か。ここも16×2の構成だったと思う。
しかも疎林の森の上の方には、次の次のカーブが見えていた。
そして、そこもまた階段であるように見えた。

もう階段の登場に驚きはしないが、まさか世の中にこんなに何度も自転車から降ろされる自転車道があるとは思わなかったぜ。また一つ、賢くなったな…。


階段だけでなく、飽きるほどに続く九十九折りの連打だ。
幅3mという狭い道幅と、四輪車では回りきれないような小さな半径のカーブであっても、自転車ならば問題は無い。
それゆえに、一般の車道では見られないようなクイックな九十九折りになっている。
このクイックぶりは、むしろ大昔の明治車道なんぞに良く見られた形なのだが、別に懐かしいとも感じないのは、実際に新しい道だと知ってしまっていることや、階段の存在によるのだろう。

慌ただしく登っていくだけあって、今や奥入瀬川が開析した谷を遙かに見下ろし、北上山地の最北の山々が見晴らせるようになってきた。



8回目の階段群(16?×2)で切り返すと、そこには鋪装された路面を完全に覆い隠してしまうほどの、枯葉の道が広がっていた。
少しだけ訪れるのが遅かったようだが、1週間前なら錦の絨毯を踏みしめる旅が出来ただろう。

「これほど沢山の階段さえなかったら」

心からそう感じた瞬間だった。
もし“そう”だったら、こんなに放って置かれることもなかったろうに…。
まあ、降り積もる落ち葉が日ごと掃除されるほど管理されても、興醒めだったかもしれないが。
とりあえず、この場面は掛け値無しに美しいと思ったし、辺りの山も世俗的でなく静まりかえって興を深めた。




9回目の階段群(16?×2)も切り返しのカーブだった。

細切れ。
本当に、細切れ。
いちいちサドルから降ろされるから、全然「走った」という気にならない。
お陰で疲れもしないし、暑くもならないが、景色は良いのに、いちいち自転車から乗り降りするのに気が散ってしまう。没頭できない。

カーブの途中で下を見れば、2つ前のカーブがすぐ下に見えた。
馬蹄形に見えるコンクリート色の部分が、階段である。
カーブだけが階段で、前後はほぼ直線で平坦に近い緩やかな道になっているのが分かるだろう。
絶対にスピードの出し過ぎなんかさせないという、強い意志を感じた。
大規模自転車道での事故は、絶対に許さない!



10:56 《現在地》

全部で8回ばかり九十九折りを切り返し、冒頭から数えて9回目の階段群を終えると、久々に少しばかりまとまった距離の走行を楽しむ事が出来た。
とはいっても、ほんの200mくらいのものではあったが…。

ここまでに登った階段の段数は、私の大雑把な計算でも244段程度あり、このままの調子で階段を増やしていけば、間違いなく上に着くまでには“階段国道”が持っている何かの記録を塗り替えることだろう。あまりその事への興味は湧かないが(低い声)。

そんなことを考えながら走っていると、唐突に目の前の山の中を自動販売機を積載したトラックが走り抜けたので、驚いた。
GPSで現在地を確認してみると、なるほど、他の車道と交差するようである。
久々の、交差点だ。




交差点に横断歩道はなく、単純な平面交差だった。
交差する相手の道は1車線の十和田市道だが、県道である自転車道線の方が遙かに狭く、しかも直前にトラックが疾走していた事を見ても、利用度は遙かに負けている。勝負にならない。
ちなみに市道側に駐車場などもなく、この場所から自転車道へ途中入場することは、考えられていないようだった。
あくまでも両者は深い関わりを持たず、単に交差しただけの関係であった。

ああ…、体よりも先に、心の方が疲れて(=退屈して)きた。

もう、階段は分かったから…

ここいらで、何か新しいイベントが、欲しい。