2012/9/15 6:10 《現在地》
先ほどまでは右岸の国道を北上していたが、今度は左岸の県道343号線を南下中。
白浜付近の湖畔へ下りれるルートを探す。
が、現地にはあらかじめ用意された湖畔下降ルートは見あたらない。
ちょうどこの辺りの下に白浜集落跡があるはずだが、猛烈な葛の藪(マント群落っすよ)のために、路肩から下を見ても地形がどうなっているのかさえ分からないほど。
車を近くに止め、身軽になって湖畔へのルートを模索すること数分…。
上の写真の奥の、路肩に木がこんもりと生えている辺りに、藪の浅い場所を発見した。
目印はこの石材の山だが、なぜここにこのようなものが置かれているのかは分からない。
これ自体は古いものでは無さそうだが、一帯で古くから続く花崗岩採石と関連するものだろうか。
ともかく、この石材の脇をすり抜けて、背後の林へ進むと…。
薄暗い森。
しかし下草が無く、歩きやすい。
また、私と同じ目的かは知らないが、古くから人の通路となっていたのか、踏み固められたトラバースラインが数本走っていた。
私もそのうちのひとつをなぞって、下方の明るく見えている方向を目指した。
思えば、今は路肩下の特に用途がない森だが、かつては集落裏手の“里山”だったはずである。
人との関わりは、元より濃厚な場所である。様々な踏み跡があるのも、不思議ではなかった。
6:12 《現在地》
高度にして20mくらい下降すると地形が平坦になって、同時に好水性の樹木が現れた。
さらにその“帯”を数メートル横断すると、いよいよ“湖畔”と分かる風景になった。
足元に沢山散乱している流木は、ここが比較的長い期間汀線であり続けることを意味している。
すなわち、満水位がこの辺りなのだろう。
これより先は、毎年のように水没と浮上を繰りかえすエリアと言うことだが、進むほど浮上の確率が減っていくことになる。
先に対岸から見たところでは、目指す旧線跡は河床とほぼ同レベルにあったので、まだまだ湖底への進行を止めるわけにはいかない。
更に進むと、眼下に広い平地が見えてきた。
その平地は台地状で、上部は切りそろえたように平らに見える。
この場所に、白浜という集落があった。
草木ダムによる水没家屋220戸のうち、10~20戸程度がここにあったようだ。
なんとなく、この集落の名前が好きだ。
川沿いの土地で白浜というのは、何か印象に残る。
そして、なぜそういう地名になったのかは予想が付く。
まず、「白」は花崗岩の白だろう。
前回少し上流の東宮橋付近の渓谷を眺めたが、両岸の岩場はみな白かった。あれが花崗岩だ。
この辺りの渡良瀬川沿いの岩場は、みな白い。
そして、「浜」。
昭和27年の地形図をつぶさに見てみると、白浜(濱)付近の渡良瀬川には、この前後には見られない地形的な特徴があったようだ。
そこには大正6年図式による「礫(れき)地」の記号が描かれている。
つまり、上流から流れてきた礫がここに厚く堆積していたのだろう。
渡良瀬川沿いの石は、みな白い。
それらからなる礫が堆積したこの場所は、さぞ白い河原であったろう。
その光景が「白浜」という地名になったと想像する事が出来る。
だが、現在の白浜に白いものは、ない。
ここにあるのは、我が世の春を謳歌する蒼蒼たる野っ原と、ある一定の標高以下の全てを覆い尽くす泥土だけ。
遠景には鮮烈な「赤」も見えるけれど、基本的に白のない世界だった。
なお、白浜集落を通っていたのは足尾線だけでなく、前回探った旧東宮橋に連なる村道もあった。
位置的には線路よりも上位で、まさに家々の間を通過していたが、その痕跡は見えない。
家屋、田畑、道。
結局私は、白浜集落があったといえる痕跡を、なにひとつ見つけられなかった。
湖底地に入ったことを理解する、何よりも分かり易い眺め。
湖面を渡る橋(草木橋)が、あんなにも上に見える。
また、旧国道と足尾線旧線の高低差も、鮮明である。
これらが敢て並行しなかったのは、渓谷の地形的急峻さ故であったと思われるが、
その急峻さがダムを呼び、水平線と“泥”平線によって風景の大部を変える結末となったのだ。
特に低位にあった旧線の方は、遺構の大部分を消失してしまった。
参考までに、視座は上の写真と異なるが、満水時の草木橋の風景をご覧頂こう。
草木橋は、昭和50年にダム工事と関連して架設された、
全長400mの上路3径間連続曲弦トラス橋である。
満水時には計り知れなかったその驚くべき高さを、今回初めて知った。
楽しい楽しい、ヤブ泳ぎ中。
ヤブ漕ぎじゃなくて、ヤブ泳ぎだこれは。
左の写真の場所はまだ浅い方だが、終盤にかけては前が見えなくなる一幕もあった。
しかし、地形的な凹凸はほとんど無いので、事前に見ていた俯瞰を信じて、闇雲に前進した結果が…。
脱出間近!
いよいよ、最低位のエリアが見えてきた。
草も生えていない泥の裸地は、例年は滅多に水面上に現れる事が無い、今回の渇水によって現れた場所と想像される。
そしてまた、1ヶ月も経たずに水没することだろう。
この泥の裸地のさらに向こうには渡良瀬川が流れており、目指す足尾線旧線の所在地としては、この泥地を除いて他に無い。
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