道路レポート  
鬼ヶ台と小又沢峠 その3
2004.4.4



 僅か標高150m。
出羽丘陵の片隅に、忘れられた旧道がある。


中ノ沢
2004.3.24 12:28


 この町道は、大内町の新田の国道105号線と、雄和町萱ヶ沢の県道10号線とを、出羽山中に結ぶ約11kmの連続した道だ。
途中に二つの峠があり、一つは中ノ沢トンネル(現在はトンネルを供さない切り通しとなり、トンネルは廃道)、もう一つが、小又沢トンネルで越える峠だ。
これから越える小又沢の峠の方がやや険しい地形だが、いずれにしても標高はせいぜい150m。

それなりに走り込んできた者にとっては、この様な峠など、話の種にもならないと思っても仕方がない、地図上、数字上の規模だ。

が、その実態を相互リンク先サイト『自己満足の世界』で知った私の考えは、改めさせられた。
その実態を己の脚で確かめたくなった。


 道は小関川源流の支流の一つにそって、非常にゆっくりと高度を上げていくが、途中何度と無くこの川を渡る。
ついには、「中ノ沢7号橋」等というのまで現れるが、この橋が最後で、この先はいよいよ峠への本格的な直登となる。
写真の舗装路は、旧道との分岐点間際の道で、写真奥には分かれた先の旧道が写っている。
旧道が肉弾で越えるのは、正面の尾根である。
それだけだ。

やっぱり、楽勝そう…?



 分岐点は唐突に現れる。
ここはもう、トンネルのすぐ傍で、後もう一つコーナーを越えればトンネルである。

ここで問題が発生。
残雪だ。

早速にして、私の大嫌いな残雪。
個人的には、藪の方がまだマシだ。
程度にもよるが…。


 残雪にも、また程度がある。
それは、深さ、ではなく、堅さである。
雪の堅さこそが、雪上走行の(実際にチャリに乗って走られる場面はほとんど無く、走行というよりかは「押し」だが)難度の分かれ目である。

その点から、この道は、最悪。
この日気温は15度まで上がっており、ただですら連日の雪解けに緩みまくりの雪原は、もうシャーベット状で全く支持力がない。
踏み出せば沈む。
タイヤが、沈んだまま浮いてこない。
無理矢理引き上げると、足がさらに沈む。



 旧道は、地形に沿って蛇行しつつ、かなりの勾配で尾根に迫っていくものの、そんな勾配など全くどうでも良いほど、残雪の状況は凶悪だ。
解け方が進んで積雪の浅い部分でも、むしろ轍に巨大な空洞が発生しており、余計に深く嵌りやすい。
まるで、無数の落とし穴が仕組まれた雪原を歩くようで、精神的にも、肉体的にも疲労は計り知れない。

我、あなどったり!

不覚だ。
こいつは、辛い。

ちなみに、夏場の状況としては、非常にマッディーな造林作業道として現役らしい。
たしかに、道幅は広めに取られ、路傍の下草も刈られた痕跡がある。
当然冬季は作業されていないようだが。



 蛇行を繰り返し、高度は上がってきた。
しかし、その変化を実感できるほどスピーディーには進めていない。
間違いなく峠の稜線は近づいているものの、まだ急な残雪斜面は高く険しく聳え、少なくともこの時の私の心情には、厳しい峠はなお続くと思われた。

汗が額を飽和し、眉毛にたれ、睫を濡らす。
目にしみる濃い汗。

こっ、これこそは…。

しばらく忘れていた、山チャリ本来の汗。

隧道の発見や崩落に一喜一憂したり、徒歩で探索する廃線跡などとは根本的に違う、
チャリと一緒だから、辛いんだという感覚。
チャリと一緒だから、燃えるんだという感覚。

チャリを手放すという選択肢を考えなくても良い廃車道の探索は、自由度の低さから来る辛さもあるが、悩みは少ない。
もう、燃え尽きるまで燃えればよいだけだから。

お、面白い。
久しぶりに、面白いぞ。チャリでの廃道越え!!
よく考えると、私のこの辛さの原因は、残雪ではないかという噂もあるが…。
まあ、泥にまみれるよりは、マシと思って頑張ることにした。


 こんな風にして、踏み抜く。

写真は、そうして出来た穴。

もう、足などはぐちょぐちょ。

ここで、ついに伝家の宝刀を抜くことにした。

ごめん、根負けです。





 こいつでもう、残雪の驚異は5割減だ。

持ってきたなら最初から使えという話があるが、それはもっともだ。
ただ、装着するのがおっくうで…。
いつもそうだな、俺って。
面倒くさがって、後で泣きを見る。

まあ、いいか。
もう、泣いたし。
あとは、笑うだけでしょ。



 雪を力強く踏みしめ進むと、間もなく道は二手に分かれた。
ここは、明らかに右が旧峠であり、左は…作業道だろう。
たとえかんじきで雪上が苦でなくなるとしても、チャリ同伴では、やはり辛いのに代わりはないのだ。
なんといっても、チャリを引っ張って進むのは、雪の上だと相当に重労働だから。

切り通しの旧峠を前にして、俄然ファイトが出てきた。
ちなみに、今回のように、既に他の方が紹介している道を探索するのは、実を言うと、好きだ。

意外と思うかも知れないが、先人の苦労談や感想を事前に知っていれば、それが探索をいくらか容易にするだけでなく、より一層道を深く観察する余裕が生まれる。
また、自分はどのように感じるかと言うことも、大変に興味深く、充実した探索となる。
だから、二番煎じを恐れず、私はよく皆さんが紹介してくれた道に赴いている。
それが、レポになるかどうかは、私の感じ方次第な訳だが。

余談でした。



次回、峠とその下り。最終回。








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