隧道レポート 金沢市夕日寺町の廃隧道(夕日寺隧道) 第2回

所在地 石川県金沢市
探索日 2018.11.13
公開日 2019.04.05

廃農道 侮りがたし!


2018/11/13 6:36 《現在地》

看板のいう危険な「隊道」とやらをこの目に収めるべく、最終分岐地点を後にする。

手元の地図によれば、ここから隧道までは約400mあるが、これまでの急登からは一転して、海抜100mの等高線と絡みながら進む、ほぼ平坦なトラバース路であるようだ。
これは、まともな道なら自転車で3分もあれば辿り着ける計算だが、立ち入った一歩目から濃厚な廃の匂いを漂わせていた。
塞ぐ看板の老朽ぶりから察せられたことではあったが、この道の荒廃は、最近の出来事ではないらしかった。

道の片側は鬱蒼とした孟宗竹林で、もう片側は笹藪だ。いずれはどちらかの緑に呑み込まれる運命だろうが、今はまだ道であることが許されていた。道を支えているのは舗装の存在だ。見た目では分かりづらいが、コンクリート舗装が敷かれていた。



50mほど進むと、使われていなさそうな小屋があらわれた。いろいろな物が軒先に置かれており、作業小屋かと思われるが、道と運命を共にしたようで、もう長らく扉の前に人の立った様子がない。

山側は切り取られた高い素掘りの法面となり、いかにもトラバース路らしくなってきた。
その地肌がいかにも土っぽい脆そうな印象であり、このような地質に隧道が掘られているのかと思うと、直前に目にした「崩壊」の二文字はより現実感を持って迫ってきた。



舗装が最後の拠り所であるような狭い道が、ガードレールはおろか路肩の縁石さえない状態で、結構な急斜面に入り込んでいく。当然のように、法面を抑える防護施設ものもない。いわゆる素っ裸の道だ。
こんな道は珍しくもないが、いかにも低規格な農道だ。こんな道の先にある隧道が、それだけが立派であるはずはなかった。

道の周囲では、苛烈な竹林の拡大攻勢に、植林された杉林が苦しみ喘いでいた。
竹と杉が幹を触れるほどに混在している森は、自然界としては奇妙で、どこか不自然な風景だった。近年盛んにいわれている「竹害」という言葉が脳裏をよぎった。
道あってこその山林管理であり、道をこの状況に放置しているということは、杉林に援軍はないということだろう。



6:38 《現在地》

入口から100m地点、地図上では夕日寺町と東長江町の境となっている辺りで、分岐があった。
地図にはない分岐である。
注意していないと見逃しそうな脇道が、右の山手に分け入っていた。
それがただの山道や獣道ではないと思うのは、わざわざ道標が設置されていたからだ。


公園とか遊歩道にありそうな木製の道標には、脇道に「新道」、直進方向に「自然園駐車場」と矢印付きで書かれてあった。
どちらの表示も首をかしげたくなる内容だったが、ふざけて作られた物ではなさそうだ。

まず、オブローダー的には妙に惹かれるものがある「新道」と案内されている道だが、その実態はご覧の通り、緑に呑み込まれかけた木製階段の小径である。
何に対する「新道」なのかも分からないが、素直に考えれば私が辿ろうとしている隧道のある道に対するものだろう。であるならば、曲がりなりにも車道ではある「旧道」に対し、余りにもお粗末な「新道」に見えるが、とりあえず隧道へ行く目的で動いているのと、ただの階段には興味を抱けなかったので、この「新道」へは行かなかった。



上記分岐地点の15mほど先にあるのが、ご覧の場面だ。

骨組みだけになったようなA型バリケード一基が、それで塞げてしまうほどに細い直進道路を封鎖していた。
そして、これもうっかりすると余裕で見逃しそうだが、左の笹藪には先ほどと同じような道標が紛れ込んでいた。
連続してここも地図にはない分岐地点であり、道標によると……


左折の先に、先ほどの道標では直進を案内されていた「自然園駐車場」があるという。

チェンジ後の画像は、実際に左折して5mばかり進んだ先の風景だが、これが駐車場?!かと驚嘆を覚えた。

確かに、車を2台くらいは止めておけそうな平場があるが、車止めも柵も舗装も何もないし、周囲は日の射さない竹林だしで、こんな所に車を置いていったら狸か何かに持って行かれても文句は言えないだろう。

……というかそもそも、自然園とはなんなんだ?
ここにある2枚の道標が言わんとしていることは、いま私が通ってきた道を車で走り、この駐車場に止めてから、歩いて「新道」へ行けということらしいが、「新道」の行き先が不明だし、いかなる観光的な楽しさも演出されていない…。(だからこその「自然園」なのか?!)


破綻した観光の香匂を感じながら、本線と表現するには余りに頼りない本線に戻ると、この“第2のバリケード”が立ち塞がっていた。

曰く、「崖崩れ危険 この先、行き止まり 夕日寺健民自然園」。

ということで、「夕日寺健民自然園」を指しての「自然園」であったようだ。
とっくに廃止された雑魚施設なのかと思いきや、そんなことはなかった。
県道沿いに別の立派な駐車場や入口があることを後で発見したし、帰宅後にも改めて調べてみると、なかなか大きな自然公園だった。

園の公式サイトに施設の全体図が出ていたが、そこにはこの道も「新道」も「駐車場」も描かれていなかった。
ようするに、見捨てられてしまったということなのだろう。
この整備状況では、やむを得ない気がする。




第2のバリケードを越えるという、覚悟と決意を示す行為に対する道の回答は、進路を本格的に妨害する藪の出現であった。

舗装はされているのだが、無普請の法面が零しまくった土砂が路上に根付きを生み、灌木帯を作り出していた。
ただの草むらではなく木本が混ざっているだけに質が悪い。
肉体だけならばまだしも、柔軟に幹を躱すことができないが自転車が、お荷物となる展開が始まった。

道はここに来て、相当に険しい斜面をトラバースしている。
ガードレールも車止めもない路肩の下は、おおよそ60度はあろうかという土の急斜面が、お椀のような谷底へ向けて開いていた。
道幅は相変わらず狭く、現役時代にも一般車両はお断りだったのが頷ける、なかなか危険な道路だ。

この険しい谷が尾根へと上り詰める源頭に隧道があり、脚下の比高の大きさは、苦難の道がまだしばらく続くことを物語っていた。



アクロバティックな体勢で藪に絡み取られた相棒の哀れな姿。

自転車で灌木帯を突破することの苦しみが、これほど集約された一枚もないと思う。
藪漕ぎを自転車でやる同業者なら、この写真を見て、お労しやと思ってくれよう。
11月まで緑を保った妙に粘り強い藪たちが、よってたかって私を苦しめたのである。

なお、当然のことながら、自転車を置き去る選択肢はあった。
この道は、隧道を突破出来たとしても最終的には行き止まりであり、同じ道を戻ってくる計画だ。
なのでさっさと自転車を脱ぎ捨てるのが賢明だったが、その決断を遅くしがちなのは、私の病癖といえる。



幸いにして……、あるいは深入りさせる罠かも知れないが、困難な藪が続くわけではなく、乗車できる場面も間に挟まっている。
やはり、舗装されていることは偉大だった。もしこれがなければ、最初から自転車を放棄したに違いない。




タケノコは美味しいと思うが、こんなバケモノじみてしまった竹林に分け入って収穫する人は、いないのだろう。
道の周りの竹林は狂ったように爆裂していて、無理矢理に急斜面に広がった部分は、地山を道連れに自滅していた。
まあ、灌木の藪よりは遙かに与しやすいので、探索者としてはこれでもいいが、山の未来には懸念を感じる。



6:48 《現在地》

ひえぇ…

人里の周囲から谷奥へ侵食している竹林地帯を突破すると、待ち受けていたのは、

悪意さえ感じるような灌木帯。

灌木の頭上越しには、目指す隧道が待ち受ける袋状の尾根が、だいぶ近づいている。

GPSで現在地を確認すると、入口から250mほど進んでいて、残りはあと150mほどだった。

もうひと頑張りといえる距離だ!




ぬぅおおおっ!!!

最近の私ができるだけ避けていた展開に……。

探索時期を工夫するなどいろいろして、この“ホワイトアウト”ならぬ、

“グリーンアウト”

を避けようと努力していたのだが、よもや11月の金沢でこれを食らってしまうとは思わなかった。

しかも、びしょ濡れというね…。朝露じゃなくて、前夜はかなり降ったからな雨が。



Post from RICOH THETA. - Spherical Image - RICOH THETA

ガチでキツい! 自転車無理〜!



こんな緑ばかりの写真から感じ取るのは難しいと思うが、ここは崩壊地だ。
法面から崩れた大量の土が道いっぱいに山積みとなっており、そこが悪辣な苗床と化している。
もしかしたら、この道が廃道を決定づけられた現場かも知れないと思える規模だ。
この状態でも、路肩は鋭く崖に切れ落ちていて、移動できる余地は非常に狭い。

チェンジ後の画像は振り返って撮影した写真で、私の数メートル背後には、哀れにも、
どうにもならんツタ藪に絡み取られて死んだ愛車が写っている。
典型的なヘタクソ! こんな所まで未練たらしく自転車を連れ込んで、結局は置き去りとか。

無事に戻ってくるまで、そこで待ってろ!



ようやく抜け出し、足元の舗装された路面を見ると、キクラゲみたいなゼリー状の物体が大量に生えていた。
(後で調べると、これはイシクラゲという藻の一種で、食べられるそうだ。某国では高級品として流通しているとも)

直前の20mを進むのに5分を費やし、しかも愛車を剥ぎ取られた。
そればかりではない、もう靴も下着も中までぐっしょりである。
帰りも同じ道を通るというのが、非常に気が重い。別の道はないのだろうか…。
最初に前哨戦とか思って少し侮っていたが、完全にしてやられた感があった。



6:54 《現在地》

最初のバリケードの地点から約400mの前進に18分。
思いのほか手こずったが、目的地に到達した!
夕日寺隧道(仮称)の南口が、このカーブの先に待っているはずだ。
最後、いかにも隧道を避けがたい雰囲気の袋谷へ入っていく、この雰囲気は好きだ。

報われよう! この隧道を独り占めにして。







クソゲーかよぉ…。


どこで失敗フラグを立てちまったんだ……。



つづく


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