橋梁レポート 一般国道342号 祭畤大橋 “廃橋三昧” 最終回

所在地 岩手県一関市
探索日 2011.10.24
公開日 2012.04.19/ 追記日 07.25

初代祭畤大橋、P1へのアタック!



図は『祭畤被災地展望の丘』に設置された案内板より転載。一部作者加工。

2011/10/24 7:50 《現在地》

全長94mの本橋には、全体を3等分する位置に2本の橋脚が立っていたが、このうち左岸側のP2橋脚は崩壊し、それが支えていた2枚の桁もろとも谷底へ墜落した。
残るP1橋脚は、山崩れに乗って11mも移動しながら倒壊は免れ、右岸側の1枚の桁を乗せたまま静止した。

これから目指すのは、このP1橋脚上の路面である。




目的地は目前にあるが、到達のために攻略しなければならないのは、この目測4mほどの段差である。

この段差は橋台から橋桁が墜落した為に生じたのであるが、P1橋脚が倒壊しなかったため、対岸がそうであるように橋桁が斜面に沿って谷底へ滑り落ちてしまうことにはならなかった。
そして、現在この橋桁が橋台代わりに乗っかっている場所は地面だが、ただの地面ではなく、この旧国道(初代祭畤大橋)が出来るまで国道であった旧道(旧旧国道)の路面である。

従ってこの段差をクリアするためには、旧道へアプローチすればよいと言う事になる。さっそく行動を開始しよう。




まずは、どこから旧道へアプローチするかということが問題になるわけだが、出来るだけ早く目的地に立ちたい(逸った)気持ちから、ちょっとだけ強引なルートを選んでしまった。

橋頭から30mほど退いた所の路肩が、ご覧の通り大きく決壊していたのだが、この地割れのような部分が、この下を通る旧道の法面へ繋がっていたのである。

ごろごろ…。




灌木を手がかりにしながら、水気を帯びた土の斜面を下っていくと、まもなく見覚えのあるガードレールの列が現われた。

しかし、この時点で私は眼下の旧道が、もはや見る影もなく壊滅している事を理解した。
6年前、この旧道には砂利が敷かれており、何の心配もなく歩く事が出来たのだ。(実は砂利は現役当時のものではなく、祭畤橋の上流に砂防ダムを建設するための進入路として再利用していたからだったのだが)




よし!

首尾良く、橋台近くの旧道へ降り立った。

旧道の路面には、大量の土砂が雑草とともに堆積しており、
かつての砂利敷きの路面を見る事は出来なかった。
道幅自体も大きく縮小している様な感じを受けたが、
路肩のガードレールだけは、変わらず白いままだった。




いざ橋桁の前に行くと、遠目からも十分予測出来ていたことではあるが、6年前の光景との乖離に驚かされた。

旧道はかつて橋桁の下を通っていたのだが、墜落した橋桁により無惨に寸断されていた。

そして、失われた旧道と引き替えに、6年前には無かったものが現われていた。
「地表面の変位観測のための地盤観測装置」とやらが収められている三角柱の容器(積雪防止のための形状だ)と、これを設置する用地に掛る「使用等許可標識」だ。
この機材で観測された地盤のデータに異常があれば、即座に「見学通路」の入口に案内があった「警報機」や「赤色灯」が稼動する仕組みなのだろう。

まさか、私が触れた程度の震動で異常を検知しはしないと思うが、触らぬ神に祟りなしだ。





うえぁ…

これは結構、ドぎついな…。

グロテスクなものを目にした時の気持ちだ。

廃道以前に道路を愛する一人として、ここから目を背けたいという気持ちが、自然と生じた。

道としての役目を全うしてから自然に崩壊した橋ならば、こんな気持はおそらく生まれてこない。


ともかくこの光景から、本橋の現状がよく分かった。
この橋はもはや、架かっている訳ではないのだと。
ただいくつかの障害物に墜落を阻まれたため、ここに“引っ掛かっているだけ”なのだと。

昔ながらの丸太橋ならば、この状態も“架かっている”に違いないが、今日の土木技術の精密な神秘の恩恵を日々受けて暮らす者として、この状態を“架かっている”と言うのは、本橋を完成させた土木者への冒涜… は言い過ぎとしても、やはりどこか我慢ならない気がしたのだ。




なお、ここでひとつ見逃してはならないのは、橋桁が橋台から墜落しているというこの衝撃的な光景は、現状、人によって故意に固定化されたものであると言う事だ。

その証拠が、墜落した橋桁をぎりぎり地面に触れさせない高さで支える施工が行われていることだ。
枕状の巨大なコンクリート塊に橋桁の一部が埋め込まれるようにして固定されており、本橋を固定する工事が行われたことを伝えている。

純粋なオブローディング的興味からは興の醒めるものに違いないが、崩壊した橋を谷に残すという決断は、従来の河川行政には難しい判断であったことが予想される。
これ以上橋が崩壊して川をせき止める事で二次災害が起きでもしたら、橋を残したこと自体が批判されかねないだろう。
個人的にこの判断を称賛したい。




橋桁と橋台の隙間に入り込む。

ここで起ち上がれば、橋上の光景を見る事が出来る。



じゃ、立つよ?


心の準備は、OK?






・・・。





ぐにゃあ〜…。



第一印象。

アスファルト舗装って、凄いんだな。

これだけ「ぐにゃあ〜」してても、ひびひとつ入ってない。




よっこいせ。

と、橋の上に立った。

6年ぶりの祭畤大橋、渡橋の儀。

「こんなになっちまって…」という感想はもちろんあるが、先に対岸や橋の周囲の惨状を十分見てきているだけに、むしろこれでも「穏やか」な光景に思えてしまった。

少なくとも、【この光景】に較べれば、随分と大人しく平和な感じを受けた。

いま聞こえるのは、川の音だけだった。





……。

そんなところに梯子が用意されていたとは、下りてくるまで気がつかなかったよ…。

でもまあ、結果的にはこれでもオーライだ。

おかげで帰りは楽が出来そうだしね。





そこに見えている“終わり”へと、


一歩一歩、ゆっくりと、


着実に、


登っていく。



…先端が下を向いた欄干が、不気味だった…。





うあ…。

でも、あともう1歩行けそう…。




あぅう……。

もう1歩だけ……。




7:53 《現在地》

P1攻略完了!



足が プルプルッ と来た。

踏み慣れたアスファルトの感触なのに、

浮いてるみたいだった。


次の一歩も慣れ親しんだアスファルトだけど、おそらく死の一歩になってしまう。

だからこれで、勘弁。




横を見ると、為す術なく切断された欄干。

その向こうには、鬼越沢と須川の合流地点の大きな谷間が見えている。

そしてそこの川べりには、何台かの重機たちが休んでいるのが見える。

岩手・宮城内陸地震の復興は、今も目立たぬ所で続いている。




手摺りがあれば、もっと大胆に先端に立てるかも。

そんなワルニャン的ヒラメキが、この行動を起こさせた。

私はいま、実際どの程度信頼出来るか分からない欄干と、それを支える車輪留めに、身体を預けていた。

冷静に考えれば、先程来の行動は、馬鹿げたチキンレースだろう。

しかしこのときの私には、抗い難い欲求だったのだ。


…でもこの写真…明らかに腰が引けてるだろ…シェイムだろ…。


ともかくこれが、 #正真正銘の末端風景#
↓↓↓




ここまでしてようやく、谷底へ真っ逆さまに落ちる2枚目の桁(の路面)を目視することが出来た。

と同時に、公園のように整備された谷底に散らばる、たくさんのアスファルト片も見えた。

固定された橋がこれ以上崩れ落ちることは無いだろうが、それを構成する個々のパーツには、
当然のように、“橋としてあり得ぬ方向からの力”が作用し続けているのだ。
こんな破壊は道理であろう。


そして、ここで撮影した次の写真が、

“P1最強の1枚” だ。

↓↓




どなたかが、
前の回へのコメントで、
「欄干を梯子のように使って下へ下りるのか?」
と言うようなことを書いていたと思うが…

無・理・だ・か・ら!



ついでに…



→【突端で動画も撮ったん・ダー!】←





右岸橋台附近の詳細を観察


7:56

ギリギリの橋上PLAYはスタートから約3分で終了。
傾いた橋桁から再び橋台へと戻る。

“廃橋三昧”の探索も、やり残したことは、もうさほど多くない。
いよいよ最後のチャレンジを迎えるわけだが、その前にひとつ、ここでも定番となった“新旧風景の比較”をやっておこう。

もはや生半可な変化では、驚かれなくなってしまっているだろうが…。




初代祭畤大橋の右岸付近から上流方向を見ると、眼下に旧道が見え、その先の方には祭畤橋が見える。
そして祭畤橋の上空には、巨大な天秤棒のような2代目祭畤大橋が君臨している。

果してこの風景、6年前はどうだったか。
(←画像にカーソルオン)

まず、当然のことながら2代目祭畤大橋は存在しない。
そして、旧道は見る影もなく、藪化している。
しかしその一方で、眼前の右岸山腹に生えている木の数は大幅に減り、祭畤橋の全貌が見えるようになった。これは季節の違い以上の変化だ。

あともう一つ、忘れてならない変化は、橋が3mほど墜落しているために、それだけ視座が低くなっていると言う事だ。
にもかかわらず、見晴らしが大幅に良くなっているというのは、明らかに斜面の木々が減ったせいである。




今度は旧道へ下り、その下流側ら橋を振り返るアングルで比較して見た。

6年前にあった道路標識は、少し傾いてはいたが健在だった。
同じく「頭上に注意」と書かれたビニール製(?)の標識物も、ちゃんと残っていた
「頭上に注意」させてきた橋の方が自ら落ちてくるとは、旧道にとって、全く予想外の結末となってしまった。

ごく低い確率では、ここで探索中のオブローダーが潰される可能性もあったわけだが、そもそも落橋による通行人の被害が無かったことは、大きな救いであったと言える




ちょっと橋の下を覗いてみた。

3本の鈑桁が平行して並ぶこの空間は、電気の通り道だったようである。
絶縁体に守られた1本のパイプと、それと平行する狭い歩廊が存在していた。
本橋もまた、道路だけではなく、ライフラインとしての重要な使命も帯びていたのである。

なお、この見える範囲では、さほど鈑桁などの橋の部材が歪んでいるようには見えないが、やはり墜落の衝撃が凄まじかったからであろう。
あまり強度のない歩廊や管路は大きく歪んでおり、とても足を踏み入れる気にはなれない状態だった。

もぞもぞと、ここから出た。





そして、最後は谷底へ行ってみよう!!





谷底から見上げる P1


8:01

谷底へ下りるルートが分からなかったので、とりあえず祭畤橋の一段下にある旧国道の路盤に降り、そこからさらに谷底を目指すことにした。

この眺めの前では信じて貰えないかも知れないが、前回来たときには、この場所から旧祭畤橋(谷底のランガー橋)へ通じる道(旧国道)が存在しており、簡単に行き来出来た。

それが今回は完全に消失していて、もうどこに道があったのかさえ定かでなくなっていた。
祭畤橋を落橋に至らしめた祭畤沢左岸斜面の大規模な地すべりが、その原因である。
そして、地すべりは渓流であった祭畤沢を堰き止めて、谷底を沼地のように変えていた。

“沼”の畔を目指そう。




消えた旧国道は、ズタズタに切り裂かれて斜面に“散在”していた。

私はそこいらにある雑草や岩くれを手掛かり足掛かりにして、ズタズタの斜面を下って行った。



数分後、私は

沼と化した祭畤沢の谷底に下り着いた。



沼の畔から、上流方向の眺め。

前に来たときにあの橋から見下ろした緑下の清流は見る影もなく、

哀れにも立ち枯れとなった木々が、葦の原に亡霊のごとく佇んでいた。





肝心の下流側には…。



にょきっ!




無事に、辿りつきました。

橋の下、P1直下。

予想通りのスッゲー眺めだが、改めて周りを見ても、
やはりここへ来るための「通路的なもの」は見あたらない。
工事関係者が出入りに使ったルートは、跡形も無く撤去されたのだろうか。

橋の下の川べりには砕石が敷き詰められ、小洒落た河川公園みたいに見えるだけに、
ここへ来るまともな道が見あたらない事や、この眺めが遊覧の対象となっていないことが、
逆に不自然に感じられたのである。




ほ〜ら、こんなに整備されて…。 →

このコンクリートの“地平”に沈んでいる部分は、いったいどうなっているんだろうなぁ…。




被災により折損したP2橋脚と、それに伴って完全に墜落した第2第3径間は、“整備”の過程でこのように撤去され、跡形も無くなっている。

震災の記念物として、これらも合わせて残すことは検討されたと思うが、最終的には手間隙をかけて撤去されたのである。

これは私の想像だが、沢に横たわってしまった橋桁を撤去することは、河川災害を防止するうえで重要だと判断されたのだろう。
或いは単純に、あまりドギツイ廃風景は展示物にそぐわないというような判断も、あったのだろうか。




おおよそ75度の角度で倒立(?)している第2径間桁。

その路面には、舗装のアスファルトがまだ4割ほど残っているが、残りの部分は…



自然に剥離して、このように橋下に積み重なっていた。

この現象も、展示品として織り込み済みだったのだろうか?
いずれ、この現象が完全に終息するまでは、不用意に橋下に近付くと、
落石ならぬ“落アスファルト”の直撃を食らう畏れがある。

この調子ならば、2年後の今ごろまでには全て墜落していそうだが。



普段見る事のない“直立する舗装路”を、堪能した。

この写真など、別のレポートに紛れ込んでいたとしたら、
ただの荒れた舗装路にしか見えないだろう。

背景が空一色なのは、少し普通じゃないかもしれないが。



私が見ても、ちょっとコメントしづらいですな…(苦笑)。

こう言うのは、橋梁工学の専門家の人にこそ見てもらいたい。

その方が、祭畤橋も喜ぶだろう。




一応これで、思いつくままではあったが、

橋の周りを隅々まで見て歩いたはず。


祭畤橋を題とする7年越しの“廃橋三昧”、これにて完結!

貴重なお写真を提供してくださった皆様、ありがとうございました!






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