ミニレポ第176回 国道411号旧道 大常木〜一ノ瀬 中編

所在地 山梨県丹波山村〜甲州市
探索日 2012.10.12
公開日 2012.10.23

一ノ瀬高橋トンネル旧道 〜封鎖された“記念の地”〜 


前編で大常木トンネルの旧道に辛くも勝利したので、

続いては同じ日に旧道となった片割れとでも言うべき、一ノ瀬高橋トンネルの旧道区間を紹介しようと思う。

正直、前回の旧道は地味だったけれど、今度の区間には、現役当時の姿を鮮明に記憶している、いくつかの構造物がある(それは上の地形図にはっきりと描かれてもいる)。

しかも、そのうちのひとつは、この道にとって、ある重要な意味を持った記念物でもあったはずだ。


果して、思いでの構造物たちはどうなってしまったのか、気合いを入れて確かめよう。



2012/10/12 06:32 

いきなりテンション急上昇!

やっぱり新旧道の分岐というのは、こうでなくっちゃ!

あからさまであればあるほど、使われなくなった旧道の存在は、
違和感となってドライバーに迫ってくる。 そしてこの違和感こそ、廃道への興味の入口だ!




これから旧道へ向かうが、ちょっとだけ現道にも視線を向けてみよう。

平成23年11月に開通したばかりの一ノ瀬高橋バイパスは、まさに純粋に構造物だけで出来ている新道だ。
一ノ瀬高橋トンネルを中央に置き、その前後に岩岳橋(目の前の橋だ)ともう1本の橋(銘板が無くて名称不明)を連ねている。
直線的な新道によって、従来の約600mあった距離が3/4に短縮されたが、最大の目的が距離の短縮でなかった事は前回既に述べている。

それにしても、この自然の岩盤に突っ込んでいくようなトンネルの風景が、なかなか良い。
おそらく景観への影響に配慮した結果、コンクリート吹き付けを用いることなく、落石防止ネットと坑口延伸による落石避けという形にしているのだと思う。

ちなみに、上の地図にも掲載している明治時代の青梅街道(黒川通り)があるのも、このトンネルと同じ対岸だが、もっと遙かに高い所を通過しているので、ここからは見えない。



こっちも、仕事が早いッ!

そして、「廃道」をいただきました!

早くも立派なバリケードが建造されているではないか。

まあ、救いなのは前の区間と違って、一応は開閉式になっているという所か。
この様子だと、すぐに廃道化工事をして自然に還すようなつもりはないのかも知れない。
まあ、我々一般人のために活用させてくれる気配は、微塵も感じられないが…。

それにしても、行政が使う「廃道」という言葉には、なんか自分たちが口にする以上の凄みを感じてしまう。
わ、わる、 わるにゃ…



新旧道分岐地点を振り返ると、そこにはまだ十分に新しく見える「丹波山村」のロードサインが立っていた。
ちなみに先ほど新道が渡っていった多摩川が、丹波山村と甲州市(旧塩山市)の境目である。
そういうことだから、現在地点はまだ丹波山村であり、旧道が甲州市に差し掛かるのはもう少し先なのであるが、ロードサインはこの場所に設置されていた。

なぜなのか。

…おそらく、この地点から本当の境界までの区間には、それを設置するだけの十分な余地が無かったということだろう。

そんな景色を、今からご覧頂く。
そこは前述した、“記念の地”でもある。



リコ!
おいしい!

いや〜、おいしいです。

廃道にでもならなければ、じっくりのんびり立ち止まって観賞するのは気が引ける2車線ぎりぎりの交通容量逼迫地帯だっただけに、やっと念願叶ったと言えばひどい?

でも、本当に良い感じに「絵」になっている。
紅葉の時期とか、最高なんじゃないかな。
路面にも良い具合に落葉が積もってきたりして。

で、先ほどから勿体ぶって“記念の地”とか書いていたのが、あそこに見えますゴ立派ナ開腹アーチ橋デゴザイマス。
いかにも古色蒼然としておられるであろう?



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ロードサインからアーチ橋までの区間は、特別に頭上の岩棚が高くそばだっている所であり、ロックシェッドが設置されていた。

現地に銘板などは見あたらないが、記録によると「大常木(おおつねぎ)洞門」という。
竣工年までは不明だが、鋼鉄製のロックシェッドが最近新設されている光景はほとんど見ないし、新しいものではないと思う。

この50mほどのカーブしたロックシェッドを抜ければ、もう目の前に先ほどの橋が迫る。
廃止当日の状態で時間が止まっているかのような橋の上へと、私は躍り出た。

そして、先へ進む前にまず振り返った。

ある、期待と確信を持って!




これこれ!(^_^)

これが残っていることを期待していた!

廃道になったら、絶対に良いオブジェになると思っていた!

これより丹波渓谷急カーブ多し
ゆっくり走れば楽しい丹波路

良い〜。
現役当時から、大好きでした、この標語。
道路が険しいことを単にネガティブに伝えるのではなく、(ゆっくり)走れば楽しいというのがいい。
ここに住む人達の地域への愛着を感じていた。
実際にこの場所が丹波山村(丹波路)の始まりなわけだから、説得力もあったしね。

見る度に、ワクワクした。
いったいどんな道が待っているのかと。
まあ実を言えば、最後まで険しいままの状態で残っていたのが、この洞門のある旧道区間だったんだけどね…(笑)。

とにかく、好き!




6:37 《現在地》

しつこいほど繰りかえすが“記念の地”こと、丹波山村と甲州市の境にある、一の瀬川橋に到達した。
惜しむらくは、秀麗なアーチの姿を橋上からは一切確認できないことだが、こう言うのはどこの橋も同じこと。
特に何があるというわけではない橋の上にも、見るべきものがちゃんとある。
なんと言っても堪らないのが、マジヤバなこの幅員だ。
一応2車線あるが、車線の幅は2mピッタリといったところで、この道では決して珍しくなかった大型車にはキツい。
しかも、橋を渡った甲州市側は直角カーブになっており…

目をつぶれば今でも容易く想像できる。
道幅いっぱいにはみ出しながら、ぬうっと出てくるトラックノーズ。
周辺の深い峡谷に激しく反響する、大きなエンジンノイズ。
離合の挨拶代わりの重いフォーン。

ここには、重交通があった。



歩行者のことを考えていなさそうな低めの欄干から下を覗き込めば、アーチ橋の例に漏れず、谷は戦慄するような深みにあった。
ちょうど2つの流れがここで合わさり、私を含む東京西部の人間を潤す多摩川となっている。
橋下の淵は一之瀬川といい、明治時代の源流調査の結果、この流れこそが多摩川の源流であると定められた。

右側に峻烈な滝を見せているのは、柳沢川と呼ばれる支流であるが、出会いに滝があることから、より下刻作用が進んでいると見なされた一之瀬川に本流の座を譲ったのではないかと勘ぐりたくなる、地図上では一之瀬川に負けないほど奥深な河川である。
そして、国道はこの柳沢川の源流にある柳沢峠を越えて、終点である甲府盆地へ通じている。

また、どういう経緯からかは不明だが、最近の地形図や道路地図帳は、柳沢川に「多摩川」の注記を与えている。




で、ここが何の記年の地だったのかと言えば

昭和34年1月竣功の銘板を有する一の瀬川橋の完成は、青梅街道の車道全線開通の最後のピースだった。
この橋が完成したことで、当時の主要地方道甲府青梅線が車道として全線開通し、県都甲府市から笹子峠→松姫峠と経由することなく、柳沢峠を越えて丹波山村や小菅村という多摩川上流にある“山梨県内”にアクセス出来るようになった。
東京―甲府間の甲州街道に次ぐ第2番目の幹線ルート140kmが、明治の黒川通りの手痛い建設失敗から80年を経て、ようやく現実の物となったという、記念の地なのである。




『土木学会誌 昭和45年4月号』より転載

『土木学会誌 昭和45年4月号』には本橋開通の記事が掲載されており(開通日は4月5日とある)、当時の写真を見る事が出来た(→)。

やはりロックシェッドは後付けのものだったようだが、それにしても険しい道である。
この道と橋が、その後大きく手を加えられることなく、2車線の幹線道路として使われ続けてきたことに、驚きを感じる。

同書曰く橋の緒元は、橋長34.0m、幅員5.0m(!)、形式は2ヒンジ鉄筋コンクリートアーチ橋(RCアーチ)となっている。
近代土木遺産というには少々新しいかも知れないが、古い流れを存分に汲んだ橋と言えるし、その橋が前後共がっちり封鎖されて人目を遠ざけられている現状には、これが道路の宿命と諦めつつも、惜しいという気持ちを抑えられない。


少し長くなったので(なってない?)ここで稿を区切るが、次回はみなさんお待ちかね(?)
この道にあった“もう一つの名所”をご紹介します。





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