ミニレポ第182回 新潟県道188号五泉安田線 一本杉バイパス(仮称)

所在地 新潟県五泉市
探索日 2012.5.31
公開日 2013.5.12

低地だけど冬期閉鎖(放置プレー)の断片県道


新潟県の一般県道188号「五泉安田線」は、越後平野の東部に位置する五泉市と旧安田町(平成16年から阿賀野市)を結ぶ、全長約5.5kmの短距離路線である。
平成25年現在、新潟県道は590号まで増えており、188号というのはかなり初期に認定された路線と想像されるが、認定以来今日までずーっと“1本”になれずにいる、そんな気の毒な路線である。

左の地図を見ていただければ分かるとおり、この県道は阿賀野川で二分されてしまっている。
県内第2位の大河を渡ることが出来ず、全長5.5kmのうち1km近くが「未開通」のままなのである。

だが、今回のミニレポが採り上げるのは、この不通県道の現道ではない。
もう一度地図を見て頂きたい。
現在、この県道は「二分」ではなく、「三分」されているのである。


↓↓↓


いバイパス(らしき)県道がある!

この道の正式名は不明だが、五泉市一本杉にあるので、「一本杉バイパス」と仮称しようと思う。

しかし、なぜこんな所にポツンと県道があるのか、地図の上からは皆目見当が付かない。

地図に県道色で塗られていなければ、まず訪れる事は無かっただろう、この“超ミニ県道”。

今こそご覧頂こう!

(これはチョットした見物だぞ)



2012/5/31 12:12 【所在地(マピオン)】《現在地》

なんかキタ――!

ミニレポなんでアプローチは大胆に省略し、いきなり現場に到着だが、行く手に見える“陸橋”部分が問題の県道(バイパス)区間である。

それは地図上でも判明していたとおり、磐越自動車道上に架けられた跨道橋であり、外見はとても頑丈そうだ。

現在、県道に認定されている区間は、あの陸橋とその右側に連なる盛り土の区間だけで、そこに至る前後の道は県道ではない。
ここにポツンと県道が孤立して存在する事を知っているのは、詳細な道路地図を見て来た人だけだろう。
当然、周囲にも特に県道があることを示す案内は無い。

近付いてみよう。




片側2車線フル規格の磐越自動車道と、それを跨ぐ県道の全景。

今いる場所は阿賀野川の堤防であり、高速道路や県道は堤防内にある。
しかしそこには堤防完成以前の氾濫原であった事が容易に想像できる、広大な水田地帯が広がっている。
ずっと遠くに屋敷林に囲われた集落が見えるが、県道バイパスは全く集落まで届いていない。
青空を映す青い水田の中に孤立した存在である。

一方、磐越道に目を移すと、こちらは県道とは異なり耐えず車が疾駆している。
インター間で言えば安田ICと新津ICの間であり、このすぐ安田IC側には五泉PAが設置されている(磐越道は五泉市を通過するだけで出入口は無い)。
この区間の開通は平成6年だから、跨道橋の開通も同時期と考えて良いだろう。
逆に言えば、平成6年頃に存在したバイパス計画に則って跨道橋部分を先行整備したものの、以降の整備が一向に進んでいないという状況が想像できるのだ。




これ(右折)が、地図上では県道として描かれている道である。

しかし、何か県道だと分かるようなアイテムがあると、一層盛り上がるんだが……。 ちらっ。



ふむふむ。 やっぱり、普通の道とはちょっと違うな。

跨道橋は両側に歩道のスペースがあるが、歩道は前後が未完成(草むら)のため、
ガードレールで塞がれ、未供用の状態になっている。
それでも、地図にもちゃんと「開通」して描かれているだけあって、
車道部分は間違いなく使われている。

この段階で“未成道臭”とプンプンと匂って来たが、さらに想定外の標識物が!




この県道バイパス区間を通行しようとする全ての人に向けられた、2枚の案内板。
その内容は少々場違いな印象を私に与えた。

この先大型車
通行できません

これより先
 冬期間通行止
         新津地域整備部

前後の道よりも、この県道区間は明らかに高規格に見えるし、道幅もきっちり2車線分あるのだが、その割には「大型車通行不能」だそうだ。
さらに、幾ら豪雪地である新潟県とはいえ、まっさらな低地であるこの場所に「冬期閉鎖の県道」があるというのも違和感が大きい。
そして、附属する「新津地域整備部」という記名が、地味に教えてくれていた。この道が確かに県道(というか県が管理する道路である)事を。

まあ、正直、県の気持ちも分かる。
幾ら現役の県道であるとはいえ、他のいかなる県道とも繋がっておらず、全くネットワークに寄与していない“未成道”ごときのために、「県道だから」という理由だけで除雪をするのは馬鹿らしいのだろう。そして事実、この道が通行止めになっても困る人は、ほとんどいないと思われる。

「大型車通行止」をわざわざ掲示している理由は不明である。
確かに、接続している道が「大型車通行止」である堤防路と、狭い市道だけなのであるが、この県道区間に限って言えば、大型車が通る事に不都合は無さそうだった。



これが県道バイパスの現状の北端部である。

おそらく県道バイパスの計画には、このまま真っ直ぐ堤防内に道を作り、阿賀川を跨いで対岸の阿賀野市内へ達する事が想定されているのだろう。

だが、今のところ、そのためのいかなる準備も行なわれている様子は無い。

県道認定以来、長く果たせなかった夢を現実の物とする壮大なバイパス計画が、磐越道建設当初は生きていたのだろうか。

しかし、堤防内を全て橋とする場合、約1kmもの長大橋が想定されるのであって、2km上流に「安田橋」(県道41号)がある現状では、今後も容易に進展しなさそうである。
とはいえ橋が開通しない限り、この孤立区間の解消もおそらく無いであろう…。




橋は、ある。

だが、歩道も無ければ、街灯もなければ、車通りも人通りもなければ…



橋の完成を記念する「銘板」さえ、未完成であった。

(そのために、本橋は名称や竣工年が不明である)

本当に、「間違って開通しちゃった」みたいな感じだな……憐れなり…。



跨道橋を渡り終えると、

そこには地平線への下り坂があるばかり。

左右には歩道を整備するだけの用地は確保されているし、ちゃんと盛り土もその幅になっているが、今は気持ちの良い草原になっている。

未成道というイレギュラーが生んだ光景ではあるが、このスロープから見る春の越後平野は、「日本百名道」にも負けない、とびきりに美しい道路風景だと思った。
これは思わぬ掘り出し“風景”だったな。

なお、県道区間はこのスロープが地平に着いた地点で、強制終了(打ち切り)となる。
景色は明るいけど、道はもう風前の灯火なんです。




12:16 《現在地》

到着!

これが一本杉バイパス(仮称)の南端だ。これで終わり!
2車線の舗装路はここで打ち切られ、3本の市道(左は未舗装)に分岐している。

果して県道の計画線はどこなのか。
堤防外と同じように、こちら側も全く工事は行なわれていない。




南端から振り返ると、ここにも北端と同じ案内板が設置されていた。

果して、この僅か330mの高規格県道が、ちゃんと除雪され、大型車も気兼ねなく通行が出来、交通ネットワークの一翼として活躍する日は来るだろうか。

高速道路の建設に併せ、将来の計画道路の準備施設となる跨道橋や地下道が先行整備される事はよくあるが(ミニレポ89ミニレポ102もその例だ)、それが県道に認定されているのは珍しいと思う。
しかも、前後未開通(しかも未着工)いうのが、地図上においても存在感を際立たせている。

現役の県道を一時でも独り占めしたいという人は、ここへ来ると良いかもしれない。
この撮影中も、まったく誰とも出会わなかった。




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《現在地》

最後に、やはり未開通である現道の五泉市側終点付近(五泉市高山)から望遠した
一本杉バイパス(仮称)の全景をご覧頂いて、このレポートを終えようと思う。

ここから左の方を見ると……

↓↓↓



こうして見ると、先行開通区間が阿賀野川に架せられる長大橋のアプローチとして建設されていることが、一層明瞭となる。

この全貌は、堤防内の低地から、高い堤防へと上り詰めるためのスロープそのものである。


たまたま途中に磐越自動車道が建設されたことから、無理矢理に現世へ引きずり出された


――まだ遠い未来―― その可能性の断片だった。





この手の未成道や孤立道が大好きです。

県道や国道は珍しいですが、そこに拘らなければ、実現困難な未来を担保し、しかも既成事実としてさえ働く事が出来なかった、そんな憐れな“道路断片”が、全国各地に散らばっていると思います。 皆様の情報を、お待ちしていますよ〜!



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