2008/11/10 11:48
総延長100kmを越える岩見森林軌道網の中で最奥の支線と目される「大滝又支線」。
『全国森林鉄道』巻末リストによれば、全長1.4km、昭和30年開設、そして…
「廃止年不明」。
「廃止年不明」という言葉には「夢」があるが、現れた橋台の姿が「現実」である。
おそらく、本線が廃止された昭和42年とそう違わぬ時期に廃止されたのだろう。
砂防ダムを過ぎて少し進むと、軌道跡は山伝いに左へ大きくカーブした。
谷の向こう側には針葉樹の緑が目立つ稜線が長々と展開し、足下に今始まったばかりの大滝又沢が、かなり大きな谷であることを予感させた。
この谷のどの地点まで林鉄は延びていたのか。
全長1.4kmという数字も、起点が明確ではない現時点ではさほど大きな意味を持ちえない。
100mばかり進んだところで、早くもこの林鉄跡の「保存状況」が見えてきた。
まず路盤にレールはなく、枕木さえも見あたらない。
この点で廃止後の車道転用を匂わせるが、あらゆる用途における廃止から20年は経過していると思う。
現在では、獣道としても使われていない様子である。
取り立てて特徴がなく、また「何かの予感」もない現状に、ややピッチを上げて先を歩く私であった。
ゆえに真っ先に遭遇した。
オブローダーならば最も注視すべき、光景に。
隧道 …なのか?
「絵」だけを見れば、それは明らかに隧道である。
柱状節理を貫いた小さな素堀の坑門が、あたかも我々の進路上に口を開けているように見える。
でも、私は半信半疑だった。
さらに、後続の細田氏などは、見るなりこう言い放った。
「 あまり期待しない方がいいッスよ。
外れたときのショックが大きいスから…。」
…なんという後ろ向き。
俺たち二人に染みこんだ、負け癖のようなものがそうさせたのだろう。
なんとなくだが、ここ数回の探索における成果は、いまいちパッとしなかった。
そんな自覚が、二人にあった。
この日も、初っぱなで隧道に裏切られた…。
こんなマイナス指向の二人を再浮上させる発見など、
そうそう山の女神様は用意して下さらないのである…。
……。
細田氏の口元が真実。
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11:55
行幸!
じゃなくて僥倖!
予想外のHAPPY!!
細田氏が私のすぐ背後で発した歓喜の絶叫(俺たちは敗軍の将なんだよ〜!!)が想定外にすさまじく一瞬気圧されたが、次の瞬間には私にも歓喜のウェイビングブローが「ヴェイヴェイボー!!!」と押し寄せてきた!
秋田県内でもう隧道を新規に発見することは無いだろうと、半ば諦めていた。
そんな中での、まごう事なき隧道新発見である!
まだまだ、末端の林鉄にも「可能性」があることを教えてくれる、これぞ会心の一撃であった!!
はじめ黒い入り口だけが見えていた隧道だが、近づくにつれてその内部を明かし始めた。
内部は… 「瓦礫の山」。
比喩じゃなくて、文字通りの山になっている。
本来の洞床など1mもなく、大小様々な瓦礫が積もった斜面があっという間に天井に達している。
もしこの隧道が十分に短くなければ、間違いなく閉塞隧道の仲間入りをしていただろう崩壊の現状だ。
これでは隧道探索というか、“屋根のある山登り”である。
この、天井よりも高い位置に生まれた“窓”が、本隧道の変わり果てた坑道だ。
あまりにも短いので、元はもっと長い隧道の天井が抜けたために出来たのかとも思った、この縦穴。
だが、もとからとても短い隧道だったようだ。
短い隧道が多い林鉄世界の中でも、最短級の隧道かもしれない(全長5m程度)。
這い上がるように岩山を登頂する。
すなわちそこが縦穴の出口であった。
変貌を遂げた坑口でもある。
そして久々とは言えない外を、少しだけ高くなった視座から見渡すと、景色は予想より大きく変化していた。
かつては坑口の一方を支えていただろう素堀の壁は隧道を出るなり右へ急にカーブしていて、先端は大滝又沢の谷にぶつかって途切れていたのである。
そこで路盤は完全に寸断されている。
まるで、工事が唐突に中断されたかのように……。
うおッ!
眼下の谷底。
対岸の一角に見えるものは、主を失った橋脚残骸!!
隧道を出た軌道は即右折し、そこに惜しむらくは失われてしまった巨大木橋を架けて、対岸へと渡っていたようである。
なんとロマンに溢れた線形!!
…見たかった。
在りし姿を… 見たかった!
見るも無惨な隧道を後にして、
(思えば短いつきあいだったナァー)
巨大木橋の名残りと
愛すべき林鉄の美線形に、ココロ奪われ…
ふたりはいま、谷底へ駆け落ちる!
目指すはまだ見ぬ 終点の地!
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