2008/11/10
11:58
大滝又沢沿いには、未だかつて地図に描かれたことのない林鉄が存在するのではないか。
そんな疑問を確かめるべく細田氏と二人で晩秋の山に入った我々は、やや苦労して大滝又沢の入り口に立った。
そして、ほんの少し歩き始めたところで、隧道。
地図になイッ 隧道ッ!!
そこを這うように潜り抜けた先には、巨大木橋の残骸ッ! で・か・イッ!
まさに垂涎の好展開。
岩見三内森林軌道、大滝又支線の真実や、いかに。
厳つい名前の割に穏やかな流相をみせる大滝又沢。
流れる水の透明度は、濾過作用のある砂地の山だけあって折り紙付き。
昨日まで雨が降っていたようには思えない。
そして、そんな美しい渓の両岸に立ち尽くす、二組の橋脚。その残骸。
崩れ落ちてから、どれだけの月日が流れたのだろう。
もし…
もしもこの橋が残っていたなら…。
…そう願わずにはいられない、かなり大きな木橋だった。
高さ10m、長さ25mクラスはあったと思われる。
だが、我々の落胆はある意味予定調和的なものであった。
残念ながら、我々が育った秋田の林鉄における木橋の残存状況はきわめて悪い。
いまだかつて、秋田と名のつく土地で、橋長10mを越える純然たる木橋…その渡れるほどに原型を留めた例には、巡り会ったことがない。
冬期の多雪と、多くの谷が海側に口を開けているが故の強風、そして夏の湿潤。
あらゆる条件が、昭和中頃には全長1100kmを越えていた秋田の林鉄網から、あらゆる木橋を一掃せしめている…。
もしもの話ばかりだが、もしも「山行が」が20年早く秋田に生まれていたならば、林鉄遺構だけで満足していたかも知れない。
でも イイッ!
この“線形”は、いいものだ。
ちなみに、線形というのは、道路や鉄道の線路の連続性が描き出す空間上における形のこと。すなわち、カーブやトンネル、橋の配置など全体をひっくるめたシーンのことである。(←私流解釈ね)
自他共に認める?!「美線形マニア」であり、ことさら鉄道に関しては線形の美しさに最も惹かれている私にとって、この如何にも林鉄らしい手業の効いた線形がすごく好い。いい。
左の写真だとちょっと分かりにくいと思うから、線形をなぞった補助線を入れてみたい。
極端に短い隧道は、何のためにあるのか。
それはひとえに、橋の架設地点まで線路を延ばすためにある訳だが、この場合それだけではなくて…
そこには いたって林鉄らしい事情があると考えられる。
すなわち…。
右の地図にカーソルを合わせてみて欲しい。
始めに表示されている青線が、この路線が辿りたかった線形である。
だが、実際には赤線のような線形になっている。(隧道の崩れてしまった部分も“あったもの”として表示している)
この差が、林鉄に対してトラック運材が有利であった点である。
自動車ならば、青線のように道を通しても問題がないが、軌道ではそうはいかないだろう。
カーブに必要なアール(曲率半径)を得るために、ツッコミトンネルのようなものが必要になったのである。
以前、白神山地の粕毛林鉄跡(レポは未完)では、橋の両岸に短いカーブトンネルを持つケースに遭遇している。
このような線形は、道路ではあまりない、鉄道(林鉄)ならではのものといえるのではないだろうか。
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12:02
斜面をよじ登って対岸の路盤に到達する。
すると、浅い掘り割りとしてはっきり痕跡を留めた軌道跡が、そこで二手に分かれていたのである。
もとより地図のない探索であるから、これも予想外の出来事である。
方向的に左は大滝又支線の続きだと思うが、右も掘り割りの規模としては何ら遜色が無く、むしろ右の方が本線のように見えなくもない。
大滝又支線には、リストにもない支線が存在していたと言うことなのか。
それとも、右は軌道跡ではないのだろうか?
ここはセオリー通り、より奥地へ入り込むと思われる左の線から攻略することにした。
左折すると浅い掘り割りからはすぐに解放され、疎林とシダ類が目立つ斜面に沿う軌道跡が鮮明に見渡されるようになった。
「どこでも好きなところを歩いていいよ」
…そんな包容力さえ感じさせる、居心地の良い渓である。
序盤の荒けた砂山突破からは想像できない、理想的な展開。
何事もなく200mほど進むと、小さな枝沢に路盤は打ち切られた。
そして、またしても現れた木橋の残骸。
ああ、残念の4本柱。
小さな橋とはいっても、残っていれば間違いなく歓声ものだった。
最奥の支線らしく、橋台さえも木製だったのだろうか。
右写真のものが、おそらく橋台代わりの土留めである。
獣道より少しだけ確かな踏跡があって、我々を導いた。
橋を渡って少し進むと、さらに小さな枝沢が現れ、そこにも木橋の残骸があった。
もう、橋が絶望的であることは分かった。
隧道の再登場に期待をかけながら、やや険しさを増し始めた左岸を進んでいく。
路盤に積もった落石が、ほとんど地山と見分けが付かない状況になってきた。
明らかに先細りの展開。
必然、我々は崖に追いやられていく。
気づけば、崖の中腹同然の場所に入り込んでいた。
行く手には灌木が浅く茂る急斜面が続くばかり…。
「細田さん…。 これはもしかして?」
「終点だすべか?」
「だかもさねすな。」
終点かもしれない…。
いちおう、対岸は…?
対岸… ……
ありやがった。
またしても4本柱だ。
無念の4本柱。
分かってる… でも、
悔しい! これも、現存していれば最初の橋に匹敵するくらい大きかった。
…遅すぎたんだ… おれたち。
次回最終回。
終点まで続く、…緩慢なる死の情景…。
そして、意外な発見が待つ結末へ。
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