チクショウ!
(↑)こんな“完璧”な坑口の中が……
完全閉塞だと…?!
一瞬、この結末に茫然としてしまった。
ここまでの傾向からして、隧道にはなんとなく、貫通してくれている予想があったのだ。
だが、裏切られた……。
閉塞部の状況を見る限り、隧道内の落盤というよりは、
出口の部分が外側から埋れているような印象を受けた。なぜなら、
洞内の落盤だと天井に空洞が生じているケースが多いのだが、
それが見られない。坑口の崩壊だと天井に空洞は発生しない。
……とまあ、予想はしてみても、ここから確かめる術はない。
悲しいが、洞内からは撤退だ。
二連隧道を逆から見る、これが最初で最後の機会。
景色は美しいが、心の昂ぶりは悲愴を纏ったものだ。
次どうするか。
一応、そのプランは、もう心の中にある。
実行できるかどうかを、これから身体で確かめる。
11:23〜11:32 《現在地》
(↑全天球画像をグリグリして、私の背中を見よ!↑)
2連続隧道の僅かな間にある、このガレ場を突き上げて、
閉塞隧道を高巻きで越えるッ!!!
ここを攀じ登る!!
(……こんなとこ、通った人いないかも知れないけど……)
坑口の15mほど上に樹林帯が見え、そこまでいければ、隧道の岩場を乗り越えられそうな気がした。
行くぞ! 気張れ!
……うわ……
見下ろした景色が、マジ怖い。高度感ぱねぇ…。
隧道より下は、極めて急傾斜に落ち込んでおり、
このガレ場を滑り落ちたりはしないと思うが、万が一やったら死ぬ。
よっし! あと少しッ!!
あと少しで、穏やかな樹林帯だ!
この最後?の試練を乗り越えられるかも知れない!
11:35
さらば隧道!
俺は、お前の想定の上を行く!
この隧道を見下ろす景色は、生涯忘れることがないだろう。
これを見つけ出した自身の嗅覚と幸運な巡り合わせを、心から祝福したい! 一生の想い出だ!
11:36
(……やったぜ…、登り切った………)
(しかしここ、もし反対側から探索していたら、どういう展開になっていたんだろうな…)
(どちらにしても、とんでもなく印象的な場面になっていたのは間違いない)
(ははは……、なんと楽な世界だ…)
(“地獄”の上には“天国”があるんだ……)
(この先の嫋やかな尾根が、隧道がくぐる尾根である)
11:37
隧道直上の尾根に達した。
そしてここで、本降りのような大粒の雨が、ボタボタと落ち始める。
なんだよ、越えられた悔し涙か? もう大人しく祝福してくれよ…。
このヤマツツジに淡く彩られた尾根の切れ落ちた左側の下20mの位置に、岩壁に開いた坑口がある。
したがって、閉塞隧道の出口の擬定地は……。
あそこだ!
よっしゃー! 絶壁の裏側は、穏やかな森だ! 助かる!
眼下の坑口を目指し、久々に機敏な動きで、駆け下った!
11:39 《現在地》
「隧道5」東口跡地に無事、到達!
案の定、残念ながら、隧道の方は無事ではなかった。
すり鉢状の崩壊土砂面に、坑口は完全に埋没していた。
しかしそれにしても、この景色から反対側の坑口が置かれている立地の険しさを想像するのは難しいな。ギャップが凄い。
これが…、ラスボス戦後の世界……?
穏やかそうだ…… とりあえずは…。
が、ここで遂に、ずっと不安定だった空の堰が切れたのか、粒の大きな雨が、笹の葉を揺らすほどの勢いで降り出してしまった。
一気に全ての地面が濡らされてしまう勢いだ……。
指をくわえてみているしかないが、嬉しくない展開…。
※[お詫び] 前回の更新から1年半近くぶりの更新になってしまったので、ここまでの進行状況や探索の成果をまとめた地図を掲載する。(↓)
細かくて見えづらい場合は、クリックすると原寸で表示するぞ。
あわせて、ここまでの探索の経過を簡単にまとめると、本日朝4:48に図左下近くの「出発地点」(軌道の起点から推定0.8km付近)から探索スタート。
約7時間を経過した現在11:37時点では、起点から推定5.6km付近(出発地点から約4.8km附近)まで到達し、探索のゴール地点に設定した(自転車をデポしてある)図右上の「白砂川大橋」(起点から推定7.0km附近)まで、推定残り1.4kmとなっている。
距離のうえでも、想定した探索時間のうえでも、探索は終盤に差し掛かりつつある。
……といったところから、レポート再開。
11:48
本格的に降り出した雨の中、「隧道5」を後にして数分後の風景。
白砂川左岸の出入りが少ない単調な斜面の水面から40mくらいの高さを、軌道跡は淡々とトラバースしている。
傾斜自体はかなり厳しく、路上にも踏み跡は全く見られないが、今のところ順調に進んでいる。
11:58
さらに10分後。
景色や状況に大きな変化はないし、特筆するような変化もないが、着実に進んでいる。
雨は、強くはないが、止んでくれてはいない。
チェンジ後の画像は、雨に煙る対岸の山を撮影。
傾斜が緩やかな部分にスギ林が広がっているのが見えるが、その辺りに今朝自転車をデポするとき車で走った林道がある。もう直線距離なら1kmを切るくらいまで近づいている。
12:00〜12:06 《現在地》
全体に出入りの少ない斜面だが、小さな凹みのような谷を横断する橋の跡が現われた。
本日発見した橋台および橋跡としては通算16基目、すなわち「橋16」である。
特別印象に残る場面ではなかったが、時計を見るとちょうど正午だったので、表面がざらざらに劣化しているコンクリート橋台に腰掛けて昼メシを食った。
12:08
歩き出してすぐにまた橋。「橋17」である。
やはり橋台だけが残っていた。
常時水流のない環境下でも橋桁の痕跡は全く残らないくらいには、廃止が早いということだろう。
昭和24年廃止区間に入っているという読みも当っていそうだ。
12:13
前方の視界が開け、これまで見えていなかった遠くの斜面が見通せる場面があった。
地図と照合してみると、もう少し先に無名の支流があって、それを渡って少し進んだ辺りが見えているようだが、ちょうど童話の中に登場する“魔女の森”に生えていそうな奇っ怪な樹形の大木が何本も見えた。
何の木だろう。雨に煙る印象的な風景だ。
しかし、このまま順当に進めば、軌道跡もあそこを通ると思う。
12:16
この場所は、路盤が明らかに広くなっていた。
廃止から時間が経っているせいか痕跡が分かりづらいが、おそらく小規模な複線の跡だと思う。
もしかしたら一時期は運行上の拠点となった場所かもしれない。地形的にもあり得そうな雰囲気だ。
しかし、現状では全く人気の感じられない、本当に忘れられたような土地だ。
それはこの場面に限らず、もう半日以上も同じ軌道跡を歩いているが、ここまで沿線で現在進行形の林業を感じた場面は全くなかった。
国有林の中をこれだけ歩いて植林地はおろか、ピンクテープの一本、鉈目の一つも目にしていないというのは、特筆すべきことだと思う。
12:18 《現在地》
小さな複線跡を過ぎると、すぐに沢の音が近づいてきた。
現われたのはミウラ沢以来約1.3kmぶりの地形図に水線が描かれてる支流だが、名前の注記はないので沢の名は不明。
起点からは推定6kmのきりの良い位置である。
これまでのパターン通り、沢が近づくと路盤の状況は悪化する。
今回も白っぽい土の崩壊斜面が邪魔をしてきた。
そして崩壊地のすぐ先に、苔生した橋台が両岸に対面している姿が見えた。「橋18」である。
12:19
慎重に崩壊地を横断し、左岸の橋台に取付いたが、この橋台は酷く崩れていた。
角の部分から崩壊し、もはや原形の半分は失われていた。
だが、こんな明らかに保存状態の悪い橋であったが、この後驚くべき発見があった。
発見について述べる前に、この場所の“異臭”について書きたい。
ここにはなぜか、ヘドロのような匂いがあった。
それほど強くはないが、はっきりと鼻をつく異臭であった。
もう少し喜ばれそうな表現をするなら、硫黄のある温泉場で嗅ぐ匂いである。
匂いの出所は、いま横断した崩壊地の上、ちょうど橋台から振り返って見上げた所にあった。
周囲と風合が異なる黄色い岩場があった。
おそらくの温泉の影響を受けた硫黄を含む崖ではないだろうか。
熱気や水蒸気は感じられないものの、探せばどこかに温泉が沸いている場所があるかも知れない。
異臭のする崖を見上げていると、さらに上部の山が俄然騒がしくなった。
目を凝らして見ると、そこには野生のサルたちが沢山いて、囃すように動き回っていた。
そのせいで、私の周りに沢山の小石がポロポロと降ってきた。
一刻も早く、落石からの逃げ場がない狭い橋台を離れる必要があり、対岸へ向け移動を始めたところ――
それまで上にばかり気をとられていたせいで気付かなかった、木製橋脚を発見!!
これにはとても驚いた。
周辺の路盤や橋台の酷く古びた状態や、昭和24年に早々と廃止された区間内とみられることから、全く期待はしていなかった発見だった。
木橋の一部である橋脚が、一本だけとはいえ、まさか立ったまま残っているとは!
我が国には1300年も昔に建てられた世界最古の木造建造物が現存していることからも分かるように、木材というのは上手く条件さえ揃えば想像以上に長く保つものらしいが、この場所の条件が良いとも思えず、レアな偶然の賜物なのだろう。
絶対に林鉄が廃止された後に架けられた橋ではないという証明は難しいが、さすがにこの感じは林鉄時代の遺物だと思う。
僅かに水が流れる谷を跳ね越えて、対岸の橋台へ脇の斜面を使ってよじ登る。
写真は対岸橋台から、奇跡的に残っていた橋脚を振り返って撮影。
本当に、良く立っていてくれたと思う。
12:25
依然騒がしいサルたちに石を投げつけられながら、奇跡の橋脚に別れを告げ、いよいよ最終盤、
探索のラスト1kmへ突入!
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