神津島黒根の未成道 第3回

公開日 2014.01.04
探索日 2013.04.02
所在地 東京都神津島村

この海岸に、道は有りや無しや。



<今の状態は…?>

“ 封鎖された長いトンネルを抜けると、そこは大崩壊地だった。 ”

神津島最長の大黒根トンネルの先に待ち受けていたのは、先ほどまでの2車線舗装路とは余りに異質な風景であった。
果たしてここに道は作られていたのか、それとも工事は完全にトンネルでストップしていたのか。
今回は波濤逆巻く海岸線を歩いて、この足で道の有無を確かめる。

なお、地図を見る限り、ここから頑張って500m東へ行ければ、「返浜」という場所に辿り着けるはず。
そしてそこには何かしらの道が待っているようなので、未成道になった気持ちで、あそこを目指そう。




2013/4/2 7:45 

500m先の返浜を新たな目的地として定めた私だが、今見えているのは、150mほど先にある無名の岬である。
その先の地形は全く窺い知れない。

そして凄く気になるのは、あの岬の基部に見える顕著に凹んだ部分のことである。
私はあれが、実はトンネルの先でも行われていた道路工事の跡ではないかという、そんな希望を交えた疑惑を持った。

もしここから岬に通れるところが見えなければ、敢えて先へ進もうとは思わなかっただろう。
そのくらい、間近なところには道の気配が乏しかったのである。

また、ここから先へ行くには、自転車を連れてはいけない。
こんな道無き所を連れて行っても大変なだけだし、基本的にはこの探索が終わったらすぐに来た道を戻って神津島港へ走らねばならない、タイムリミットも迫っている。




トンネルから50mくらい進んだ所で振り返った。

………。

自然味100パーセントの海岸風景に、道もないのにポッカリ口を開けた現代的トンネルの姿は、明らかに異常。

そして、トリガーが引かれてしまったらしい神戸山の山体崩壊に今後何らかの手を打たなければ、この出来上がった坑門も、再び地底世界へ引きずり戻されることだろう…。

ここでは自然界が人工物の侵入を、意志を持って頑なに拒んでいる…?

そんな妄想さえも抱かせる眺めであった。




岬を目指して波打ち際を歩いていたが、その半ば、

私にとって重大なものが見つかった、山側の崖に。


その正体は――



これです。

落石防止ネットです。


これって……



この場所に一度は道が作られていたということだよな。

開通に至ったかは分からないが(少なくとも鋪装や路肩の施工はされていなかったようだ)、
仮に建設の途中で中止されたとしても、落石防止ネットを施工しているというのは、
とても初期の段階で中止されたとは考えにくいだろう。

やはりトンネルの先にも道は伸ばされつつあったのだ!




そういう話であれば、

外見だけでは自然地形との区別が難しかったこの地形も、

俄然、人が切り開いた“掘り割り”であったという可能性が高まった。

それも明治道にあるような細いものではなく、2車線分の幅は持つ、巨大切り通しである!!

この切り通しの如何に巨大であるかは、実際に立ち入って撮影した次の写真からも分かると思う。
そこには内部から両側の壁を同時には撮影出来ないだけの幅があった。




7:51 《現在地》

トンネルを出発して5分で、ずっと前に立ちはだかっていた、気になる穴あきの壁。

無名の岬の基部に穿たれた、巨大切り通しと思しき地点へと辿りついた。
返浜までの距離のおおよそ1/3を進んだ事になる。

だが、ここにも明確に路面と判断出来るものは存在せず、落石防止ネットも見あたらなかった。
ただただ今は、横なぐりに近い強烈な雨と風が、東京の南にあるこの島を、どこか北の冬の海のような救いがたい絶望感で覆っていた。

そして、掘り割りを越えて先へ進もうとする者に、さらなる危難が待ち受けている。
そんな雰囲気があった…。




ロ、 ロープが張られている…。

道として作られたのかが必ずしも明確でない掘り割りだったが、その出口には、これ以上人が進む事を拒もうとするものがあった。

たった1本の弛んだ黄色と黒のトラロープなど、意に介さぬ事は容易い。
しかし、それが訴えるメッセージだけは間違いなく伝わって来た。

「この先危険、入るな。」


トラロープの先に広がる次なる海岸線を見てから、さらに前進するかどうかを判断したい。

道が無いなら、私が危険を冒す意味は無いと思う…。





……無い…だろ……道…。

今私の頭上にある神戸山がこの方角に見えるはずはないのに、1kmくらい先にもその山脚を海に没する、極めてそっくりな山が見えた。
不思議に思い、GPSの画面で地図を確かめると、確かに出来損ないの神戸山みたいな等高線が、あの辺りに描かれていた。

そして返浜という場所は、あのどうにもならない山よりも手前にあるが、憎たらしいことにここからは見えないようだ。

300mくらい先に見える、波濤が白く尾を引いている小さな岬。

あの裏側が、返浜であるらしい……。


行って、行けないことは無いかも知れないが…

今度こそ、視界に人工物を疑わせるものが全く見えないぜ…。

行く意味、 あるのかなー……。






またしても、
紛らわしいものを見つけてしまう私。







【 余 談 】

ところで今回レポートを書くために、島で撮影した写真を改めて見返したところ、

探索2日目に新島から神津島へ渡る東海汽船の船上から近付く神津島の東岸を撮した写真の中に、大黒根トンネルがちゃっかり写り込んでいることに気付いた。
肉眼では遠すぎて気付かなかったようだが…。


まずは東岸の全貌を撮した写真をご覧頂こう(トンネルはアングル的に見えない)。


神津島の沖合い、おそらく5kmくらいの位置を航行中であったろうか。

このテーブルマウンテンのようなのが神津島であり、神津島の中心に聳えたつ天上山(てんじょうさん、572m)である。

こちら側の海岸線は大袈裟でなく全て絶壁で覆われていて、河口に沖積地を有する河川が皆無のため、まるで人が住む余地を感じさせない。
強いて言うなら山頂辺りが平らそうだが、さすがに人は住まんだろ……と言う感じだ。

そして神戸山一帯は、ここから少し右に視線をずらした先にある。
その方角を多少望遠で覗いた写真をご覧頂こう。

これにはよくよく見れば、大黒根トンネルが写っている。



写真の中で一番が高く見える場所が神戸山(267m)の山頂である。

そしてそこから海に落ちる山脚の先端が、島の北端をなす黒根(或いは大黒根)である。

これらの場所のヒントから、坑口を見つける事が出来るだろうか?



――最後に、電子的にズームアップした画像をご覧頂こう。



どんな野望を胸に抱いて、ここにトンネルを掘ったんだ…?

おおよそこの先の東岸に、島民の新天地も、楽園も、ありそうには見えないのだが…。