隧道レポート 新潟県道50号小出奥只見線<奥只見シルバーライン>13号湯ノ沢隧道の横坑捜索

所在地 新潟県魚沼市
探索日 2025.09.23
公開日 2026.07.17

 今も一部の地図に描かれ続けるトンネル内分岐の謎


《周辺地図(マピオン)》

私が初めて奥只見シルバーラインを探索したのは、平成18(2006)年8月のことであった。→レポート

そして今回紹介するのは、あの最初の探索から19年越しという長い時間を空けて、“ある解明”を目指した小探索だ。

実をいうと、最初の探索をした頃から、ずっとこのことは気になっていた。


(↑)それが何かといえば、私が愛用している昭文社の電子地図『スーパーマップルデジタル』シリーズに、なぜかずっと描かれ続けている、第13号湯ノ沢隧道内部のトンネル内分岐のことである。

上に掲載したのは2025年発売の『スーパーマップルデジタル(SMD) Ver.26』の画像であるが、このバージョンにもやはり湯ノ沢隧道内部から分岐する支線のような短い隧道が描かれていた。
その隧道は湯の沢という渓流の畔で地上に出て、そこからは一本道で延々と山肌を縫うように3.2kmほど南進して国道352号まで通じていた。この全線が1車線の車道のように描かれていた。実際、等高線をなぞる線形は、車道っぽい。

このシルバーラインと国道352号を結ぶ一連の道は、SMDにおいて、2000年に発売されたVer.1からずっと同じ姿で描かれ続けている。
私は基本的にSMDシリーズの最新版を2年毎に購入しているのであるが、私が所有しているバージョンでこれが描かれなかったことは一度もない。
最新版に描かれているのなら、現役のトンネル内分岐だと思うだろう。

だが、2006年の探索時に湯ノ沢隧道を通行した際は、それらしい分岐を見つけることが出来なかった。
だからレポート内でも言及はしていなかったし、意識はしたが見つからなかったということも敢えて書かなかった。後日改めて調べようと思ったからだった。

このトンネル内分岐を探したのは、その一度きりではなかった。
レポートは2006年だけだが、2012年11月にもシルバーラインを自分の車で走っている。
その時も運転席から意識を向けたが、やはり見つからなかった。

それで私の中では、相当に実在が疑わしい“謎のトンネル内分岐”ということになっていった。



実在の疑わしさを後押しするように、地理院地図にこの横坑は描かれていない。

その前身となった2.5万分の1地形図に遡っても、平成18(2006)年版や、前の平成7(1995)年版、そのどちらにも描かれていなかった。

……となるとこれはいよいよ、SMDシリーズ固有の誤表記だろうかという疑いが頭を過るが……



昭和57(1982)年版まで遡ると、このトンネル内分岐がしっかりと描かれていた!

国道352号まで通じているその姿は、最新のSMDに描かれ続けている道と瓜二つ。
これがSMDの表記の典拠となった道であることは間違いなさそう。
SMDは、どういうわけか、地形図が30年も前の平成7(1995)年版で削除したトンネル内分岐を、未だ描き続けていた。

だが、地形図とSMDの表記には微妙な違いもあった。
それは、“★印”の地点から横坑の坑口へ通じる道の有無だ。
SMDにはこの部分の道が描かれていないが、昭和57年地形図にはここに道が描かれていたのである。

そして私にはこの道に見覚えがあった。



これは2006年のレポート第4回のスクリーンショットである。

赤線の部分とその隣の写真に注目。



2006年当時、13号湯ノ沢隧道の西口にあるスノーシェッドから外へ出ると、このような鮮明な道形が見えていたのである。

草藪が繁っていたが、その気になれば自転車でも突撃出来そうな道であった。

あの道が、問題の横坑に繋がっていたらしい。

しかもそんなに遠くはない。せいぜい500m内外であろう。


これは行くしかない!



と、現地探索を紹介する前に一つ種明かしを。

昭和57年以前の地形図や、SMDシリーズに描かれている、シルバーラインと国道352号を結ぶ道の正体は、仮設工事用道路である。
昭和29年から32年にかけて建設された奥只見ダムの工事専用道路が、現在の県道50号こと奥只見シルバーラインの前身であるが、この工事の初期段階で、人跡未踏の工事現場へ人員や資材の搬入を行うため、沢山の仮設工事用道路が建設された。
これらの仮設工事用道路はごく短期間で役目を終えて放棄されたとみられるが、その跡がどういうわけか、地形図では昭和57年版まで、SMDでは最新版まで描かれ続けているのである。

2024年に探索した新潟県道576号(→レポート)は、この仮設工事用道路の一本がどういうわけか実態のない県道として認定されている不思議な道であった。



 夏藪に耐えて、謎の横坑の入口を目指す


2025/9/23 5:55 《現在地》

時空を越えて、やって来ましたこの場所へ。

ここは、12号津久ノ又隧道と13号湯ノ沢隧道の間にある小さな空間だ。
この場所のシルバーラインは前後のトンネルを繋ぐスノーシェルター内にすっぽり収まっているが、一箇所だけ谷側に開口部があり、そこから外へ出られることは2006年の探索時から把握していた。
ただ、当時は開口部に障害物があり、クルマの出入りは出来なかったのであるが、これが2025年時点では撤去され、この写真のようにエクストレイルが出られるようになっていた。

そして、実はこれが探索の実行上、非常に重要な要素であった。
というのも、皆さんご存知の通り、シルバーライン本線は歩行者や自転車の通行が禁止されているうえ、トンネル内には非常駐車帯以外の駐車スペースもないので、この場所からクルマの出入りが出来ないと、この探索を遵法内で完結することは出来なかった。

この地上スペースには車を数台停められる十分な広さがあり、刈り払いもされている。
だが、それがなんのための整備なのかは分からない。
少なくとも、私がこれからやろうとしている行為のためではないと思う。



これは地上スペースから見ることができる、湯ノ沢隧道坑口の外観。
突出したコンクリート坑口で、扁額は見当たらない。そもそもドライバーに見られることを想定してなさそうな無装飾である。

また、手前に見える無骨なコンクリートの建物は、「湯ノ沢電気室」である。
地上に出入口はなく、チェンジ後の画像のように、道路側からのみ出入りが出来る構造だ。



開口部から覗き込んだシルバーライン本線の様子。
今は早朝なので交通量はほとんどない。繋がっているトンネル内では相当遠くまで車の走行音が届くので、ここで静かだということは、前後のトンネル……合計4kmほどの区間に車はいないと思う。

チェンジ後の画像は、湯ノ沢隧道方向を撮影した。
すぐそこに見えるカーブが坑口である。
SMDの表記だと、この坑口から約400m地点にある左カーブがトンネル内分岐地点であるが、ここからは見通せないし、もし仮に見通せても、分岐が見えないことは確認済みだ。

見えないトンネル内分岐の真実に迫るためには、ここから地上を辿って分岐したトンネルが地上に現れる場所、その坑口を発見する必要があると考えたわけである。



2006年当時、この湯ノ沢隧道西口前から外へ出ると、草の中に鮮明な道形が見えていた。
この自転車が写っている場所に、今回はエクストレイルを連れてきたことになる。



2025年探索時の同じ場所。

広場が刈り払われているのは、とってもありがたいのだけど……

その先の肝心の道が……道がッ!

全く見えなくなってしまっているではないか!!(涙)



……こ、これが19年も探索を遅延させた代償か………?

だとしたら、甘んじて受けるよりない…。

ちなみに、探索の季節としては、前回が8月末で今回が9月末と、どちらも廃道探索向きの時期ではなかった。




5:56

かつて見た道形を思い出しつつ、道形があったと思われる場所へ突入した!

すると、確かに足元には平場があって、道形が続いている形跡があった。

しかし、全く踏跡も刈り払いもない強烈なジャングルに、気持ちが萎えたのは言うまでもない。

朝イチでこれってさぁ、誰だって嫌でしょうよ…。風もなくて蒸し暑いし、蜘蛛の巣が凄いんだここ…。



すぐに視界が少し開けたと思ったら、そこはゴッシャとした真新しい斜面崩壊で…。
立ったまま流れてきた木々を乗り越えて、向こう側へ。
足元の凹凸が草で見えず、傾斜がよく分からないのが面倒だった。
予想外でもなんでもなかったが、やっぱりシルバーラインの工事用道路は最悪だな。前年の苦闘を思い出している)

正直、いきなり心が折れそうだったが、地図上、絶対に目的地は500m以内にあるはずで、この近さが最大の頼りであり励みであった。
いまはただただ無心で、(最大)500mを耐え進むということを、心の柱とする。



5:59

突入から3分後。
道は少し登り坂で、しかし基本的には等高線沿いに隣の谷へと向かっている。
昭和57年地形図に描かれていた通りの進路である。



雪で押し潰されたのだろう。
スクラップのように圧縮された、おそらくアルマイト製の弁当箱であったろう薄い金属片を見つけた。いわゆる飯缶というヤツだ。
工事用道路時代のオトシモノだと思う。 …弁当落とすって、悲しすぎるが……。



6:02

藪突入から6分後。なんだか不思議と歩きやすい状況に。

あまりにも周囲の灌木が密生したせいで、光がほとんど入らなくなった路面が藪にならず持ちこたえている感じか。
あるいはただの偶然? 砂利のお陰?
まあ何にせよ、楽な歩行で距離を稼げるのはありがたい。
はっきり言って、途中には何も期待していない。どうせ記録すべき遺構なんてない。工事用道路の諦観だ。早く目的地に着きたい。



6:07 《現在地》

スタート地点から300mほど進むと、最初にいた沢筋と、その隣の沢筋(こちらが湯の沢の本流らしい)の間の尾根に達したことが、藪越しに辛うじて見える遠景の変化から分かった。
いま見えている奥の山は、湯の沢の奥であり、SMDに坑口が描かれているのは、この谷である。

そしてちょうどこの場所で、道が二手に分かれようとしていた。
藪で分かりづらいが…。
どうも右方向へ下って行く道が本線らしく、左へ水平をキープする道は、もしかしたら分岐というよりも、右の道によって切断された、より古い道の名残のような感じ。路面が切断されて段差になっていた。

どちらを選ぶか悩んだが……



6:10

どちらかを選ぶ必要はないくらい、分かれた2本の道は上下に近接して並走したまま、湯の沢の奥へ進んでいった。

そして、なぜかこの辺りには高い樹木が全く生えておらず、猛烈な草藪に覆われていた。
下段の道はススキ、上段の道は屑や灌木。
どちらも下半身が完全に埋もれる深さが有り、地面の起伏が分かりづらかった。
日も出ていないのに、とても蒸し暑く、進むのにビックリするくらい大汗をかかされた。

端的に言って、辛い。(季節を間違えた感あり)



さっきから一箇所だけ異様に盛り上がってクズが育っている場所が見えており、そこに何か人工物が潜んでいるのではないかという可能性を感じていた。

それがあるのは、“上段の道”の路上である。

1メートル進むのも大変さを感じる猛烈なクズ原の海を、滝汗を掻きながら泳ぐように進み、 “それ” に近づいた。





6:13 

こっ 坑門だッ!

シルバーライン本線とは明らかにサイズ感が違う、小さな半円形の坑門。


だが…

坑門だけが孤立している?!



これは、何かただならぬことが起きている気配が……



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