2011/9/16 5:34 《現在地》
林道土室日川線のシンケイタキ沢橋。
この無人の巨大橋から、私の新しい挑戦の幕が上がった。
最終目的地である「仮設道路2号トンネル西口」は、ここから約350m下流の地点にある。
シンケイタキ沢橋を渡り終えると、すぐに次の山口トンネル(全長550m)が口を開けている。
そして、谷底へのアプローチは、橋とトンネルのわずかな隙間に存在していた。
なお、今のところ自転車で進んでいるが、リュック以外にも2つばかり、大きなものを肩に掛けている。
どちらも重いものではないが、嵩張るので、非常に行動しづらかった。
入口に砂利が積まれ、さらに鉄パイプの車止めがあり、
路盤にも緑化工事や植栽が施されていたが、
法面のコンクリート吹き付けなどは健在で、ここはかつての工事用道路だろう。
一般車両のことなど考えていない猛烈な勾配で、一気に谷底へ下って行った。
朝日の届かぬシンケイタキ沢の谷底へ到着し、進路を反転。
正面には、直前まで私がいた巨大な橋が、門のように立ちはだかった。
道はここで無くなるが、替わりにコンクリートで固められた水路(沢)の脇が、良い通路となって私を誘った。
橋のほぼ真下で、二股の沢がひとつに合わさる。
地形図にはこちらの沢にシンケイタキ沢の注記があり、向こうは名無しだが、水量は向こうの方が多かった。
それにしても、ダム湖への堆砂を少しでも減らすために、こうして水路をコンクリートで固めているのだろうが、
見た目的には全く美しいものでは無く、自然の欠片もない“がっかり”沢だ。
小さな生物にとっても甚だ横断しがたく、或いは遡上しがたい不便な沢であろう。
適当なところで自転車を乗り捨てたが、肩に負った荷物はそのまま。
徐々に見え始めた湖畔の崖に身震いしつつ、その下にある水面を目指した。
谷の一番奥に見えているのは、水位の低下により露出した葛野川ダムの堤体である。
いよいよ湖面が広く前方に展開してきた。
ゾクゾクする。
湖畔に近付くと、コンクリート水路と化した沢は、さらに荒廃の度合いを深めた。
通常のダムよりも激しい水位の変動は、浮力と重力、湿潤と乾燥のくり返しを強要する。
生半可な生命が長らえることの出来ない、非常に苛酷な環境といえるだろう。
強靱な雑草たちでさえ、9月とは思えぬ“ポヨ生え”だった。
そして、着く。
5:46 《現在地》
朝日が射し込むより先に、静まりかえった鈍色の湖面へ到着。
最後まで模索し続けていた“地上ルート”は、結局得られなかった。
周到に準備をしてきたとはいえ、“水上ルート”は出来れば選びたくない「冒険」だった。
最終目的地まで、残りわずか150m。
このダム湖の水位を最も有力に支配する上部ダムとの排取水口を遙か対岸に見遣りながら、
しかし堤上にある管理所からは見えぬ(そして普段は無人管理)この場所で、
背徳に塗れた孤独な挑戦が、始まろうとしていた。
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“地上”を象徴するような橋に別れを告げ、
眼下5mにある汀線へ最後の下降を開始。
足元で崩れた瓦礫が、陸で止まらず水へ墜ちていった。
ガラガラとチャプチャプが、嫌に耳障りだった。
私の心は、最近ないほどにザワツイテイタ。
リュックとポシェットは、ここでお役御免。
靴も脱ぎ、リュックへ忍ばせてきたウォーターサンダルへ履き替える。
リュックはともかく、ポシェットを外すことは、普段の探索中ほとんど無いことだ。
そこには命の次に大切なデジカメ(=記録装置)をはじめ、照明など各種“オブキット”が入っているから。
しかし、今回はこれをそのまま持っていくことは出来ない。
デジカメは、小型で防水機能を持った「LUMIX DMC-FT1」のみ。
照明は、予めヘッドライトを装着していく。
食料は、ゼロだ。
そしてこれらの代わりに、担いできた“2つのオブキット”を装備する。
↓↓↓
見よ!この盤石なる装備を!
…ネタではなく真面目に、この“ダブル(W)・フォローティング(F)・キット(K)”は、イケルと思う。
というか、ネタはゴメンである。万全でなければ嫌。ただでさえ、泳ぎなんて中学以来、一度もしていないんだ。
まあ、当時はそれなりに泳げていた自覚はあったが…。
細田氏との合調が不調となってから、私は“泳ぎ”で攻略する方策を考え続けていた。
しかし、既に所有していたライフジャケット(口野隧道の探索などで使用済み)以外なかなか思い浮かばず、
その浮力の不十分さと、万が一故障した場合のリダンダンシーの薄さが、決行を決意させなかった。
だがそんなある日、我々人類が発明した“浮き輪”なる万能浮力装置の存在を思い出した。
即座にシーズンオフなりかけの値下がりした浮き輪を、楽○で注文。
直径は“大人もゆったり”の外径90cmを選んだが、これがちょうど私の腰にフィットした。
そして、浮き輪とライフジャケットを併用するというのも、我ながらナイスアイディアで、
ここまで運搬してくる面倒さはあったが、得られる安全と安心の大きさは計り知れなかった。
ダブルの安心は、私の水への恐怖心を予想以上に軽減してくれたのである。
これで、勝てる!
汀線に立つ。
水を掬ってみるが、意外に冷たくはない。
さすがは、壮大なる水たまりだ。
えらく水が濁っているのも、台風以来の濁り水を循環で使い続けているせいであろう。
上部ダム、下部ダムとも流入する生活排水はゼロだから、不衛生の心配は無い。
濁りすぎていて全然深さが読めないのは少々不気味だが…、
どうせ足が着かない深さになれば、深いも浅いも関係ないといえる。
こちらには二重の安心が付いている。
大丈夫だ。
5:47
入水開始。
入り江の奥。ダムからも橋からも見えない場所。
幸い、私の異常な行動を関知する者は、どこにも無かった。
これまで私の目に付く場所に「遊泳禁止」を示すものはなかったが、
おそらくそれは、ダムトンネル以降が既に、一般人の世界ではないからだろう。
それに、オブローダーを除いては、この湖の先に目的地を持つ者もない。
あっという間に足は水底を失ったが、私は怖じけるどころか、激しく興奮した。
ついに、禁断とも思える一歩を踏み出したのだ。
↓↓オマケ↓↓
水上わるにゃんコスチューム=WFK
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