道路レポート 林道山田入線 第3回

所在地 長野県高山村
探索日 2024.11.05
公開日 2026.07.31

 渋沢最終横断地点


2024/11/5  8:44

ダイナミックに雲が遊動し、標高1800mを越える県境の稜線が、初めて姿を現しそうだ。
いまはその下に連なる九十九折りが、途中まで見えている。この瞬間も見える範囲が変わっている。
あと50mくらい雲が上に上がれば、万座峠の鞍部が姿を現すと思う。

そして、雲が空いた空間には、焦がれた青空が出現していた。
重苦しい雲の底から始めた探索が、3時間近い時間の経過と、400m以上の上昇によって、天気予報よりも良い晴れ空へと私を導いてくれる気配があった。
ぬか喜びはゴメンである。どうかこのまま晴れてくれ!!

行く手は、荒廃した無草木の斜面である。
岩が赤茶けているのは、鉄分豊富な熱水変質帯の影響だろう。典型的な火山性荒廃地だ。
すぐ先に傾いたデリニエータが2本見えるが、そこが本来の路肩であるから、目の前の道幅は半分以上崩落している。



そして、私が背にした路肩から、このような俯瞰のもとに一望される渋沢の谷は、これまでずっと私(林道)と高さを競ってきた良きライバルであったわけだが、険しい山の地形の宿命は、道と谷の関係を長く同じ形で保たせはしないのである。
しばらく間近に見ていなかった【渋沢】は――



――崩れた路肩の20m直下に、水の見えない荒廃した谷となって横たわり、3度目にして最後の横断を目前としていた。

渋沢最終横断地点は近い。



8:46

正面の山並みが、渋沢の源頭をなす県境の稜線である。頂上だけがまだ雲に隠れている。

こちら側は信濃川水系で長野県、向こう側は利根川水系の群馬県という、紛うことなき列島の中央分水嶺だ。
中央分水嶺に来ると、過去に探索した他の色々な道が思い出される。
特に、仙岩峠や万世大路、清水峠など、私を“廃道で生きる生き物”へ作り替えた廃道たちは忘れがたい。
過去の膨大な探索の積み重ねが、中央分水嶺に対する私の特別な思い入れを形作っている。

チェンジ後の画像は、直前の道を振り返って。下界の天気はまだ悪そうだ。



ここで初めて、私自身が今日の日差しを浴びた。
舞台照明のように狭い雲間の晴れが、ちょうど私の周りにやって来た。
シラカバの枝についた水玉がキラキラ光ってとても綺麗だった。


そこから2分後――




8:48 《現在地》/海抜1660m

来ました。3回目の渋沢横断地点。
最後の3回目は、これまでのような橋ではなくて、平面交差である。

オイオイ! 川との平面交差って?!となるが、
ここは林道だからね。まあ、洗い越しってヤツだったんだろう。本来は。
現状では、その洗い越しの構造物も路面ごと土砂に埋もれてしまって、見分けがつかなくなっている。



そして、私の意識はここで、飛んだ。



……意識不明になったわけではなく……





上空の景色に意識を持って行かれたッ!!!

山がッ、完全にブチ破れッちまってる!!!




治山ダムの段段段段段!!!

人間が、この山の破滅的“破れ”に、死力と資力を尽くして、抗った形跡がある!

それは、この林道を護るためだけではなく、下流に暮らす住人たちの生命をを守るためでもあっただろう。



渋沢の源頭は、衝立のような岩の壁と県境の稜線に囲まれた、巨大な崩壊地形であった。
明らかに火山荒原の特徴を有した無草木の世界で、有名かつ近傍にある万座温泉や箱根の大涌谷とそっくりだ。
噴煙や噴気の匂いこそ感じないが、広大な谷の中には噴気活動を継続している場所があっても不思議ではない。
明らかに周囲と風景が違う。

これほど異質で巨大な地形でありながら、現状、“廃道ではない道”からは見ることができないところも、私好みかも(笑)。



これは12年前の11月4日に南志賀パノラマルートの道路上から撮影した万座峠だ。
「現在地」である渋沢源頭の巨大な崩壊地形は、遠くの山の上からも、このようにはっきり見えていた。

……万座峠に対する理想的な展望台であるこの道は、既報の通り、屈強な廃道である。



あまりの荒廃に、砂防ダムも、泣いてるぜぇ……。

なんとも凄まじい、殺伐たる、無生物界の風景であったが、景色の印象とは裏腹に、静寂に満ちていた。

水が流れる音がさらさらと聞こえる以外の音がない。鳥の音も、風の音もなかった。

そして、地面の痛々しさを慰むような空の清浄の色が際立っていた。



8:50

笹藪を脱したときから始まった歓びが、連鎖のように繋がった。
この先の展開も、大いに期待が持てるだろう。楽しみだ。

渋沢を越えたので、残るは最終九十九折り地帯だけである。
ただ、その最初の切り返しが少しだけ遠い。

渋沢が荒廃の核心であって、それを越えたこのタイミングで廃道状態を脱する展開も想定にはあったが、そんなに甘くはないらしい。相変わられずのシングルトラックだ。



8:53

渋沢最終横断地を後にして、林道は緩やかな上りトラバースを継続中。
笹藪が少し邪魔をしたが、前区間ほどの道を覆うような迫力はない。
というか、緑が全体的に元気なくなってきた。
この高度、そして火山の支配者は、植物ではなく、岩である。

チェンジ後の画像は、正面背後に聳える、岩峰を集めたような複雑な形をした山の様子だ。
地図で確かめると、これは万座山と万座峠の中間にある標高1980m程度の無名峰だった。
県境稜線上にあるが登山道はなさそう。



8:54

見えた! 次の段!

長いトラバース区間の終幕を告げる次段の道が、斜面上に白いガードレールを伴って現れた。
まだ高度差があるので、折り返しまではもう少しありそうだが、先が見えたぞ!

この先、九十九折り地帯の説明のために、@〜Fの数字を使う。
これらは@段目からF段目であることを示している。


現在地は@段目であるが、この先の九十九折りでF段目にある峠まで上る。

まずは最初の折り返しを目指すぞ。



8:56

渋沢に注ぐ無名渓流を暗渠付き築堤で横断するが、その入口のところで山崩れが起きており、道がほんの数メートル斜面化している。
一応そこにもシングルトラックがあるが、傾斜していて足場も悪いので、バイクを通すには集中力と技術力を必要としそう。自転車なら楽勝だが。

また、この場所にも強烈な硫化水素臭があった。
チェンジ後の画像は、跨いだ谷の底を見下ろしたもので、この下が特に匂った。

これを嗅ぐのは渋沢のずっと下の谷底以来であるが、噴気や硫気の噴出がどこかで継続しているようだ。
風向きによって嗅げる場所も変わってくるだろう。危険があるかどうかは未確認だが、多分みんな訪れている万座温泉とかの方が、もっと濃いと思う。



これも同じ場所で撮影した写真で、同じように振り返りつつ、今度は上を見上げている。

今いる@段目の15mくらい上に、A段目の道が見える。

そこまでは予定調和的だが、よ〜〜〜く目を凝らしてほしい。

もっと見えないか?



見えまーーす!!

A段目のさらに20mくらい上方、大きく突き出した岩の向こう側に、やはり白いガードレール戴くB段目の道が見えた!

なお、先ほど【展望地から眺めた時】に、雲の中から現れて私を感激させたのも、このB段目であった。



6:58

前方は“鬼”が潜む万座山の山腹であるが、そろそろ切り返しのカーブが近いようだ。
この辺りは路上に藪が全然ないが、路面に見えるのは本来の林道の砂利ではなく、土石流によってどこかから流入した土砂である。
転圧による締まりが全然なく、水が流れた痕の凸凹も酷い。そのためタイヤを取られて、自走は困難である。



これは同地点から撮影した、渋沢の対岸方向だ。
ようするに、渋沢最終横断地点の直前に走った辺りを振り返っている。
道は見えなかったが、中央やや左の黄色っぽい山肌が、渋沢源頭の大崩壊地だ。
後ろの雲を被った高峰は、黒湯山2007m。



うおーーーー!!!

九十九折りを描いて登っていく道が、山盛りだ!!

さっき見つけたA段目とB段目だけでなく、その先の――



おそらく最終のF段目とみられるガードレールも!!

ということはつまり、万座峠の頂上だ!

遂に捉えた! 稜線に砦のように並ぶ尖った岩の向こう側が、群馬県!

 



万座峠 まで のこり .9km



 地球が破れた中身を見て興奮する


2024/11/5 9:01 《現在地》/海抜1670m

起点からおおよそ6.4km、峠に上り詰める最終九十九折り地帯の始まりを告げる切り返しに辿り着いた。
この先あと5回切り返し、行程1.9km、高低160mを上り詰めれば、ゴールである。

ほんのり硫化水素臭が漂う切り返しのカーブ一帯は、まるで涸れた川底のような路面状況。
モトクロスのコースだったらこれが良いんだろうが、自転車を漕ぐには無理があった。

さあ、A段目へ行こう!



九十九折りの先々が、山のそこかしこに見えている!

あの上にも、そのずっと上にも、万座峠に車を通そうとした先人たちの証しが、燦然と!

切り返したので、ちょっと前に振り返って見た景色に近いものを、今度は正面進行方向上に眺めることになった。
だが、1段上がったことで見え方に変化があり、飽きなかった。
この景色を今から自分の車で走破することが、楽しみで仕方がない。



一方で、眼下にはさっそく、直前に走った@段目の道が見下ろされた。
こちらもこちらで、うっとりする。

だがそれも当然であった。最近こそ人通りは絶えかけているが、ここは古くより本邦山岳美の主役として愛されてきた、志賀草津高原の中心的エリアに含まれる。そこに雨あがりの紅葉という好条件が重なれば、景色が一級ではない道理は全くなかった。



前方、峭刻たる岩壁が複雑怪奇に盛り上がる。
とてもこの上に道が収まっているとは思えないような景色だが、実際に道はいる。
忠実に九十九折りの道を辿っていく以外の手段で、私には到底克服し得ない地形である。

相変わらず涸れ川の底みたいな路面に苦戦しながら、突き当たりの右カーブを曲がると……。



9:03

道わる〜〜!

これまでも道幅の大半を喪失している路体欠壊現場や、笹藪という障害はあったが、道そのものが“大崩壊”していると感じる場所はなかったかったように思う。

ここは初めて、“大崩壊に片足突っ込んでる”くらいの壊れ方をしている。
落石と土砂の流入、そして路体の欠壊が、30mくらいの長さにわたって複合して発生していて迂回も出来ない。
ここまで頼りになった先人たちのシングルトラックも、あるのかないのか微妙な感じだ。
間違いなく、担げない乗りもの同伴で通行するには、これまでで最大の難所である。
しかし逆に言えば、担げる私、徒歩の私にとっては、進行不能となるような心配はしていない。

それよりも……




また意識が飛ぶ〜〜〜!

最高にハイなところにB段目がいるぅ〜〜! たまらんち会長だ!

廃道だから凄いというのではなく、この道の景色はもともと凄いなこれ。
“ヨッキの日本百廃道”にノミネート&上位入賞確定だ。
走って楽しい道の魅力を短文で伝えるプロである『ツーリングマップル』の編集者が、私を強く誘う「豪快」の二文字を使って魅力を伝えようとしたことは、まさに的確であった。

こういう豪快な道を見たときには、ある言葉を叫ぶことがチャリ馬鹿トリオの通例だったが、それを久々に思いだしてしまったから、おそらく34年ぶりに独りで叫んだ。

ゴウカイザー!!!」

「ゴウカイザー!!!」

「ゴウカイザー!!!」

「ゴウカイザー!!!」





豪快に山彦となって岩根を響かせた、ゴウカイザー。

豪快にチャリを担いで突破だ!



9:05

一旦路面が復活したが、この先にも規模の大きな法面の崩壊がある。

チェンジ後の画像は、崩壊地の上にある岩の壁を見上げている。
B段目の道がこの岩を横断しているが、真下からだと道は見えない。
上の堅そうな黒い岩石は冷え固まった熔岩だろう。下の白い部分は熱水変質帯で、これが激しく崩れている。

この道の周囲にあるのは、普段間近に見る機会の少ないナマの火山地形だ。
そういう場所を通る道が珍しいし、環境保護がやかましくなった国内で、今後二度とこんな道は再生産できない。



次の崩壊地には、バイクを通すために作られた、先駆者の執念が宿っていた。
斜面を乗り越えるシングルトラックの路肩部分を補強するように、わざわざ外から持ち込まれたらしき木板が2枚並べられていた。前時代を思わせるような、受益者の自主性に基づいた道路維持活動が息づいていた。こういう景色を見ると、私は嬉しい。



9:07

これまで最大の難関を、執念のシングルトラックとともに、無事突破。

さあ、次!



9:08

思い出したように、笹藪地帯。

そしてこれをモッソモソと通り抜けると、その瞬間に――




9:09

渋沢源頭の大荒廃地が眼前に再出現!

九十九折りを切り返してきたことで、同じ対象を“A階部分”から眺めることになったのだが、A階といいながら実際には高層ビルの@階と屋上くらいの落差があって草も生えない。

実に前回横断地点より40m高い位置での再会である。



しかし今度は横断することはなく、直前で180度切り返してのB段目へ突入する!

巨大な岩の塔が守り神のように背後にそそり立っている。
これもおそらく火山由来の地形で、火道内のマグマが硬化して出来た岩頸ではないかと思う。
例の“鬼の角”も含めて、この山域には日本離れした妙な岩塔が多すぎる!



9:13 《現在地》/海抜1700m

第2の切り返しから見る、渋沢源頭部。

ここで遂に標高1700mの大台へ。

左折するとB段目だが、なぜかここから右へ危険な源頭部へ近づくような広場が用意されていて……

逝けば、この世の地獄のような見晴らしが…!



渋沢の源頭には、地球の中身が破廉恥に剥き出されていて、爆裂した火口壁を思わせた。

こんな谷がまともな水を産するはずもなく、この下流が渋沢という飲めないことを意味する名付けとなったのは理解できる。

だが、本物の火口壁とこの場所の違いとして、人間が中に入り込んで構造物を作ったかどうかというのがある。

ここには赤黒く変色した無数の治山ダムが築造されていて、おそらく私がいる広場も、その作業場に由来しているのだろう。

自然×人間、 これこそが私を殺す組み合わせ。

景色の荒涼度合いが酷すぎて、思わず戦隊もののロケをしたくなった。(イエローが火口に滑落ッッ)



遙かな下方に、既に通った@段目の道が明らかに異常な姿で横たわっていた。

でもこれは廃道になってしまったからこんな景色というのではなく、生来の姿であろう。それがまた驚きだ。

性能がピーキーすぎて現代を生きられない廃道には、人類を試す道として大きな価値を持つものが沢山あったと思う。

林道山田入線、恐るべしだ。



………………も し か し て ?

また天気が崩れはじめている……?

さっきまで晴天が大きくなっていた県境上空が、再び濃いガスに消え始めたような……。



ムッ!

ムムムッ!!!

錆びたレールが広場のそこかしこに散らばってるぞ……。

ただ、何かの形状に加工されているようであるが。なんだこれは?
円いレールにはターンテーブルを想像したが、流石に円周が小さすぎて、これじゃプラレール用だ。
(正体は後ほど判明した)



“地球の中身”に別れを告げて(どうせまたどっかの素掘りトンネルで出会うだろう)今度こそB段目へ!




万座峠 まで のこり 1.5km






当サイトは、皆様からの情報提供、資料提供をお待ちしております。 →情報・資料提供窓口

このレポートの最終回ないし最新の回の「この位置」に、レポートへのご感想など自由にコメントを入力していただける欄と、いただいたコメントの紹介ページを用意しております。あなたの評価、感想、体験談など、ぜひお寄せください。



【トップページに戻る】