2024/11/5 9:19
B段目突入! するとすぐさま、道を埋め尽くしたガレ石の堆土斜面を横断する。
ずっと共に戦ってきたシングルトラックは、ここで再び掻き消えた。
一応道形はついているが、踏み固められていないゴロ石のトラバースで、自転車を押して通行する。路肩が何もないので、自走は怖すぎる。
大抵において、自転車はイージーモードのようなものだ。
一方、重量があって担げないバイクは、ハードモードだと思う。
そういう認識があるから、難所が現れる度に、「ここは自転車だから簡単だけど、バイクはどうしたんだろう」みたいなことを自然と考えている。自分の余裕(マージン)を再確認することで、安心を得たい心の動きなのかもしれない。決して、ハードモードをやりたいとは思ってないぞw
9:21
突破した崩壊地を振り返って撮影。
ここは現在進行形で崩れているようで、横断するトラックが特に薄かったと思う。
チェンジ後の画像は、路肩から見下ろす下界方向。
少し前に見た時よりも、雲の層が下から濃くなってきている感じがする。
日差しが射している場所も全くなくなってしまった。
少し前まで上天の7割くらいが青空だったのに、幻を見たのかと思うほどに、山の天気は猫の目だった。
9:23
ここだと思う。
@段目で【雲の間から現れて感激】
し、A段目でも【見上げた高度感に感激】
した、切り立つ岩場に巻き付けられた白亜のガードレールは。
火山荒原環境のために草木がほとんど育たず、こんなにも藪に邪魔をされない、豪快な景観になっているのだ。
これはここまでたどり着いた全員が、私のように興奮したんだろうなぁ……。
9:24 《現在地》/海抜1720m
この絶壁の縁に残された岬の突端のような謎の平場が、開通当初の路肩であったのかもしれない。
先ほどの広場で私が見つけた廃レールを丸く加工した物体が、ここに使われていたのである。
正体は、ガードレール(文字通りのレール!)であった。
現在の路肩にあるガードレールと、この崖の縁すれすれのガード廃レール。
その間の1メートルの間隔が、この道が生まれてから管理放棄されるまでに増えた安全マージンであろう。
そう考えると、開通当初のこの道がどれくらいヤバかったのかという想像がはかどる。
だってこれ、路肩から下の段を眺めた時に取っていい俯角の限度を超えてる!!
なんで下の段が 真下 に見えるんだよ! 空撮かよ!
これはもう、なんつ〜〜とこに九十九折りを捻じ込んだかと、設計者に大三時間くらい問いたくなる道だ。
……で、これをもし実際に問うたら、回答は多分、「それしか方法はなかった」 って言われるんだろうな。
そんな、普通なら登っていけないような崖混じりの急斜面を、この九十九折りは――
――諦めないッ!!
最後まで食らいついていくッッ!!!
そしてその果てに――
遂に峠の頂上を、完全に肉眼で目視!出発からおおよそ3時間半、残り1.2km地点である。
残る高低差はあと約120m、これをあと4回切り返しながら、無理矢理に上り詰める。
無理矢理だよこれはどう見ても! 地球くんは、これをきっと許容していない。
特に最後のF段目、あんな“魔王城の尖塔”みたいなとこをブチ通るなんて、設計者は畏れを知らなすぎる!
……あと、俺の青空どこ行った?! なんて暢気に思っていたら……
怖っ!! ほんの30秒ほどの間に、こんなに濃いガスに包まれてしまった。
アッという間に、いままで下に見えていた道が見えなくなる。
湖畔で遊んでいたら急に水位が上がって逃げ場もなく溺れるような感覚。 1700m越えの高山は怖いッ!
9:27
路上の勾配が、これまでで最も厳しい水準となる。
喘ぎながら、屈強な者どもの刻んだシングルトラックを辿る。
どんどん高度が上がっていく実感があり、間もなくCDEF段目が折り重なる、最後の斜面下へ。
最後の斜面は、下の方が樹林帯で、上は“魔王城の尖塔”だ。それが上信国境の稜線である。
この信州尽きるまで、登り切れ!
喘ぎ登りながら、ペダルまで沈むほどのヌマ〜ンを一つ突破し……
9:29 《現在地》/海抜1740m
長かったB段目が終わり、C段目が始まる切り返しへ到達。
ここの海抜1740mは、東北地方の全ての車道の最高地点である、宮城県の蔵王ハイラインの高度である。
すなわち、これより上は、全ての東北の道よりも高い。
皆さまお住まいの県には、これより高い道があるだろうか。
最終九十九折りは深い霧の中で溺れながらやれというのが、徳を積んだ私の結末。
稜線の方向が、見る見るうちに見えなくなっていくが、泣いても笑ってもこれがラストだ。
やってやろうじゃね〜か!
万座峠 まで のこり 1.0km
2024/11/5 9:30
B段目からC段目への切り返しには、オートバイほどの大きさがある赤茶けた巨石が、通せんぼをするように、道のど真ん中に居座っていた。
葉を揺らすほどの風もなく、私が動きを止めているときは、完全な静寂に包まれた。
ここから先、峠の頂上まで、地形図に描かれているのは九十九折りだけである。
万座峠へ突き上げる最後の“壁”に、立ち向かう。
C段目に入ると、すぐにD段目への切り返しが霧の向こうに透けてきた。
だが、おそらく本路線中もっとも急な勾配と、劣悪な路面状態が、短い区間を引き延ばす。
かつて刻まれた最後のダブルトラックのなれの果てが、洗掘された深い溝となって邪魔をしてくる。
「2つ3つと切り返し重ねて、先へ進んだ。」
もしも平凡な九十九折りであったなら、そんな一文で先へ進むことに吝かではない。メタい話だが、別に私はカーブの一つ一つを全て紹介しなければならない呪いを受けているわけではないし、レポートを引き延ばしたい事情があるわけでもない。むしろ後が詰まっている。
しかしここには省略できるような平凡が全然ない。
9:32
D段目への切り返しは、酷く崩れていた。
切り返し上部の斜面が、広範囲にわたって山崩れを起こし、道を押し潰している。
これ一つでも、道の廃止を決断する決定打となりかねないような規模に見える。
しかも悪いことには――
――この崩壊は、地図上で直上に近接しているE段目をも寸断している畏れがあった。
見上げた崩壊斜面の上部は、ガスに覆われてよく見えない。
しかし、相当の斜度を持つ粘土質の斜面は、いかにも滑りやすそうで、しかもぐしょ濡れ。
もしこれを正面から横断しろと言われたら、無理かもしれない。
この探索中初めて、自転車(イージーモード)でも突破きるかという明確な不安を感じたのである。
この崩壊がまだ新しく見えることも、前歴がなさそうで、不安を駆り立てる要素であった。
そんな先行きへの不安を抱えながら、滅茶苦茶に壊れたカーブを折り返す。
D段目へ。
9:33
D段目も、C段目と同じくらいの急勾配だ。
そして、ちゃんとシングルトラックがついている。
ここまで来れば、距離的に考えても峠側から入り込んだ轍の方が多そうだ。
それはきっと、この先のE段目に誰も通れないような崩壊はないという意味だろう。そうだろう。
この段も距離は短い。
すぐに折り返した先にあるE段目のガードレールが霧の中に浮かび上がってきた。
9:35
次の段が近寄ってきたが、そこが道として息をしているのか心配になるくらい、背景が不穏である。
巨大な得体の知れないシルエットが、幾つも道の後ろの空に並んでいるのは、なんなのだ。
何かの不手際を覆い隠そうとするかのように、ガスはますます凝集している。
密度の限度を越えたところから、煙雨が零れ始めた。
万座峠という長い歴史を有する峠は、当然に車道化がなされるべきだと計画者は考え、使命感をもって実行したものと思う。
彼らはある種の全能感を人にもたらす機械土木の力で、元の地形が分からなくなるほどに高密度な九十九折りを据え付けることによって、極めて安定性に乏しい火山性の斜面を平らげて道を付けた。難工事をヒロイックに克服し、遂に峠まで車道を到達させた。
華々しく前途ある開通を祝う【巨大な碑】
を、私は探索の始めに見せつけられている。
しかし、開通後に関係者が思い描いていたような利用がなされたかについては、甚だ疑問だと言わざるを得ない。
この道が、オフローダーや山チャリスト、あるいはごく稀に現れる“オブローダー”を喜ばせることを企図していたのなら話は別だが…。
ちょうどこの切り返しの真下に、5分前にいた一個下の切り返しがあった。
探索中としては稀に見る霧の濃さだ。視距20mくらいだろう。
アタマの中には盛んに、林道がこれをしているイメージが湧いていた。
こちらは頭上方向。
E段目と、その上に最終のF段目が見えている。
なんの遠慮も配慮もなく、無草木の崩壊斜面をジグザグに行ったり来たりしながら登っている。
「 ごめん。壊しちゃった。 」
よく漫画とかに登場する力の加減を知らない怪物が、人間をうっかり“壊してしまった”ときに悪びれもせず言うあのセリフを、この道路設計者は地形に対して言いそうだなと、そんな説明する文字数が長い想像をした。
……壊れちゃったねぇ……。 もう元には戻らないよこれは………。
そして別の現実的問題として、もしも懸念しているような突破不能の崩壊がE段目の途中に現れた場合、最悪、この斜面を攀じ登れればゴールできると言うことを、アタマの中に思い描いた。
このことは一応覚えておこう。そうならないのが一番だが。
……いや、むりだな。
前言ならぬ前考撤回。直前に思索した方法での突破は、実際は無理であると考え直す。
地続きであることと、辿り着けることが同一ではない。
たとえそれが九十九折りの一段分だけだとしても、無理なときはある。
そもそも、この最終段は妙に高低差が大きく、見えているガードレールまで優に30mの落差があった。
しかも、非常な急傾斜のため、段と段の間にも重力式擁壁が設置されていて、とても登れそうになかった。
9:40
切り返してE段目を進行中。
この道自体、ある種の特殊性癖者のアトラクションになっている。
ワルい道を、敢えてワルいコンディションで探索出来ていることに、ことさら興奮している。ここに来た奴らは全員そうだと思う(偏見)。
ネットリと重い大気の中に、ときおり鼻をつく硫臭があった。
生命感が、ここにはない。火星の霧の日みたい。
峠の前でこれなら、越えた先の群馬県に生命がいるのか心配だ。あの有名な毛無峠以上に、群馬県境にヤバさがある。
霧の火星になにかの金属片が落ちていた。
ワイヤレスイヤホンのオーパーツでなければ、バイクのどこかのパーツじゃないの? 誰か壊したんでしょ?
9:41
E段目も、林道としても稀に見る急坂になっている。
まさに、道は死力を尽くしているという感じがする。
お陰で、最終段のガードレールは確かに近づいてきているが、それでもまだ手は届かない。
距離だけでなく、圧倒的な斜度にも隔絶されている。
この道を崩壊から護るべく、多数の擁壁が斜面を埋め尽くしている
この中で道が乗っているのは一番上だけだ。下にあるのは治山のための擁壁である。
険しすぎる地形の一部を人工物で置き換えて、コンクリートの砦にしてから道を据え付ける作戦は、青ヶ島の三宝港を連想させた。
人類の砦が、人知れず朽ちかけていた。
9:42
過去に見慣れた平凡な笹藪さえ、ここにおいては印象を異にする。
世界が白に融けそうだ。本当に先が見えなくなっている。
そして、この最後かもしれない平凡は、1分も続かずに――
耐えたッ!!!
道はギリのギリで下段の道に由来する大崩壊を凌いでいたッ!
その核心部の小さな欠落を埋める形で、シングルトラックの幅しかない強度不明、由来不明の木製渡り板が設置されているが、これもおそらくは道路管理者の手配ではないんだろう。どんなに小さな工事現場でも必ずある木杭もない。
強度不明ではあるが、当然これに生命を懸ける。
このときほど、自転車のイージーモードをありがたいと思ったときはない。
世のバイク乗りは、ここを突破するのか。だとしたら、その技術と度胸は私の想像を超えている。
バイク乗りの皆さんの意見が聞きたいです。とりあえず、板の強度は十分あるという条件で、通れるかどうか。
私が一番怖いと思ったのは、この狭さだ。自転車は押したり担いだりして十分に通れるが、バイクだと押せるのかこの幅で…。
ここまで登ってきて突破出来ないというのは、かなり癪に障るとは思うが、無理は禁物ですぞ……。
9:44
……とりあえず、私については救われたようだ。
誰かが作っておいてくれた草の根の道に、感謝!!
こういう道が作られるくらいには愛されてるんだなぁ、やっぱりここは。
その価値については、私のやっすいお墨付きもくれてやる!!
万座峠 まで のこり 0.6km
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