17:00 《現在地》
今しがた私の場所の日は落ちた。ここからは1日の探索時におけるロスタイム的な部分に入る。だがもちろんここまで来たからには、写真の写りや遺構発見に不利はついても、終点到達という目的達成までやるつもりだ。
……といった状況で……
なんだこの可愛い景色は!www
林道第11号隧道の隣にぽっかりと口を開けているのは、もちろん我らが早川林鉄の隧道だ!
軌道としては通算21本目の隧道(及び隧道擬定地)であり、林道第8号隧道脇での発見(通算18本目)以来の遺構として現存している廃隧道だった。
サイズ感の違いも露骨に出ている。たかだか幅4.5mの林道トンネルの脇にあるのに、比較してこんなに小さいのはヤバいだろ。
たぶん多くの読者に正確には伝わっていなかっただろう、この林鉄ならではの小断面ぶりが一番よく分かる場面だ。
4分の1どころじゃないんだよな。幅は3分の1、高さは2分の1で、断面積は6分の1くらいしかないと思う。
なお、林道の進路上には、次のトンネルを通り越して一つ先の第12号隧道も見えており、実はその先の左カーブにはギリギリで第13号隧道の坑口まで見えている。深沢右岸の5連続トンネルの2〜4本目が、この場所から一通しに見えるのである。
果たして、軌道の方はこのような複雑な地形をどんな手口で通過していたのか、お手並み拝見と行こう。
楽しみも、苦しみも、全ては終わりに近づいている!!
軌道と林道の路面と高さが揃っているのも、観音経隧道以来初めてのことだ。
おかげで変な段差もなく、ガードレール代わりの鋼管の柵を跨ぐだけで容易くアプローチが出来た。
入口に迫ったとき、出口の代わりに目に入ってきたのは、洞内に集め寄せ置かれたような数本の廃レールたちだった。
通常敷かれているレールより明らかに曲がりが強いものと直線のものが何本かあったが、いずれも通常のワンスパンよりも短く、かつ銀色に塗装されていた形跡があった。
これらのレール、はかつて林道のガードレールに転用された資材ではなかったかと推理した。答え合わせは出来ないが、おそらく間違ってはいまい。
さて肝心の洞内は……
大落盤ッ閉塞ッッ!!
入口が全然崩れていなかったのに、入った直後にこれは意表を突きすぎだッ!
唐突すぎて、ちょっと笑ってしまった。
まるで人為的に塞いだみたいな綺麗な土山だが、わざわざ入口でない場所を塞ぐ理由はない。
天井に地層に沿った深い空洞があり、明らかに天然の崩壊であった。
そしてその天井のクラックには、ザックすらもデポして超絶身軽になっていた私が、すぽりんと通り抜けられるだけの空洞があった!
肉体の門!
「肉体の解放こそ人間の解放である」。
この隧道を見つけたら誰もが覗き込むとは思うが、隣にトンネルがあるのに、通り抜けようとここまでする人は少ないだろうから、出口の状況次第では、この先は人類が初めて到達する空洞(それはさすがにウソ)であるが……。
モゾモゾッとヨッキ虫が這い出しまして……。
洞内カーブ&レールッ!
何この至福シチュ?!
どれだけオブローダーとしての徳を積んだらこんな景色に出会えるのかと思うくらいの至福の光景ではないかッ!
いや、マジでこれは徳を積みすぎたか?!
早川林鉄の隧道内で敷かれたレールを目の当たりにしたのは、これが3本目だ。
1本目は、今日の午前中6:46に遭遇した廃隧道で、内部には錆びきってボロボロになったレールとともに、いつから置き去りか分からぬ寝袋らしきものが散乱していた。あれは間違いなく、廃止後無作為のレールであろう。
だが2本目の14:32から観音経で遭遇した廃隧道内部のそれは、『トワイラ〜』も解き明かしていたとおり、明らかな廃止後作為の復元レールと復元枕木であった。
今回の3本目は、どちらであろうか?
立地的には、2本目のそれに近い「林道からの近さ」を持っているが、言うまでもなく、無作為のものであろう。
根拠は、レールの激しい錆び具合が自然であることと、枕木の朽ち方も同様であることだ。
なお、早川林鉄の路盤で敷設された枕木を目撃したのは、この2日間を通じて、昨日の最序盤6:11以来の超久々のことだが、あそこのレールはほぼ間違いなくドノコヤ鉱山絡みで後年再敷設された軌間610mm鉱山軌道用途であったと推理しているから、純粋な早川林鉄用の枕木は初めて発見したと思う。
地味に超レア凄い発見!
出口アリガトウッ!!
あとこの隧道がもう一つ凄いのは、全長30mに満たないほどの短さながら、全体が綺麗な(おそらく)固定半径の右カーブで通されていることだ。
戦前の林鉄隧道は、設計の簡便さや技術水準の低さから、直線線形の隧道が圧倒的に多く、曲がるとしても崖際で地形に沿って不規則にカーブするものや、出入口付近で地上進路に合わせてカーブするものが大半だ。
だがこの隧道は、谷と谷に挟まれた狭い尾根を貫くために、短い洞内の全体を使って30度くらいも曲げている。
軌道の線形を重視した高度かつ合理的な設計だと感じる。
……こんな小断面&ヘロヘロレールで、今さらという感じもしないでもないが……。
おかげで、素晴らしいシチュを体験できたぞ!
探索者として、久々に“ご褒美”を貰えたと感じられる1本だった。
17:06 《現在地》
えらく濃かったが短い地底探索から戻ると、地上では6分が経過していた。
チェンジ後の画像は、林道からの終点側坑口の振り返りだが、こちら側もなんとも綺麗に横並びである。
ついに柵もないので、今までで一番入りやすい状況だ。ここだけ手入れされた公園みたい。
というわけで、第11号隧道終了。 お次ッ!! あと3本!
3本目のトンネル「第12号隧道」と、その直前に架かる「二之沢橋」。
このトンネルが貫く尾根は、直前のそれと比べて一回り以上は大きくて険しい岩尾根だ。
果たして軌道跡があるかどうか……。薄暗くなり始めているせいもあって、まだ判断をしかねる。
17:07
あるッ!軌道跡アルルッ!!
しかもこのカンジはっ!!
隧道が連鎖ッ!!
ここまでの頑張りを報いる展開が、私にためにちゃんと用意されていた!
うれしい……。
17:08 《現在地》
やったぜ!!
日没後のロスタイム的探索に、欲する成果が集中してやって来た!
これまた探索のご褒美と呼ぶに相応しい、素晴らしい隧道ではないか!
直前の片洞門から、吸い込まれていく感じが堪らない。
坑口前のハングのキツさも、もしも【未踏の“隧道B”東口】
に辿り着けたらこんな感じかもしれないという雰囲気があった。
短いッ!! そして全く崩れていないッ!
奈良田以奥の早川林鉄で発見、あるいは過去存在していたことが予測される隧道としては通算22本目となる本隧道、長さは3mくらいしかないが、毎日掃き掃除でもされているのかと思うくらい洞床が綺麗だった。天井にも欠けたような形跡がなく、ほぼ完全に原型を止めていると思われた。
ほんと、現役の遊歩道トンネルみたいな綺麗さだ。
単に崩れていないだけでなく、草とか泥とか遊歩者に嫌われそうなものが全くないので余計そう見える。わざわざ綺麗な白い砂利を敷き詰めたみたいな見栄えだし。
あまり綺麗なので、逆に違和感というか、疑問がよぎる。
それは、ここにひとつ前の廃隧道にあったような枕木やレールが残っていないのはなぜなのか、ということだ。
残っていないのは撤去されたからだと考えるのが普通だと思うが、ほとんど隣接している2本の廃隧道のうち片方だけのレールや枕木を撤去するというのは不自然で、むしろ逆で、さっきの隧道にあった枕木やレールはやはり後年の復元品だったのではないかという、一度は自身で否定したはずの疑惑が再燃してきたり……。
いや、違った!
レールはあった!
が、自然に分解されて、消えかけていた。
驚いたことに、レールを粉砕した残骸のようなものが、洞床にいくつも散らばっていた。
単にレールを撤去するのであれば、こんな粉々にする必要はないし、しようと思っても難しいだろう。
レール同士を締結するペーシやモールが取りつけられたままのレールが、こんなに細切れになっている光景など、他では見たことがない。
この異常な事態の原因として、一つは土壌の中の何かの成分が極端に錆を進行させているということが考えられた。
だがもしそうだとしても、それだけではあるまい。何らかの人為も加わっているのは確かだろう。
レールが自然に溶けたとしても、こんなに食い散らかされた残骸みたいに散らばらないだろうし、残骸自体も少なすぎた。
やはり林道に近い場所にあるレールは、野呂川林道建設時に撤去が試みられたのだと思う。
だが、その時点でよほど腐食していたとか、何かの原因で放棄されたものの残骸というのが、現状の説明として説得力がある説だと思う。
17:09
早川林鉄は、山梨県営であることや、立地の険しさ、存続期間の極端な短さなど、特異な部分の多い林鉄である。
そんな特異さの一つとして、廃止後も撤去されずに放置されたレールが多くあるということも挙げられる。
だが、それはやはりイレギュラーの結果であったろうと思う。
なぜなら、昨日歩いた区間のほぼ全線(“尾根F以南”)のレールは、あれほど険しく人跡未踏を感じさせる状況にあっても、ちゃんと撤去されていた。
レールが撤去できない区間があったのは、大規模崩壊など、已むに已まれぬ事情の結果(=イレギュラー)であったことを物語っている。
現在林道化している観音経以奥も、林鉄の廃止時点では全てのレールが残ったままだったろうが、昭和30年代の林道建設時に可能な限り撤去・搬出を行ったのだと思う。
今いる場所は林道化から漏れているが、林道に近いので一緒にレールを撤去をしたのだろう。
ここまで探索した林道沿いのいくつかの軌道跡についても、レールは残っていない場所の方が多かった。
その時点で撤去が可能だった場所は、ちゃんと撤去したのだと思う。
(そう考えると、さっきの隧道の崩壊は林道建設当時からなのかも。それでレールの撤去を諦めた可能性が…)
17:10
美しい隧道に別れを告げ、前進を再開。
30mほど先に見える林道に向かって、切り立った崖道を歩いて行く。
遊歩道みたいだったのは隧道内だけで、やっぱり間違いなく廃道だったと再認識。
(チェンジ後の画像)路肩に太い丸太を井桁に組んだ低い桟橋の残骸が残っていた。
林道建設以降に、この部分の軌道跡を再整備する理由は全く思いつかないので、おそらくこれはちゃんと軌道時代の桟橋の遺構だと思う。
木造橋の残骸を見たのは、昨日の15:18以来だろうか。
この路線の木橋の数は、小規模な桟橋も含めれば百を優に越えていたと想像するが、やはり木橋の残存は特別に難しいのだと分かる。
17:12
たった5分ぶりくらいに林道に戻ってくると、そこは三之沢橋。
だが意表を突いて、林道路面との間にまた2m近い高低差が出来ていた。
またしても林道が軌道跡を鋭利に切断していたのである。
やっぱり遊歩道なんかじゃなかったな(笑)。
足を庇いながら控え目に飛び降りて、林道の第12号隧道脇軌道跡を終了!
深沢の林道5連続トンネル、残りあと2本!
くっ!
林道第13号隧道脇にも明確な軌道跡の存在を目視できたが……
林道の坑門が邪魔をしていて、こちら側から接近不可能である!
いつかも見たこのパターン……、またしても林道が叛逆を……!
しかも、今度のトンネルはこれまでの2本よりもやや長く、50mくらいある。
それだけ旧道たる軌道跡の長さもあるだろう。
この流れなら隧道もあるかもしれない。
……が、それは自分の足で確かめてみろ、ということなのだ……。
(チェンジ後の画像は、石垣をズームで撮影。地味に石垣も珍しい。こんなものでさえろくに残っていないのが、早川林鉄の荒廃度であった)
…………。
17:13 《現在地》
第13号隧道をくぐり終えると、最後のトンネルである5本目の第14号隧道が既に待ち構えていた。
軌道跡の有無が気になるが、まずは、残してきたものに決着を付けよう。
くぅ〜〜〜。
ここまで来てなお抗うか。
ここでは軌道跡と林道路面の落差が3mほどあり、またしても林道によってそれは断たれていた。
落差だけでなく水平方向の隔たりも同じくらいあり、どちらも地形次第では全く問題にならない程度の距離だが、ここでは林道の落石防止ネットが邪魔をしていた。それを迂回しては行けない地形である……。
こんな金網を横移動や縦移動して先へ進むなんてのは、『スーパーマリオワールド』でしか見たことがない動作だ。
果たして、過去一度も行ったことがないそんな動作を、私は行えるのだろうか。
失敗したら、たぶん崖下へ落ちるぞ……。
これ、ふざけてるわけじゃなくてマジで大変なんだけど、でもこれがなければないで登れなかった可能性は大だ。
いずれにしても、完全に“ご褒美ラッシュ”は終わってる……。
やるしかないか……。
17:17
たどぉりついたぁ〜〜!
ホントナニヤッテンダヨ。
もしこんなところで滑落死してたら、死体を発見する人も、不思議だろうな。
いったい何をしたかったんだろうかって、絶対に大きな謎になると思う。
隧道があるかどうか確かめたかったんですなんて、死人にくちなしだからな。
でもいいんだ。
これで確かめられるはずだ。
『トワイラ〜』にもなかった答えを!
17:18
隧道は、無かった。
(ご褒美ラッシュ終了してんだもんよ……)
この第13号隧道脇の軌道跡は、片洞門を駆使しながら忠実に岩崖の縁を回り込んで、反対側へ通じていた。
しかし良いんだ。確かめたことに価値がある。
17:19
また、完全に起点側の端部までは歩けなかった。
ちょうど尾根の先端を回り込んだあたりで路盤が切れ落ちていて、多少無理すれば(例えばここを越さないと先へ進めない状態なら)越せそうな状況に見えたが、足も痛いし時間もないし、何よりこの区間の全体に視界は通ったことから、満足して引き返した。それが写真の場所である。
チェンジ後の画像は、同地点から撮影した、鷲ノ住尾根から深沢までの林道である。先ほど歩いた道を深沢越しに見ている。
やはり総合的には深沢も険しい谷だった。今までの恐々たる谷たちと変わることはなかった。
林道まで撤収!
17:21
再び“配管工”の真似事をさせられつつ、無事林道へ帰還。
これで残す林道トンネルは、あと1本!
泣いても笑っても、次で最後!
もう成果的には満足しきっていて、どんな形でもゴールできれば万々歳という状況だが、どうせならね、最後の1本にも軌道跡があって欲しいなぁ。贅沢かな。
終わると思ったら、やっぱりね、少しは名残惜しいよね。
まだ帰り道があるけどね。
ありがとう!!
最後も、ちゃんとあってくれるんだ。 ……俺のためにかな。
しかも、ご褒美と言うほどではないが、突入は難しくない段差だった。
イクゼ、最後の軌道跡ッ!
17:22
わずか30〜40mという長さの第14号隧道の外側を巻く軌道跡へ突入。
最後だと思うから特にそう感じるのだろうが、これがなんとも早川林鉄らしい景色と状態の軌道跡だった。
恐ろしく切れ落ちた底知れぬ急崖の縁を、怪しく点綴して延びる軌道跡だ。
滑り易い落ち葉や、隠された転び石、躓きを誘う岩など、見えない地味なトラップが無数に潜んでいる。
そのどれか一つでも命を奪う凶器になりかねない、そういう危うい軌道跡を2日で延べにして20kmくらい歩いた。
結構行ったり来たりしているからな…。
それでも私は生きて還る。
私の一番楽しい場所を、血塗られた悲しい場所にしたくないから。
次のカーブが、おそらくこの尾根の突端だろう。
なお、この区間にもレールは残っていない。林道工事が行われた当時は、撤去の作業が出来る状況だったのだろう。
17:24
ここが、この最後の尾根の突端だ。
隧道はなし。
確かに、確かめた。
間もなく空の台車を終点へ引き揚げて、今日の仕事も上がりだ。今日も生き残った。
そんな安堵の心で、この場所で向こうの白い山々に手を合せたトロ夫もいたかもしれない。
ここは谷の上なのになぜか風もなく静まりかえっていて、霊峰を遙拝する祭祀場のような何か神妙な気持ちにさせられる場所だった。
17:25
はははっ! それでこそだなッ!
この最後の短い軌道跡も、尾根を回り込んだところで、執拗に切断されていた。
こんな短い区間にも、突破の出来ない場所が度々現われるのだ。
やはりここはオブローダーにとって、日本最凶の軌道跡だと思う。
もし林道がなかったら、終点深沢尾根への到達という目標達成には、あとどのくらいの苦労を要しただろう。
終点だけならともかく、途中区間には永遠に謎のままで終わる場所が、無数に生じただろうな…。
なお、ここも突破は出来なかったが、約20mほどの未踏破路盤の先に林道のガードレールが見え、未踏破区間の全体に視線が通ったので、見落とした隧道などはないはずだ。
林道へ撤収!
林道の第14号隧道を通過。
直前に引き返した軌道跡の続きが、この出口に合流してきているが、その様子はというと……
17:27 《現在地》
1mも入れなかったです(笑)。
最初からすっぱりと切れ落ちていて、桟橋でも架かっていたのか分からないが、道がない。
その欠落した3〜4mの向こう側には、鏡みたいな崖に張り付いた狭い路盤があり、さらに10mほど先に、反対側からも見えた路盤があった。
両側からの視界がドッキングして、この区間も確認完了!
これで、深沢右岸の5連続隧道を完遂。
林道から外れて軌道跡が存在する箇所の探索を、全て終えた。
(最終到達目標)
深沢尾根 軌道終点 まで (推定)1.0km
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